上 下
73 / 167
第二部 アダラ星編

第73話 第四王女

しおりを挟む
 アダラ星に滞在し、紋章派の重鎮たるファーレン侯爵とその後も何度か会談を重ねたが、話し合いは平行線のままだった。

 大体、何故俺はシリウス皇国まで来てしまったのだろう……。

 考えてみると、ステファによって強制連行されたようなものだ。
 あの時は、アカネの兵士がいたから仕方がなかったが、今なら、ハルクで逃げられるのではないか?

 だが、逃げたところで、ステファはセレストの位置を知っている。
 軍隊を連れて捕まえにこられても厄介だ。
 セレストに戻れば、オメガユニットもあるので、どうにかなりそうな気もするが、できれば争いごとはしたくない。

 ステファを連れて逃げるか?
 それもてだが、いっそのことセレストに戻らないで、他の星へ行って仕舞えばいい。
 ギルドにも加入しているし、ハルクがあればそれなりに稼げるだろう。

「セイヤ様、お茶などいかがでしょうか?」
「リリスか。そうだな、いただこうか」
 リリスはアリアにお茶を用意するように指示を出し、自分は俺の横に座った。

「何をお考えですか?」
「ん、これからどうしようかと思ってね」

「皇王のことではないのですか?」
「それも含めてだよ」

「許されるのかわかりませんが、皇王の名前だけいただいて、その後は、セレストに引き篭られてはいかがでしょうか?」
「君臨すれども統治せず、てか。象徴なら、日頃目にすることができない場所にいても問題ないか……」

「セイヤ様は、神なのですから、好きになさればよろしいかと思いますが」
 何だ、聖女もいたのか。
 ここに来てから聖女は機嫌がいいな。
 侯爵とも話が合うようだ。

 チハルは、普段と変わらないな。必要以上に話すことはないし、表情もあまり変わらない。
「キャプテン、何か来た」
 チハルのことを見ていたら、突然チハルが喋った。

「何か来た?」
 そう言われると外が騒がしい。何があったのだろう?

「セイヤ様。セイヤ様はどちらです!」
 俺の名を呼ぶ声が聞こえる。女の子のようだが。

「エリザベート様、お待ちください!」
「エリザ姉様、セイヤ様に会いたいなら、ちゃんと手続きをとって」

 侯爵とステファの声も聞こえる。
 エリザベート? どこかで聞いたような。

「ステファ、邪魔しないで! セイヤ様に相応しいのは、あなたでなく私よ!」
「いや、だから、セイヤ様と私は別にそういう関係ではないって!」
「黙らっしゃい! セイヤ様に婚約者がいることは調査済よ。どうせ、ステファのことなんでしょ。隠していてもわかるんだから!」

 ああ、エリザベートって、俺を狙ってくるかもしれない第四王女か。
 シリウスから、わざわざここまで会いに来たのか?

 バタン!

 激しい音を立てて部屋のドアが開いた。

「セイヤ様ですか?」
「そうだけど」

「シリウス皇国第四王女のエリザベートと申します。どうか、ステファなどでなく、私をセイヤ様の婚約者にしてください」
 エリザベートは、赤髪のソバージュを首元で綺麗に切り揃えた、目付きのきつい女性だった。

「エリザベート嬢、勘違いをしているようだが、俺の婚約者はそこにいるステファではなく、ここにいるリリスだ」
「えっ! だって、ステファが男を連れて来たって……」

 エリザベートは、俺とステファの顔を交互に確認している。

「だから言ったじゃない。セイヤ様は私の婚約者ではないって」
「確かに、ステファに強制連行されたようなものだが」

「強制連行は言い過ぎじゃないかしら」
「そんなことはないだろう」

「随分と仲が良さそうですね。本当は婚約しているのでは?」
「してない、してない。リリスとはしてるけど」

「そうですか、では今日は引き下がりますが、後日改めて、正式にお願いに参ります」
「正式にお願いって?」
「婚約についてですわ」

「いや、だから、婚約者はリリスがいるって」
「婚約者が何人いてもよろしいではないですか。その中にステファがいなければ問題ありません!」

「俺はリリス以外と婚約する気はないぞ!」
「その気持ち、いずれ変えてみせますわ。それではこれで失礼させていただきます」

 エリザベートは、お辞儀をするとそのまま出て行ってしまった。
 何とも嵐のような女性だな。

「何なのあれ?」
「また来ますよ」

「もう、会いたくないんだど!」
「正式に面会の手続きをされると断りきれませんな」
 相手が王女じゃ侯爵では断れないか。

「随分とステファのことを気にしていたようだけど」
「彼女は第四王女といっても、正妻の子ではないから、立場が低いのよ。境遇的には自分より下の筈の私が紋章のお陰で上になるから、気に入らないのよ」

