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第4章

王都出陣

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 あれから事態は何事もなく進み、誰かからの妨害が入ることも、入る隙すら見せずに2日が経ち、ようやくドラゴン討伐の準備が整った。皇国にはすでに早馬を出しており、皇国との約束はぎりぎりで果たせた。後は順調に行軍して、一刻も早くドラゴンを討伐するのみ。

 ゴールが見えてくれば後は楽だけれど、逆にいよいよドラゴンと戦うのかと思うと緊張する。

 この間まで後々のことをあれこれ考えてはいたけれど、結局のところ今回のドラゴン討伐が一番の難所といえるのだ。これを超えずして未来は語れない。ディランが国王になるのも、それまで冒険者を続けるのでさえ、ドラゴンとの戦闘を無事生き残れなければできないことなのだ。

 ディランの性格上、ドラゴンを野放しにできないし、ここまで大きく関わってしまったらディランでなくとも容易に抜けることはできない。

 焚き付けたのは私たちとエレアナのみんなだ。なら最後まで戦うのも当然私たち全員だ。

 そして、その全員の中で一番危ういのが何といっても私たちだ。

 能力的にもみんなより一段劣るのに、今は能力が制限されている。おまけに雪山では更に動きにくくなるので、私たちはほんの少しでも選択を誤れば一息に死んでしまう可能性だったあるのだ。

 あまり考えたくはないけれど、ディランに選択の幅を広げて見せた矢先に全てを放り出して死んでしまうような無責任極まりないことにもなりかねない。

 今は少しでも万全な状態に戻すために色々と試行錯誤しながら休息をとることにして、全く動かずにぬいぐるみ状態になっている。それが功を奏するのかはわからないけれど、休憩といえばだらだらとするイメージがあるので、とにかくじっとしていようという考えだ。

 ちょうどアナトリアとナティーシャも同行することになるので、ぬいぐるみ状態にならないといけなかったのだ。この際、ナティーシャの腕の中でゆっくりと寛がせてもらおうじゃないか。

 私たち一行は先に城を離れてレナやリングルイのメンバーが泊まっている宿に赴き、王都の外で騎士団と兵士の部隊と合流。そのまま皇国に向かうことになった。

 宿に入ると、レナとランベルが入ったすぐそこの席に座って退屈そうにしていた。レナはジュースをちびちびと飲みながら弓矢を手入れしていて、ランベルはお酒をこれまたちびちびと飲みながら残り少ない摘みの干し肉を食べていた。

 「随分と暇そうにしてるね君たち。」

 リーノが意地の悪い笑みを浮かべて声をかけると、こちらに気づいていなかった二人は飛び上がるようにしてこちらを振り返り、レナは笑顔に、ランベルはなぜか泣きそうな顔をしてこちらにすっ飛んできた。

 「お前ら遅かったじゃねえかよ!どうせうまい酒とかうまい飯とかたらふく食って優雅に過ごしてたんだろ!くそっ!俺も生きたかったな~。」

 ランベルの第一声は恨み言だった。確かにランベルの言うとおりおいしいご飯もあったし、私たちは飲んでいないけれど上等なお酒が用意されていた。でもそれを味わって楽しむ余裕なんてなかったのだから、文句を言われても困るというものだ。

 「俺たちはそれどころじゃなかったんだよ。結構忙しかったし、人付き合いもめんどくさかったしな。」

 後で聞いた話だけれど、ポートもリーノもエラルダも、みんなかなり方々に出向いて情報収集やら貴族づきあいやらをしていてそれなりに忙しかったらしい。私たちが部屋に行くと大抵ソファーで寛いでいたり談笑していたりしていたけれど、それはどれも偶然休憩していただけなのだとか。嘘っぽいけど本当のことなのだから、暇そうにしていていいなとちょっと思っていた私は謝らなければならないだろう。

 「お疲れさま。メイリーンとニーナは外に出てるから、帰ってきたら話聞かせてよ。」

 レナは普通に笑顔で労ってくれて、みんなに席を勧める。けれど、私たちにはそれほど時間がないので、寛いでいる暇はない。

 「いや、急いで皇国に赴かなければならなくなった。騎士団と軍もすぐに王都の外で終結する予定だからそれに合流するためにも早くここを出なければならない。アナトリアとナティーシャはどうした?」

 「二人はまだ部屋で寝てるよ。この際ディランたちが戻るまでゆっくり過ごして体調を戻すように言ってあったから。」

 アナトリアもナティーシャも初めての長旅で体調を大きく崩していた。途中で病気にもかかっていたし、ゆっくりできるときに体力を十分に回復させるのはいいことだ。

 ただ、これかたまた皇国に戻るための旅が始まるのだけど。

 「レナ。二人を起こしてきてくれ。すぐにここを出られるようにもしておいてくれ。ランベルはメイリーンとニーナの居場所はわかるか?」

 「確か装備の調整が終わるころだからって鍛冶屋に向かったはずだ。ちょっくら俺が走ってくるから、お前らはゆっくりしときな。」

 ランベルは重い腰を上げて宿を出ると、すぐに町の人ごみの中に消えていった。

 「じゃあ俺は馬車を出す用意をしてくる。」

 「僕もポートと一緒に馬車の用意をしてくるよ。4人はそこで座ってて。」

 リーノとポートも外に出て厩舎のほうに向かっていった。

 残ったのはルーナとエラルダとディランと私たち。やることがなくなってしまった私たちはとりあえずアナトリアとナティーシャとレナが下りてくるまで座って待つことにした。

 ほどなくして3人が階段を下りてきて、私たちと合流した。アナトリアとナティーシャは少し眠そうにしており、ナティーシャに至っては目を擦って眠気を飛ばしている最中だ。

 これくらい平和ボケしてくれているほうが、見ているこっちは和むというものだ。

 「おかえりなさいませ皆様。すぐにここを出るということは、交渉はうまくいったということでしょうか?」

 アナトリアが眠たいながらも緊張した表情を作り、ディランに問う。

 「一応はうまくいった。だが、もしかしたら一波乱あるかもしれない。ここからは皇都につくまで二人の身分はできるだけ隠してもらいたい。いいか?」

 ディランは難しい顔でそう言うと、それである程度察したアナトリアは静かにうなずいた。

 「では、私のことはナトリ、ナティーシャのことはナーシャとお呼びください。両方とも私たちの愛称ですので、反応できないということもないでしょう。」

 「わかった。ではナトリ、体調は万全か?ここからは来た道を引き返すことになる。ある程度状態を把握しておきたい。」

 「この数日で二人ともだいぶ良くなりました。ある程度慣れてもきたので大丈夫です。」

 アナトリアの答えにディランは慎重に二人を見ながら一つうなずいた。

 「よし。ならメイリーンとニーナが帰ってきたらすぐに出ることにする。」

 そしてまたしばらくして、ようやくメイリーンとニーナを連れてランベルが帰ってきた。

 二人は鍛冶屋で装備を引き取ってから、近くの雑貨屋に足を運んでいたようで、ランベルはしばらく探し回ったそうだ。最終的には大きくて目立つランベルを二人が先に見つけて事情を聞き、帰ってきたのだという。

 「すぐに馬車へ向かおう。ポートとリーノが手続きを終えてくれているはずだ。」

 そうしてすぐに馬車へと向かい、王都を出る。

 出るときもすぐに門番の人が手続きを終えてくれて、すぐに王都を出ることができた。

 それから一時間くらいして騎士と兵士の混成部隊第一陣が王都のすぐ近くの平野にて終結し、部隊とともに皇国へと出発。

 皇国からの緊急の早馬が部隊のもとについたのは、その2日後のことだった。
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