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第二部 プロキオン星編

第108話 浮遊

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 神楽の舞が終わった後、俺は観客に皇王の力を示すことになった。

「それではセイヤ殿、頼む」
「本当に大丈夫なのですか? 壊れても責任取りませんよ」
「大丈夫だ、宇宙船と同様の魔導核が使用されている。壊れる心配はない」
「そうですか、わかりました」

 俺は姿勢を正し、観客に向けて宣言する。
「我はセイヤ。伝説の紋章の力をここに示し、古の盟約が今なお有効であることを宣言しよう」

 俺は振り返り、舞台奥にある祭壇に手を付くと、魔力を込めた。
 観客が固唾を飲んで見る中、左手の紋章が光り輝く。

 観客からは、再び響めきが上がる。

 成る程、確かに宇宙船と同様の魔導核であるようだ。いくら魔力を込めても壊れる様子はない。
 俺は、遠慮するのをやめ、全力で魔力を込める。

 すると、祭壇が輝きだし、神楽殿そのものが揺れ始める。

「うむ、伝承通りだな。セイヤ殿そのまま、魔力を込め続けてくれ」
「構いませんが、大丈夫なのでしょうね?」
「そのはずだ」
 本当に大丈夫なのだろうか? 心配になるが、大公に言われた通りそのまま魔力を込め続ける。

 しばらく魔力を込め続けたが、祭壇が輝くのみで、別段他に変わったことが起こる様子がない。
 大公からは、神楽殿が浮き上がると聞いていたのだが、揺れてはいるが、浮き上がってはいない。

 どうしたものかと、大公に視線を向けるが、大公はまだ諦めていないようだ。
 大公の後ろで、ヤガトがほくそ笑んでいる姿が見える。

 もしかして、あいつが何かしたのか。

 ガラガラガラ!

 そう思ったところで、何かが崩れる大きな音がした。

「皆の者、これが皇王の力だ。伝承の再来だ」
「おーお」

 グラ!

 神楽殿が一際大きく揺れ、空中に浮かび上がった。
 大きな歓声が沸き起こる。
 ヤガトが悔しそうな顔をしていた。

 俺は、リリスのことが心配になり、観客席の方を確認すると、浮かび上がったのは神楽殿ではなかった。

 なんと、神楽殿がある、山全体が浮かび上がっていたのだ。
「山、全体が浮くなんて聞いてないぞ!」
「神楽殿は飛んでいるんだ、大した違いはなかろう」
 大公が楽しそうに、笑いながら答えた。
 大違いだと思うのは俺だけだろうか。

 しかし、まあ、浮遊社とはな。
 宇宙船と同様の魔導核が必要なわけだ。

 大型スクリーンには、浮遊している山の様子が映し出されているが、どこから撮っているのだろう。ドローンでも飛ばしているのか?

 引きの映像には、山の下の方に、何本もの太い鎖がぶら下がって揺れているのが見えるが、地上に縫いとめるためのアンカーだったのだろうか? 見事に途中から切れているようである。
 あれのせいで、なかなか浮かなかったんだな。

 まさかと思うが、ヤガトがわざわざ設置したわけではないだろうな? もし、そうなら、あんな太い鎖をご苦労なことだ。
 ヤガトを探してみたが見当たらなくなっていた。

「ちょっとセイヤさん。いや、セイヤ様」
「何かなタマさん」
「私の家、どうなっちゃうのよ」
 タマさんの自宅は社に隣接していた。山ごと浮いているのだ、当然、一緒に宙に浮いている。

「俺に言われても知らんな。このまま浮いていることになるんじゃないか?」
「それじゃあ、買い物とか困るじゃない!」
「落ち着いて、お姉ちゃん。はなから山の中過ぎて、歩いて買い物なんて行けなかったでしょ」

「そう言われればそうね」
「車が、シャトルポッドに変わるだけよ。大した違いじゃないわ」
「それもそうか」

 タマさんより妹さんの方が落ち着いているのか。まだ、見た目は幼い感じだが、随分としっかりしているな。

「実際問題、これ、いつまで浮いているんです?」
 俺に聞かれてもわからない、視線で大公に振る。
「魔力が切れるまでだから、何もしなければ、二、三十年のはずだぞ」
「そうですか……」
 大公の答えに、タマさんは諦めたようだ。

 浮いている間、不便になるが、タマさんの一家には我慢してもらうしかないだろう。

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