上 下
6 / 22

06☆物件見学

しおりを挟む
「うわぁ、なにこれ、すごく良いじゃん!」
十夜が見つけた物件は、なんと新築のタワーマンションの上階の部屋だった。
本当に出来たばかりのマンションで、どこも清潔で輝いている。防音の個室もあり、歌やダンスの練習もできそうだ。
それ以外の設備も最新式なものが揃っているし、部屋も広々としている。快適な生活が送れること間違いなしだ。
「よくこんな物件があったなぁ」
「ああ。しかも場所も良いしな」
僕がはしゃいでいると、十夜も気を良くしたのか、嬉しそうに返事が返ってくる。
そうなのだ。この物件は場所もちょうど良い。事務所へも行きやすく、交通ルートも安全そうだった。
「あ、こっちにも部屋がある」
「そこは寝室だな」
僕はうきうきしながら寝室のドアを開ける。しかし、部屋の中を覗いた瞬間、僕は固まった。
目の前に広がるのは、ある意味期待通りの美しい寝室に、高級そうな大きなベッドが一つ。
そう、ベッドが一つなのだ。
「ね、ねぇ……ベッドが一つしかないんだけど……」
「ああ、カップル向けの物件らしくて、最初からクイーンサイズのベッドがセットされてるんだって」
「そ……そうなんだ……」
確かに、普通に考えて、この家に暮らすのは夫婦や恋人同士だろう。男二人でルームシェアするような所ではない。
これは部屋を作り変えてもらわないといけないな、なんて考えていると、予想外な言葉をかけられた。
「俺達もカップルだから問題ないな」
「へっ!?」
あまりの内容に、すっとんきょうな声を出してしまった。何を言っているんだコイツは。
「大きなベッドだから、二人で寝ても今までより広いよ」
「それは確かに……って、いや、そうじゃなくて!」
二人で寝ても十分ゆったりとできそうなサイズだけれど、そういう問題ではない。
僕達が一緒に寝るなんて、どう考えてもありえない。
それなのにコイツは、どうして僕が焦っているのか理解できない、といった様子で首をかしげている。
今何を言っても無駄な気がして、僕は諦めた。実際に寝る時になれば、コイツもさすがに気づくだろう。

「それにしても、この物件高そうだなぁ……」
とりあえず寝室問題は置いておいて、話題を変えた。これだけ良い条件だと、きっと家賃も高いはずだ。
「ああ、それは大丈夫。俺が出すよ」
「え!?」
予想外の言葉に驚いてしまう。
「いや、そんなわけにはいかないよ!」
「いいよ。お前は実家に仕送りしてるだろ?」
僕達は売れているので、お給料もそれなりに貰っている。しかし、僕の実家はあまり裕福ではないので、仕送りをしていた。学費の返済もまだ残っている。
十夜の実家はお金持ちなので、稼いだお金は自分の自由になっていた。とはいえ、使うこともないので貯金していると前に聞いたけれど。
「で、でも……」
僕が困っていると、十夜がばつの悪そうな笑みを浮かべた。
「じつは……もう契約しちゃったんだ」
「ええ!?どういうこと!?」
衝撃的な発言を聞いて、思わず叫んでしまう。
「今すぐ契約しないと売り切れてしまうって言われて……」
「ああ、なるほど……」
確かに、これだけの良物件ならすぐに売り切れてしまう可能性はありそうだ。だからといって、即決してしまうなんて。
「それに、俺はこの部屋にお前と住みたいんだ。これは俺のわがままでもある。だから、お願いだよ」
そんな風に言われてしまうと、断りきれない。僕と住むというのはさておき、こんなに良い条件の物件を見てしまったら、絶対に住みたくなる気持ちは分かる。
「じゃあ……ありがたく甘えることにするよ。でも、生活費はちゃんと支払いさせてくれ」
「ああ、分かった!」
そう言って笑う十夜はとても嬉しそうで、僕はそれ以上何も言えなかった。

こういうのを、甲斐性のある男と言うのだろうか。女の子からしたら理想の男性なんだろうな、と思う。
そんな男が、僕のために色々してくれているということに、何だか優越感を抱いた。
「お前が気に入ってくれて良かったよ」
いつの間にかすぐ近くに十夜の顔があり、何故かドキッとしてしまった。理想の男性だとか、そんなことを考えていたからだろうか。なんとなく気恥ずかしくなって、目をそらす。
「まぁ、悪くはないかな」
素直に褒めるのも悔しくて、ひねくれた態度で答えたが、コイツは気にも留めない様子だった。ムッとされるかと思ったのに、余裕のある感じがやっぱりむかつく。

「じゃ、早速引っ越し業者に連絡するな」
「え!?今!?」
いくら契約済とはいえ、見たばかりの物件にもう引っ越しするなんて。冗談だと思いたいが、コイツの目は本気だ。
余裕があるんじゃなくて、早く引っ越したくてむしろ余裕がなかったのかもしれない。
すぐさま電話をかけ始めた十夜を見ながら、僕は小さく溜息を吐いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

白雪王子と容赦のない七人ショタ!

