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追放の神子
あんたのためじゃない 2
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意外と愉快な男を同行者に選んでしまった。シェルティオンは再び頭上に目を向けて笑う。
「あの穴が見えるでしょう?」
「無視はよくねぇんじゃないかな?」
エディンドルが眉を下げて口を挟むと、シェルティオンはニコニコと笑んだまま辺りを見渡した。頭上に比べて辺りは薄暗い。塞がり切らない穴から届いた光だけでは辺りを明るくできず、大小様々な瓦礫が影を濃くする。
「本来ならこの辺りの瓦礫を吸収して……」
「ねぇ、聞いて?」
わざとらしく首を傾げシェルティオンはエディンドルに目を向けた。目が合うとエディンドルは手を合わせて頬の横に倒す。
可愛らしい仕草にシェルティオンは首を振る。エディンドルは酒場併設の娼館に護衛として雇われていそうな面構えだ。そういった仕草をすると可愛らしさよりも憎らしさがあった。
これがギゼラならば……考えて、シェルティオンはもう一度首を振る。子供に泣かれ強面の大人達に道を開けられても、シェルティオンにとってギゼラは愛しくて可愛い存在だ。比べるまでもない。
「話をそらしている最中ですので……すみませんが、ダンジョンのお話をしますと」
「認めるのかよ! しかも続けんのかよ!」
反応の速さに再び笑いそうになりながらシェルティオンは説明を続けた。他人の背中を蹴飛ばしたことや心の準備のことより気になることがシェルティオンにはあった。
先ほど見上げていた穴がおかしいのだ。
見上げた時から穴の大きさは変わらず陽の光を落としていて、陽の光が入り込む位置も影の濃さも変わっていない。シェルティオン達が落下してからあまり時間が経っていないようだ。
しかしのんびりと会話をする時間はあった。それにも関わらず変化のないダンジョンに、シェルティオンは眉を顰める。
「本来ならば降りてる最中にどんどん穴が無くなる感じになると思うのですが……」
「え、やだ怖い……」
エディンドルは自らの身体を抱きしめ恐々と穴を見上げた。つい先ほどまで今にも足踏みをしそうな様子で抗議をしていた勢いが、しゅんと萎んで消える。
「今まであの方法を私は使ったことがありませんので盛大に破壊した際どうなるかは知りませんが」
「知らねぇのかよ! てか初めてなの? もしかして体感した以上のヤバい橋渡っ……落ちてるからもはやそういうことじゃねぇの……?」
しゅんとしたのも束の間、エディンドルは音が出るような勢いでシェルティオンに振り向いた。そして目を見開き、シェルティオンに詰め寄った。落下の衝撃から立ち直れないのか、足場が悪いせいか。ポンポンと出てくることばの割に足の動きはぎこちない。
シェルティオンはエディンドルを難なく避け別の瓦礫に飛び移り、陽光から逃げるように歩き出す。
「一層くらいならすぐ瓦礫を回収してあっという間に治って挟まれたりするものですから」
「いや、一層は壊したことあんの? つうか、挟まれて大丈夫なの?」
先ほどとは打って変わって素早く別の瓦礫に移り、エディンドルも陽光から逃げ出した。陽の当たる範囲は穴を空けた際にできた瓦礫が積みあがっていたからだ。ダンジョンが瓦礫を回収して穴を修復する際、その場に立ったままでは修復に巻き込まれる可能性がある。シェルティオンもエディンドルもそれを避けたのだ。
「落ちる速度と登る速度は違うものですから」
「答えがなんか違うような違わねぇような、とにかく怖ぇんだけど……」
「今回確認した限りではゆっくり修復しているようですので……命の危機はありませんよ」
シェルティオンはそういいながら、陽の当たらない場所へとどんどん歩を進めた。ダンジョンの修復作業に巻き込まれないようにするためと、目的地に向かうためである。
