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第一部 ライセンス取得編

第33話 その頃男爵令嬢は、事情聴取中

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 私は、航宙管理局で事情聴取を受けていた。

「いつまで私をここに閉じ込めておく気ですの。こんな、まるで犯罪者のような扱い、我慢できませんわ。誰か責任者を連れてきなさい。自分がどれだけ無礼を働いているか思い知らせて差し上げますわ」

 私が叫んでいると、取調室の扉が開いた。
 やっと帰れるようだ。

「なるほど、随分と威勢のいいお嬢さんだね」
「どなたですの? 早くそこで土下座で謝罪して、私を解放しなさい」

「聞きしに勝るとはこのことだね。僕は、航宙管理局事故調査班主任のウイリアム・アーロンテリアだ。これより事情聴取を始める。コーディリア・ブリエルで間違いないな」

「主任風情が私を呼び捨てにするなんて、許せませんわ。畏れ多くも、私はブリエル男爵家の長女ですのよ。身の程を弁えなさい!」

「はー。他の者がお手上げするわけだ。身の程を弁えるのはお前の方だ、ブリエル男爵令嬢。僕の名前をちゃんと聞いていたかい。もう一度だけ教えてあげるよ。ウイリアム・アーロンテリアだ」

「それがどうかしましたの? ウイリアムなんて名前珍しくもない」
「駄目だなこいつ。アーロンテリアだよ、アーロンテリア伯爵家だ」

「はあー? なんで帝国の伯爵家の者がこんなところにいるのよ。いるわけがないでしょう」
「航宙管理局には帝国の貴族も沢山勤めてるんだよ」

「知りませんでしたわ」
「お前のところは男爵家、僕のところは伯爵家、どっちが上かわかるよね」

「フン! 国外に出稼ぎに出なければならないような木端役人のくせに生意気ですの。私の婚約者は英雄のゴルドビッチ将軍ですのよ」
「何が英雄だ、成り上がりの元平民の騎士爵風情が。大方、男爵位が欲しくてお前さんと婚約したんだろ。本当に野心だけで生きてるような男だな」

「ちょっと待ってください。ゴルドビッチ将軍が元平民の騎士爵だとは本当ですの?」
「お前さん、自分の婚約者の身分も知らないのかよ」

「だって、英雄と称えられた将軍なのよ。その方が元平民の騎士爵なんてあり得ないでしょう」
「英雄と称えられているのは、平民からだろう。貴族は誰も相手にしてないぞ」

「そんな……、お父様はそんなこと一言も……」
「まあ、普通の貴族じゃ、お前さんのような馬鹿娘のところに婿に来てくれる者などいないだろうからね。親父さんも困ってたんじゃないか」
「失礼ですね。そんなはずないでしょう!」

「それじゃあ、どちらが上かはっきりしたところで、事情聴取に答えてもらおうか」
「私は何も悪いことはしていませんわ!」

「それを判断するのは僕だ、お前さんは事実を話せばいい。因みに、お前さんの容疑は、安全航行義務違反。具体的には、規定速度違反、緊急船舶への進路妨害、危険運航致死傷罪だ」

「致死傷罪って、誰も死んだり怪我をしていないでしょう」
「何を言っている。お前さんが一時的に死んでただろ。蘇生処置が間に合ったからいいものの、普通ならそのまま死んでたぞ」

「えっ? 私、死んでましたの?」
 一時的に意識を失っていただけだと思っていましたわ。

「船の記録にも一時生命活動が停止したと記録されているから、間違いない」
「それじゃあ、なんで今生きてますの?」
「だから、蘇生処置をされて生き返ったんだ」

 蘇生処置って、あの、胸を触ったり、口付けをしたりする、破廉恥なやつですよね……。
 まさか、それを私がされましたの!

「その、蘇生処置は誰が行いましたの!」
「そんなの副船長役のセイヤだっけ、彼以外いないだろ。後で、お礼を言っておきなよ」

「そんな……」
 そんな。あの男、何も言っていなかったのに、素知らぬ顔で、私の胸を触って、その上、口付けを……。初めてだったのに。生かしておけませんわ。
「お礼……。そうですね。後でたっぷりお礼をしておきますわ」

「事情聴取を続けるぞ。何故、規定速度を無視した?」
「緊急船舶が私を退かそうとしたからですわ」

「規定速度を無視したのは認めるんだね」
「そうですわね。退かないためには仕方がありませんでしたわ」

「緊急船舶が通過する際は、停止して航路を空ける決まりになっているはずだが?」
「なぜ、私が緊急船舶に航路を譲らなければならないのです。私は男爵令嬢ですよ」

「副船長には止まるように言われたようだが?」
「そんなのは却下に決まってますわ」

「ワープいくつで航行したんだ?」
「ワープ8ですわ。ワープ8で航行すれば、緊急船舶であろうとも私に追いつけませんのよ」

「その結果、魔力切れで航行できなくなったわけだね」
「本当にポンコツな船で参りましたわ」

「ポンコツにしちまったのはお前さんだけどね。それで、通過した緊急船舶の衝撃波で船が大破したわけだね?」
「そのようですわね。全く、どこまでも失礼な緊急船舶ですわ」

「その際シールドはどうなっていた?」
「魔力不足で消失していたはずですわ」

「それで、よく無事だったね?」
「副船長が、私に逆らって生命維持に必要な魔力をシールドに回してしまったのですわ。お陰で、そのあと死ぬところでしたわ」

「シールドに魔力を回していなければ確実に死んでいたけどね」
「全く、船長の私に逆らうなんて、副船長が死んで仕舞えばよかったのですわ」

「おいおい、彼のお陰で生き残れたのに酷い言い草だね」
「生き残れたのは、そのあと私が魔力を充填して生命維持装置を復活させたからですわ。彼の方こそ私に感謝するべきですわ」

「お前さんが船の魔導核に魔力を充填したのか?」
「そうですわ。彼も少しは手伝っていましたが、魔力が高い私が充填したのですわ」

「そうか。彼もそう言っているし。嘘ではないのだろうが……」
「当然ですわ」

「その後は救出されるまで船室で待機ということでいいのかな?」
「その通りですわ」

「事情聴取の結果、大体のお前さんの容疑が固まった、このあと、帝国本土に送られて、帝国の機関で改めて取調べられた後、裁判にかけられることになるだろう」

「なんで私が裁判にかけられることになりますの?」
「安全航行義務違反をしたからだね」

「そんなの知りませんの」
「それは裁判で訴えてくれ」

「納得いきませんわ」
「帝国の裁判を受けられるだけ、ありがたいと思って欲しいね。本来なら、航宙管理局の規定で処罰されるところなんだから」

 なんて、恩着せがましい人ですの。
 しかし、ここで裁かれるよりは、帝国で話を聞いてもらう方がいいでしょう。
 きっとその方が、私の言うことをわかってもらえるはずですわ。

「わかりましたわ。帝国に行きますわ」

 私はそのまま、帝国に送られることになった。

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