ミクリ21
BL
男の白雪姫の魔改造した話です。

【完結】イケメン騎士が僕に救いを求めてきたので呪いをかけてあげました

及川奈津生
BL
気づいたら十四世紀のフランスに居た。百年戦争の真っ只中、どうやら僕は密偵と疑われているらしい。そんなわけない!と誤解をとこうと思ったら、僕を尋問する騎士が現代にいるはずの恋人にそっくりだった。全3話。 ※pome村さんがXで投稿された「#イラストを投げたら文字書きさんが引用rtでssを勝手に添えてくれる」向けに書いたものです。元イラストを表紙に設定しています。投稿元はこちら→https://x.com/pomemura_/status/1792159557269303476?t=pgeU3dApwW0DEeHzsGiHRg&s=19

こっそりバウムクーヘンエンド小説を投稿したら相手に見つかって押し倒されてた件

神崎 ルナ
BL
バウムクーヘンエンド――片想いの相手の結婚式に招待されて引き出物のバウムクーヘンを手に失恋に浸るという、所謂アンハッピーエンド。 僕の幼なじみは天然が入ったぽんやりしたタイプでずっと目が離せなかった。 だけどその笑顔を見ていると自然と僕も口角が上がり。 子供の頃に勢いに任せて『光くん、好きっ!!』と言ってしまったのは黒歴史だが、そのすぐ後に白詰草の指輪を持って来て『うん、およめさんになってね』と来たのは反則だろう。   ぽやぽやした光のことだから、きっとよく意味が分かってなかったに違いない。 指輪も、僕の左手の中指に収めていたし。 あれから10年近く。 ずっと仲が良い幼なじみの範疇に留まる僕たちの関係は決して崩してはならない。 だけど想いを隠すのは苦しくて――。 こっそりとある小説サイトに想いを吐露してそれで何とか未練を断ち切ろうと思った。 なのにどうして――。 『ねぇ、この小説って海斗が書いたんだよね?』 えっ!?どうしてバレたっ!?というより何故この僕が押し倒されてるんだっ!?(※注 サブ垢にて公開済みの『バウムクーヘンエンド』をご覧になるとより一層楽しめるかもしれません)

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!

はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。 まったり書いていきます。 2024.05.14 閲覧ありがとうございます。 午後4時に更新します。 よろしくお願いします。 栞、お気に入り嬉しいです。 いつもありがとうございます。 2024.05.29 閲覧ありがとうございます。 m(_ _)m 明日のおまけで完結します。 反応ありがとうございます。 とても嬉しいです。 明後日より新作が始まります。 良かったら覗いてみてください。 (^O^)

神獣の僕、ついに人化できることがバレました。

猫いちご
BL
神獣フェンリルのハクです! 片思いの皇子に人化できるとバレました! 突然思いついた作品なので軽い気持ちで読んでくださると幸いです。 好評だった場合、番外編やエロエロを書こうかなと考えています! 本編二話完結。以降番外編。

絶滅危惧種の俺様王子に婚約を突きつけられた小物ですが

古森きり
BL
前世、腐男子サラリーマンである俺、ホノカ・ルトソーは”女は王族だけ”という特殊な異世界『ゼブンス・デェ・フェ』に転生した。 女と結婚し、女と子どもを残せるのは伯爵家以上の男だけ。 平民と伯爵家以下の男は、同家格の男と結婚してうなじを噛まれた側が子宮を体内で生成して子どもを産むように進化する。 そんな常識を聞いた時は「は?」と宇宙猫になった。 いや、だって、そんなことある? あぶれたモブの運命が過酷すぎん? ――言いたいことはたくさんあるが、どうせモブなので流れに身を任せようと思っていたところ王女殿下の誕生日お披露目パーティーで第二王子エルン殿下にキスされてしまい――! BLoveさん、カクヨム、アルファポリス、小説家になろうに掲載。

ストレスを感じすぎた社畜くんが、急におもらししちゃう話

こじらせた処女
BL
社会人になってから一年が経った健斗(けんと)は、住んでいた部屋が火事で焼けてしまい、大家に突然退去命令を出されてしまう。家具やら引越し費用やらを捻出できず、大学の同期であった祐樹(ゆうき)の家に転がり込むこととなった。 家賃は折半。しかし毎日終電ギリギリまで仕事がある健斗は洗濯も炊事も祐樹に任せっきりになりがちだった。罪悪感に駆られるも、疲弊しきってボロボロの体では家事をすることができない日々。社会人として自立できていない焦燥感、日々の疲れ。体にも心にも余裕がなくなった健斗はある日おねしょをしてしまう。手伝おうとした祐樹に当たり散らしてしまい、喧嘩になってしまい、それが張り詰めていた糸を切るきっかけになったのか、その日の夜、帰宅した健斗は玄関から動けなくなってしまい…?

処理中です...