「ねぇ、明確な答えねぇほうが怖いんだけど? ねぇ!」
エディンドルも命の危機から脱するためにシェルティオンの後に続いた。すでに落下の衝撃を忘れてしまったのか、エディンドルの動きにぎこちなさはない。
「この世には知らない方がいいことがあるといいますでしょう? 大丈夫です、生きていますから」
「生きてるけども!」
「そんなことよりもここがどの層でどのあたりかを確認しないとなりません」
シェルティオンが落下しながら層を数えた限りではあと三層下りれば中層と呼ばれる階層に行ける。目的地は深層に入る一層手前だが、随分と時間と道のりを短縮できたとシェルティオンはほくそ笑む。
「みこ……アルゼライト殿と違った話の聞かなさだ……」
どんなに他人の話をそらそうと、シェルティオンは現状しなければならないことをしている。ぼやきながらもエディンドルはシェルティオンに従い辺りを見渡しながら歩く。
シェルティオンはその様子を確認して、壁があるだろう方向へと足を向けた。明るい場所から暗い場所に来たばかりで、まだ目が馴染んでおらず辺りは見えづらい。
幸いにもこの層の壁際は近く、瓦礫が少ない場所にあった。レンガや石が積み上げられた壁ではなく、岩を削りだしたものでもない。緩やかで丸いとも思える溶けたような岸壁と泡を割った瞬間に固まったような岩肌、両方が存在した。
シェルティオンは暗がりに馴染んできた目を頭上に向け、ゆっくりとこの層の天井を探す。穴は未だふさがっていないが壁に沿って上を見れば天井が確認できた。天井は壁と同様の岩だが、こちらは今にも溶け落ちそうな岩である。天井をたどっていくと遠くに尖った影がうすぼんやりと姿を現した。
頭上を見上げたまま、シェルティオンはぼそりと呟く。
「まずい、穴だ」
「いや、今更かよ!」
呟きに声を上げたエディンドルは壁際にあった石を持っていた。声に反応しエディンドルを見たシェルティオンはその石を見て眉間に皺を寄せる。
それはいくつか層のある石の破片で、簡単に割れそうな薄さだった。
「開けたものではなく……目の壁、です」
「あの穴が見えるでしょう?」
「無視はよくねぇんじゃないかな?」
エディンドルが眉を下げて口を挟むと、シェルティオンはニコニコと笑んだまま辺りを見渡した。頭上に比べて辺りは薄暗い。塞がり切らない穴から届いた光だけでは辺りを明るくできず、大小様々な瓦礫が影を濃くする。
「本来ならこの辺りの瓦礫を吸収して……」
「ねぇ、聞いて?」
わざとらしく首を傾げシェルティオンはエディンドルに目を向けた。目が合うとエディンドルは手を合わせて頬の横に倒す。
可愛らしい仕草にシェルティオンは首を振る。エディンドルは酒場併設の娼館に護衛として雇われていそうな面構えだ。そういった仕草をすると可愛らしさよりも憎らしさがあった。
これがギゼラならば……考えて、シェルティオンはもう一度首を振る。子供に泣かれ強面の大人達に道を開けられても、シェルティオンにとってギゼラは愛しくて可愛い存在だ。比べるまでもない。
「話をそらしている最中ですので……すみませんが、ダンジョンのお話をしますと」
「認めるのかよ! しかも続けんのかよ!」
反応の速さに再び笑いそうになりながらシェルティオンは説明を続けた。他人の背中を蹴飛ばしたことや心の準備のことより気になることがシェルティオンにはあった。
先ほど見上げていた穴がおかしいのだ。
見上げた時から穴の大きさは変わらず陽の光を落としていて、陽の光が入り込む位置も影の濃さも変わっていない。シェルティオン達が落下してからあまり時間が経っていないようだ。
しかしのんびりと会話をする時間はあった。それにも関わらず変化のないダンジョンに、シェルティオンは眉を顰める。
「本来ならば降りてる最中にどんどん穴が無くなる感じになると思うのですが……」
「え、やだ怖い……」
