17 / 22
17☆遠回り
しおりを挟む
冷たい声が、僕の脳内に響き渡る。ついに、告げられてしまった。覚悟をしていたとはいえ、辛い。
「……ご飯、美味しくなかった?」
しばらくの沈黙の後に僕が発したのは、くだらない内容だった。我ながら何を言っているんだ、と思ったが、十夜は少し動揺したように見える。
「いや、ご飯は最高だったよ。毎日こんなご飯を食べることができたら、幸せだと思う」
そこまで言ってくれるとは。お世辞を言うような性格ではないから、恐らく本心だろう。
こう言ってもらえただけで、満足だ。もう思い残すことはない。
十夜は目を伏せ、観念したように告げる。
「俺は、お前を騙していたんだ」
「……知ってるよ」
こちらも白状すれば、十夜は目を見開いて、驚愕していた。
「この家も、前から準備してたんでしょ」
「……知ってたのか?」
コイツらしからぬ、呆けた顔で見つめられる。もっと、気まずそうな雰囲気になるかと思っていたのに、そんなに驚いたのだろうか。僕まで釣られて間抜け面になってしまう。
「知ってたのに、俺のためにご飯を……?」
「あ、それは……僕もお前に優しくしてやりたいって思って……」
最後にせめて、恋人らしいことをしたかった。そこまで言おうか悩んでいると、十夜が勢い良くガタッと立ち上がる。
「光輝、それは……認めてくれるってことか?」
「え……?」
何を認めると言うのか。言っている意味が分からなくて、首をかしげた。
「俺はこの想いを、貫いていいんだな?」
真剣な顔で言われたセリフに、ああ、そうか、と理解する。
十夜には恐らく、想い人がいたのだろう。僕と別れて、本来好きだった子への想いを貫くということだ。目の前ではっきり言われてしまうと、悲しい。
「うん……」
目を反らしながら答えると、立ち上がっていた十夜が近づいてきた。腕を掴まれ、ひょいっと椅子から立ち上がらせられる。何が何だか分からないまま、気づいた時には抱き締められていた。
「光輝……ありがとう」
「なっ……」
お礼を言われるのは良いが、抱き締められる意味が分からない。いったい何を考えているのか。
「離せよっ……!」
「光輝?」
腕の力が弱められた隙に、力を籠めて身体を押し離した。
「こういうことは、僕としちゃ駄目だろ!」
必死で抗議するが、目の前の十夜はぽかーんとしている。はっきり言わないと分からないのだろうか。
「……どういうことだ?」
「だから、お前、好きな子がいるんだろ!?こういうことは好きな子とやるものじゃないか……って……」
僕が言い終わらないうちに、十夜は頭を抱えだした。コイツがこんな、明らかに苦悩している姿は初めて見る。しばらくぶつぶつ何か言っていたかと思うと、最後に大きな溜息をついた。
「あぁ……はっきり言っていなかった俺が悪いのか……」
「何の話……?」
かなり動揺しているうえに何か反省しているらしい。触れてはいけない秘密に触れてしまったようで、ヒヤヒヤしながら声をかけた。すると、急に顔を上げて睨まれる。
「光輝」
「ひぃっ」
近づいてきた顔に怯えてしまったが、なんだか十夜も緊張しているような様子だ。
「お前が好きだ」
「……え……?」
「お前を、ずっと前から俺のものにしたかった」
その言葉を聞いた耳から、熱いものが身体中を駆け巡る。全身の血が激しく流れ出したような感覚だ。
(コイツが、僕のことを好きだって――!?)
