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第4章
予定変更
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皇国との国境まであとわずかというところで、第一陣を走る私たちのもとに皇国の伝令が走ってきた。
息を切らして必死に馬を走らせてきた伝令の顔色はその体調以上に悪く、息を整えることも忘れて命令を全うしようと口を開く。
「ほ、報告します。現在、ドラゴンが移動中につき、予定していた地点での合流をとりやめ、進軍を一時中断をお願いしたい。なお、これにおける糧食の負担分は後日、皇国側が負担することをお約束いたします。」
伝令が伝えたのはまさに私たちが一番恐れていたことだった。
ノーク山山頂にいるとわかっていたからできていた前準備。しかし、場所が変わったとなれば、その場所によっては準備が足りなくなる可能性も出てくる。そして一時中断ということは、ドラゴンは私たちの進路上に降り立つ可能性のある移動をしていることになる。中断された分の糧食を後で支払うと言われても、とどまるのに使うもの、進路を変更したときに加算される糧食は今ある分で賄うしかないのだ。
後方に状況を伝えて補給させるのは当然だが、どれだけ待たされるかによって今回用意した総量を超えるかもしれない。そうなれば後は現地調達するしかなく、散々放っておいていた村や町の人から簡単に補給させてもらうこともできず、苦労するかもしれない。
「困りましたね。どこで現れるかわからない以上、これ以上進むわけには行きませんし、かと言ってこんな場所で長く野営すると消費が激しくなります。補給が来るとはいえ、それは本来行軍用のものですからあまり頼ることができませんし。」
一緒に伝令の話を聞いていた第一陣の部隊長は頭を悩ませる。
今は周りに木と雪と岩以外には何もない平野にいる。近くには町も村もなく、あと半日ほど歩けば国境門までたどり着けるという位置なのだが、行軍することだできないためにそちらに向かうこともできない。
かと言っていったん王都に引き返すという選択もできない。事態がいつどのように動くかわかっていない以上、この場で足踏みせざる負えないのだ。
動けない。けど食料は欲しい。逆に食料さえあればほぼ問題なくここにいられる。移動できないのはこの大部隊で移動していればドラゴンに見つかってしまう可能性が高いから。ドラゴンはより多くの人間を食おうとしている。
情報を精査し、一つの解決方法を導き出した私たちはディランにメモ書きをこっそりと握らせる。私たちを抱えるナティーシャの目を盗んで慎重にディランの手に触手を伸ばし、紙を握らせた後は速やかに元に戻す。
ディランはメモを盗み見て目を閉じ、逡巡したのちに部隊長に提案する。
「私たちエレアナとリングルイで先行し、皇都に赴いて食料を運んできましょう。私たちだけならば急げばそう時間をかけることもないでしょうし、ドラゴンに見つかって交戦する可能性も低い。それに王都に戻って食料をかき集めるよりは、皇都から引っ張ってきたほうが時間的にも体面的にもいいでしょう。」
ドラゴン討伐のために準備した食料は、事前に兵士や騎士それぞれが用意していたものが大半だったためにここまで大きな作戦を短期間で決行可能にしたのだ。しかし、今から行軍を維持するための食料をかき集めるとなればかなりの時間がかかってしまう。そして、もっと怖いのは、皇国からの応援要請であるにもかかわらず、討伐までの間に皇国側からの支援が受けられていないというのは貴族にも、直接負担がかかる平民にも示しがつかなくなる。
いくら緊急事態とはいえ、この状況を引き起こした責任の一端が騎士団にある手前、そうなるのは非常に困るところだ。
なので、私たちが先行して物資をもらってきて、こちらに流すことで、一応の体裁を整えるということだ。
「しかし、その人数では多くの物資を運べないのでは・・・。」
部隊長は私たちの馬車2台を見てそう言う。
確かに普通ならこんな馬車2台に入る食料なんてたかが知れている。けれど、それを解決する方法はある。
「問題ありません。ルーナの魔法で、多くの物資を運ぶ事ができますから。」
「ほう。ルーナ様の魔法ですか。それは興味深いですな。」
つまりはそういうことだ。
実際には私たちがやることになるのだけど、異次元ポケットに大量の物資を詰め込んで、それをここまで運んでくるということだ。
でも表だって私たちが動くことはできないので、ルーナの魔法であるという隠れ蓑を用意した。なにせ天才のルーナである。世界屈指の実力を誇る魔導士ならば、みんなが使えないような空間魔法も使えるだろうと勝手に誤解してくれる。