エディンドルは自らの身体を抱きしめ恐々と穴を見上げた。つい先ほどまで今にも足踏みをしそうな様子で抗議をしていた勢いが、しゅんと萎んで消える。
「今まであの方法を私は使ったことがありませんので盛大に破壊した際どうなるかは知りませんが」
「知らねぇのかよ! てか初めてなの? もしかして体感した以上のヤバい橋渡っ……落ちてるからもはやそういうことじゃねぇの……?」
しゅんとしたのも束の間、エディンドルは音が出るような勢いでシェルティオンに振り向いた。そして目を見開き、シェルティオンに詰め寄った。落下の衝撃から立ち直れないのか、足場が悪いせいか。ポンポンと出てくることばの割に足の動きはぎこちない。
シェルティオンはエディンドルを難なく避け別の瓦礫に飛び移り、陽光から逃げるように歩き出す。
「一層くらいならすぐ瓦礫を回収してあっという間に治って挟まれたりするものですから」
「いや、一層は壊したことあんの? つうか、挟まれて大丈夫なの?」
先ほどとは打って変わって素早く別の瓦礫に移り、エディンドルも陽光から逃げ出した。陽の当たる範囲は穴を空けた際にできた瓦礫が積みあがっていたからだ。ダンジョンが瓦礫を回収して穴を修復する際、その場に立ったままでは修復に巻き込まれる可能性がある。シェルティオンもエディンドルもそれを避けたのだ。
「落ちる速度と登る速度は違うものですから」
「答えがなんか違うような違わねぇような、とにかく怖ぇんだけど……」
「今回確認した限りではゆっくり修復しているようですので……命の危機はありませんよ」
シェルティオンはそういいながら、陽の当たらない場所へとどんどん歩を進めた。ダンジョンの修復作業に巻き込まれないようにするためと、目的地に向かうためである。
「ねぇ、明確な答えねぇほうが怖いんだけど? ねぇ!」
エディンドルも命の危機から脱するためにシェルティオンの後に続いた。すでに落下の衝撃を忘れてしまったのか、エディンドルの動きにぎこちなさはない。
「この世には知らない方がいいことがあるといいますでしょう? 大丈夫です、生きていますから」
「生きてるけども!」
「そんなことよりもここがどの層でどのあたりかを確認しないとなりません」
シェルティオンが落下しながら層を数えた限りではあと三層下りれば中層と呼ばれる階層に行ける。目的地は深層に入る一層手前だが、随分と時間と道のりを短縮できたとシェルティオンはほくそ笑む。
「みこ……アルゼライト殿と違った話の聞かなさだ……」
どんなに他人の話をそらそうと、シェルティオンは現状しなければならないことをしている。ぼやきながらもエディンドルはシェルティオンに従い辺りを見渡しながら歩く。
シェルティオンはその様子を確認して、壁があるだろう方向へと足を向けた。明るい場所から暗い場所に来たばかりで、まだ目が馴染んでおらず辺りは見えづらい。
幸いにもこの層の壁際は近く、瓦礫が少ない場所にあった。レンガや石が積み上げられた壁ではなく、岩を削りだしたものでもない。緩やかで丸いとも思える溶けたような岸壁と泡を割った瞬間に固まったような岩肌、両方が存在した。
シェルティオンは暗がりに馴染んできた目を頭上に向け、ゆっくりとこの層の天井を探す。穴は未だふさがっていないが壁に沿って上を見れば天井が確認できた。天井は壁と同様の岩だが、こちらは今にも溶け落ちそうな岩である。天井をたどっていくと遠くに尖った影がうすぼんやりと姿を現した。
頭上を見上げたまま、シェルティオンはぼそりと呟く。
「まずい、穴だ」
「いや、今更かよ!」
呟きに声を上げたエディンドルは壁際にあった石を持っていた。声に反応しエディンドルを見たシェルティオンはその石を見て眉間に皺を寄せる。
それはいくつか層のある石の破片で、簡単に割れそうな薄さだった。
「開けたものではなく……目の壁、です」
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