とても信じられない。信じられないのだが、さすがにこんな状況で嘘をつくとは思えない。しかし、そう簡単には本気にもできない。
「うそ……」
頬に触れてきた手が熱く感じる。
「本当だよ。お前と一緒に住みたくて、この家を契約しておいたんだ」
「一年も前から……?」
「ああ」
いくらなんでも先走り過ぎだろ、と思うが、コイツならやりかねないとも思った。それが本当だとすれば、確かにすべてに合点がいく。
「マンションが完成して、なんとかお前と同居にこじつけようとしていた時に、あの一件があったんだ」
「あ……」
あの一件とは、プロデューサーの娘さんと遭遇した時のことだろう。
まさか、コイツの脳内にそんな計画があったなんて。
「上手く同居することはできたが……お前を傷つけてしまったな」
「ばか……早く言ってよ……」
今度こそ、十夜を信じることができた僕は、その場に崩れ落ちた。顔から火が出そうなほど熱い。
そんな僕を、十夜が包み込むように抱き締める。
「光輝、悪かった。今日からまたやり直そう」
「うん……」
僕もコイツも本当に馬鹿だ。なんて遠回りをしていたのだろう。
顔を上げると、優しい口づけが降ってきた。恥ずかしいのに、抵抗することができない。
もう気持ちを隠す必要の無くなった僕は、そのまま心地よい感触に身を委ねた。
「……ご飯、美味しくなかった?」
しばらくの沈黙の後に僕が発したのは、くだらない内容だった。我ながら何を言っているんだ、と思ったが、十夜は少し動揺したように見える。
「いや、ご飯は最高だったよ。毎日こんなご飯を食べることができたら、幸せだと思う」
そこまで言ってくれるとは。お世辞を言うような性格ではないから、恐らく本心だろう。
こう言ってもらえただけで、満足だ。もう思い残すことはない。
十夜は目を伏せ、観念したように告げる。
「俺は、お前を騙していたんだ」
「……知ってるよ」
こちらも白状すれば、十夜は目を見開いて、驚愕していた。
「この家も、前から準備してたんでしょ」
「……知ってたのか?」
コイツらしからぬ、呆けた顔で見つめられる。もっと、気まずそうな雰囲気になるかと思っていたのに、そんなに驚いたのだろうか。僕まで釣られて間抜け面になってしまう。
「知ってたのに、俺のためにご飯を……?」
「あ、それは……僕もお前に優しくしてやりたいって思って……」
最後にせめて、恋人らしいことをしたかった。そこまで言おうか悩んでいると、十夜が勢い良くガタッと立ち上がる。
「光輝、それは……認めてくれるってことか?」
「え……?」
何を認めると言うのか。言っている意味が分からなくて、首をかしげた。
「俺はこの想いを、貫いていいんだな?」
真剣な顔で言われたセリフに、ああ、そうか、と理解する。
十夜には恐らく、想い人がいたのだろう。僕と別れて、本来好きだった子への想いを貫くということだ。目の前ではっきり言われてしまうと、悲しい。
「うん……」
目を反らしながら答えると、立ち上がっていた十夜が近づいてきた。腕を掴まれ、ひょいっと椅子から立ち上がらせられる。何が何だか分からないまま、気づいた時には抱き締められていた。
「光輝……ありがとう」
「なっ……」
お礼を言われるのは良いが、抱き締められる意味が分からない。いったい何を考えているのか。
「離せよっ……!」
「光輝?」
腕の力が弱められた隙に、力を籠めて身体を押し離した。
「こういうことは、僕としちゃ駄目だろ!」
必死で抗議するが、目の前の十夜はぽかーんとしている。はっきり言わないと分からないのだろうか。
「……どういうことだ?」
「だから、お前、好きな子がいるんだろ!?こういうことは好きな子とやるものじゃないか……って……」
僕が言い終わらないうちに、十夜は頭を抱えだした。コイツがこんな、明らかに苦悩している姿は初めて見る。しばらくぶつぶつ何か言っていたかと思うと、最後に大きな溜息をついた。
「あぁ……はっきり言っていなかった俺が悪いのか……」
「何の話……?」
かなり動揺しているうえに何か反省しているらしい。触れてはいけない秘密に触れてしまったようで、ヒヤヒヤしながら声をかけた。すると、急に顔を上げて睨まれる。
「光輝」
「ひぃっ」
近づいてきた顔に怯えてしまったが、なんだか十夜も緊張しているような様子だ。
「お前が好きだ」
「……え……?」
「お前を、ずっと前から俺のものにしたかった」
その言葉を聞いた耳から、熱いものが身体中を駆け巡る。全身の血が激しく流れ出したような感覚だ。
(コイツが、僕のことを好きだって――!?)