 王子王女の中では、エリザベートは一番下になってしまうのか。

「それに、年下の私が先に婚約者を見つけたと思って、焦ってたのよ」
「まあ、気持ちはわからなくもないが、いきなり来て、あれはないだろう」

「あの調子で、どんどん来るから、気を緩めないことね」
「勘弁してくれよ……」

 侯爵だけでなく、第四王女とも話をつけなければならなのか。厄介この上ないな。
 やっぱり、逃げちゃおうかな。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

キャンピングカーで往く異世界徒然紀行

タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》 【書籍化!】 コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。 早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。 そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。 道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが… ※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜 ※カクヨム様でも投稿をしております

45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる

よっしぃ
ファンタジー
2月26日から29日現在まで4日間、アルファポリスのファンタジー部門1位達成!感謝です! 小説家になろうでも10位獲得しました! そして、カクヨムでもランクイン中です! ●●●●●●●●●●●●●●●●●●●● スキルを強奪する為に異世界召喚を実行した欲望まみれの権力者から逃げるおっさん。 いつものように電車通勤をしていたわけだが、気が付けばまさかの異世界召喚に巻き込まれる。 欲望者から逃げ切って反撃をするか、隠れて地味に暮らすか・・・・ ●●●●●●●●●●●●●●● 小説家になろうで執筆中の作品です。 アルファポリス、、カクヨムでも公開中です。 現在見直し作業中です。 変換ミス、打ちミス等が多い作品です。申し訳ありません。

あの、神様、普通の家庭に転生させてって言いましたよね?なんか、森にいるんですけど.......。

▽空
ファンタジー
テンプレのトラックバーンで転生したよ...... どうしようΣ( ̄□ ̄;) とりあえず、今世を楽しんでやる~!!!!!!!!! R指定は念のためです。 マイペースに更新していきます。

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

チート薬学で成り上がり! 伯爵家から放逐されたけど優しい子爵家の養子になりました!

芽狐
ファンタジー
⭐️チート薬学3巻発売中⭐️ ブラック企業勤めの37歳の高橋 渉(わたる)は、過労で倒れ会社をクビになる。  嫌なことを忘れようと、異世界のアニメを見ていて、ふと「異世界に行きたい」と口に出したことが、始まりで女神によって死にかけている体に転生させられる! 転生先は、スキルないも魔法も使えないアレクを家族は他人のように扱い、使用人すらも見下した態度で接する伯爵家だった。 新しく生まれ変わったアレク(渉)は、この最悪な現状をどう打破して幸せになっていくのか?? 更新予定:なるべく毎日19時にアップします! アップされなければ、多忙とお考え下さい!

3点スキルと食事転生。食いしん坊の幸福論。〜飯作るために、貰ったスキル、完全に戦闘狂向き〜

西園寺若葉
ファンタジー
伯爵家の当主と側室の子であるリアムは転生者である。 転生した時に、目立たないから大丈夫と貰ったスキルが、転生して直後、ひょんなことから1番知られてはいけない人にバレてしまう。 - 週間最高ランキング:総合297位 - ゲス要素があります。 - この話はフィクションです。

ドロップキング 〜 平均的な才能の冒険者ですが、ドロップアイテムが異常です。 〜

出汁の素
ファンタジー
 アレックスは、地方の騎士爵家の五男。食い扶持を得る為に13歳で冒険者学校に通い始めた、極々一般的な冒険者。  これと言った特技はなく、冒険者としては平凡な才能しか持たない戦士として、冒険者学校3か月の授業を終え、最低ランクHランクの認定を受け、実地研修としての初ダンジョンアタックを冒険者学校の同級生で組んだパーティーでで挑んだ。  そんなアレックスが、初めてモンスターを倒した時に手に入れたドロップアイテムが異常だった。  のちにドロップキングと呼ばれる冒険者と、仲間達の成長ストーリーここに開幕する。  第一章は、1カ月以内に2人で1000体のモンスターを倒せば一気にEランクに昇格出来る冒険者学校の最終試験ダンジョンアタック研修から、クラン設立までのお話。  第二章は、設立したクラン アクア。その本部となる街アクアを中心としたお話。  第三章は、クラン アクアのオーナーアリアの婚約破棄から始まる、ドタバタなお話。  第四章は、帝都での混乱から派生した戦いのお話(ざまぁ要素を含む)。  1章20話(除く閑話)予定です。 ------------------------------------------------------------- 書いて出し状態で、1話2,000字~3,000字程度予定ですが、大きくぶれがあります。 全部書きあがってから、情景描写、戦闘描写、心理描写等を増やしていく予定です。 下手な文章で申し訳ございませんがよろしくお願いいたします。

【完結】ええと?あなたはどなたでしたか?

ここ
恋愛
アリサの婚約者ミゲルは、婚約のときから、平凡なアリサが気に入らなかった。 アリサはそれに気づいていたが、政略結婚に逆らえない。 15歳と16歳になった2人。ミゲルには恋人ができていた。マーシャという綺麗な令嬢だ。邪魔なアリサにこわい思いをさせて、婚約解消をねらうが、事態は思わぬ方向に。

処理中です...