こうして私たちは一足先に皇都アイレライゼンへと向かうことになったのだった。
息を切らして必死に馬を走らせてきた伝令の顔色はその体調以上に悪く、息を整えることも忘れて命令を全うしようと口を開く。
「ほ、報告します。現在、ドラゴンが移動中につき、予定していた地点での合流をとりやめ、進軍を一時中断をお願いしたい。なお、これにおける糧食の負担分は後日、皇国側が負担することをお約束いたします。」
伝令が伝えたのはまさに私たちが一番恐れていたことだった。
ノーク山山頂にいるとわかっていたからできていた前準備。しかし、場所が変わったとなれば、その場所によっては準備が足りなくなる可能性も出てくる。そして一時中断ということは、ドラゴンは私たちの進路上に降り立つ可能性のある移動をしていることになる。中断された分の糧食を後で支払うと言われても、とどまるのに使うもの、進路を変更したときに加算される糧食は今ある分で賄うしかないのだ。
後方に状況を伝えて補給させるのは当然だが、どれだけ待たされるかによって今回用意した総量を超えるかもしれない。そうなれば後は現地調達するしかなく、散々放っておいていた村や町の人から簡単に補給させてもらうこともできず、苦労するかもしれない。
「困りましたね。どこで現れるかわからない以上、これ以上進むわけには行きませんし、かと言ってこんな場所で長く野営すると消費が激しくなります。補給が来るとはいえ、それは本来行軍用のものですからあまり頼ることができませんし。」
一緒に伝令の話を聞いていた第一陣の部隊長は頭を悩ませる。
今は周りに木と雪と岩以外には何もない平野にいる。近くには町も村もなく、あと半日ほど歩けば国境門までたどり着けるという位置なのだが、行軍することだできないためにそちらに向かうこともできない。
かと言っていったん王都に引き返すという選択もできない。事態がいつどのように動くかわかっていない以上、この場で足踏みせざる負えないのだ。
動けない。けど食料は欲しい。逆に食料さえあればほぼ問題なくここにいられる。移動できないのはこの大部隊で移動していればドラゴンに見つかってしまう可能性が高いから。ドラゴンはより多くの人間を食おうとしている。
情報を精査し、一つの解決方法を導き出した私たちはディランにメモ書きをこっそりと握らせる。私たちを抱えるナティーシャの目を盗んで慎重にディランの手に触手を伸ばし、紙を握らせた後は速やかに元に戻す。
ディランはメモを盗み見て目を閉じ、逡巡したのちに部隊長に提案する。
「私たちエレアナとリングルイで先行し、皇都に赴いて食料を運んできましょう。私たちだけならば急げばそう時間をかけることもないでしょうし、ドラゴンに見つかって交戦する可能性も低い。それに王都に戻って食料をかき集めるよりは、皇都から引っ張ってきたほうが時間的にも体面的にもいいでしょう。」
ドラゴン討伐のために準備した食料は、事前に兵士や騎士それぞれが用意していたものが大半だったためにここまで大きな作戦を短期間で決行可能にしたのだ。しかし、今から行軍を維持するための食料をかき集めるとなればかなりの時間がかかってしまう。そして、もっと怖いのは、皇国からの応援要請であるにもかかわらず、討伐までの間に皇国側からの支援が受けられていないというのは貴族にも、直接負担がかかる平民にも示しがつかなくなる。
いくら緊急事態とはいえ、この状況を引き起こした責任の一端が騎士団にある手前、そうなるのは非常に困るところだ。
なので、私たちが先行して物資をもらってきて、こちらに流すことで、一応の体裁を整えるということだ。
「しかし、その人数では多くの物資を運べないのでは・・・。」
部隊長は私たちの馬車2台を見てそう言う。
確かに普通ならこんな馬車2台に入る食料なんてたかが知れている。けれど、それを解決する方法はある。
「問題ありません。ルーナの魔法で、多くの物資を運ぶ事ができますから。」
「ほう。ルーナ様の魔法ですか。それは興味深いですな。」
つまりはそういうことだ。
実際には私たちがやることになるのだけど、異次元ポケットに大量の物資を詰め込んで、それをここまで運んでくるということだ。
でも表だって私たちが動くことはできないので、ルーナの魔法であるという隠れ蓑を用意した。なにせ天才のルーナである。世界屈指の実力を誇る魔導士ならば、みんなが使えないような空間魔法も使えるだろうと勝手に誤解してくれる。
こうして私たちは一足先に皇都アイレライゼンへと向かうことになったのだった。
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