とても信じられない。信じられないのだが、さすがにこんな状況で嘘をつくとは思えない。しかし、そう簡単には本気にもできない。
「うそ……」
頬に触れてきた手が熱く感じる。
「本当だよ。お前と一緒に住みたくて、この家を契約しておいたんだ」
「一年も前から……?」
「ああ」
いくらなんでも先走り過ぎだろ、と思うが、コイツならやりかねないとも思った。それが本当だとすれば、確かにすべてに合点がいく。
「マンションが完成して、なんとかお前と同居にこじつけようとしていた時に、あの一件があったんだ」
「あ……」
あの一件とは、プロデューサーの娘さんと遭遇した時のことだろう。
まさか、コイツの脳内にそんな計画があったなんて。
「上手く同居することはできたが……お前を傷つけてしまったな」
「ばか……早く言ってよ……」
今度こそ、十夜を信じることができた僕は、その場に崩れ落ちた。顔から火が出そうなほど熱い。
そんな僕を、十夜が包み込むように抱き締める。
「光輝、悪かった。今日からまたやり直そう」
「うん……」
僕もコイツも本当に馬鹿だ。なんて遠回りをしていたのだろう。
顔を上げると、優しい口づけが降ってきた。恥ずかしいのに、抵抗することができない。
もう気持ちを隠す必要の無くなった僕は、そのまま心地よい感触に身を委ねた。
0
お気に入りに追加
65
あなたにおすすめの小説
【完結】イケメン騎士が僕に救いを求めてきたので呪いをかけてあげました
及川奈津生
BL
気づいたら十四世紀のフランスに居た。百年戦争の真っ只中、どうやら僕は密偵と疑われているらしい。そんなわけない!と誤解をとこうと思ったら、僕を尋問する騎士が現代にいるはずの恋人にそっくりだった。全3話。
※pome村さんがXで投稿された「#イラストを投げたら文字書きさんが引用rtでssを勝手に添えてくれる」向けに書いたものです。元イラストを表紙に設定しています。投稿元はこちら→https://x.com/pomemura_/status/1792159557269303476?t=pgeU3dApwW0DEeHzsGiHRg&s=19
こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件
神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。
僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。
だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。
子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。
ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。
指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。
あれから10年近く。
ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。
だけど想いを隠すのは苦しくて――。
こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。
なのにどうして――。
『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』
えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をご覧になるとより一層楽しめるかもしれません)
ハイスペックストーカーに追われています
たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!!
と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。
完結しました。
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
神獣の僕、ついに人化できることがバレました。
猫いちご
BL
神獣フェンリルのハクです!
片思いの皇子に人化できるとバレました!
突然思いついた作品なので軽い気持ちで読んでくださると幸いです。
好評だった場合、番外編やエロエロを書こうかなと考えています!
本編二話完結。以降番外編。
絶滅危惧種の俺様王子に婚約を突きつけられた小物ですが
古森きり
BL
前世、腐男子サラリーマンである俺、ホノカ・ルトソーは”女は王族だけ”という特殊な異世界『ゼブンス・デェ・フェ』に転生した。
女と結婚し、女と子どもを残せるのは伯爵家以上の男だけ。
平民と伯爵家以下の男は、同家格の男と結婚してうなじを噛まれた側が子宮を体内で生成して子どもを産むように進化する。
そんな常識を聞いた時は「は?」と宇宙猫になった。
いや、だって、そんなことある?
あぶれたモブの運命が過酷すぎん?
――言いたいことはたくさんあるが、どうせモブなので流れに身を任せようと思っていたところ王女殿下の誕生日お披露目パーティーで第二王子エルン殿下にキスされてしまい――!
BLoveさん、カクヨム、アルファポリス、小説家になろうに掲載。
ストレスを感じすぎた社畜くんが、急におもらししちゃう話
こじらせた処女
BL
社会人になってから一年が経った健斗(けんと)は、住んでいた部屋が火事で焼けてしまい、大家に突然退去命令を出されてしまう。家具やら引越し費用やらを捻出できず、大学の同期であった祐樹(ゆうき)の家に転がり込むこととなった。
家賃は折半。しかし毎日終電ギリギリまで仕事がある健斗は洗濯も炊事も祐樹に任せっきりになりがちだった。罪悪感に駆られるも、疲弊しきってボロボロの体では家事をすることができない日々。社会人として自立できていない焦燥感、日々の疲れ。体にも心にも余裕がなくなった健斗はある日おねしょをしてしまう。手伝おうとした祐樹に当たり散らしてしまい、喧嘩になってしまい、それが張り詰めていた糸を切るきっかけになったのか、その日の夜、帰宅した健斗は玄関から動けなくなってしまい…?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる