上 下
13 / 167
第一部 ドック編

第13話 ピット

しおりを挟む
 しばらく歩いたのち、商談スペースのような場所にたどり着いた。
 おっさんは俺に椅子に座るように勧め、自身もテーブルを挟んだ向かい側に座った。

「何か飲むか?」
 おっさんが紙ペラのメニューを渡してくる。

 えーと。
 コーヒー、紅茶、コーラ、オレンジ、グレープ、アップル、ミネラルウォータ。
 うん。普通だ。

 でも、コーラがある。
 船内では年齢制限で飲めなかったが、ここなら大丈夫なのか?
 試してみるか。怒られたら他の物にすればいい。

「じゃあコーラで」
「なに。コーラ?」
 睨まれた。やはりまずかったか。

「おーい。コーラとコーヒー」
 おっさんが奥に声をかける。
「はい、コーラとコーヒーですね」
 奥から女性の声がした。
 大丈夫だったようだが、なら、なぜ睨まれた?

「さてと、今回は定期メンテナンスだな」
「はい」

「最初に注意しておくが、宇宙船て物はだな、乗らなくても時間が経てば傷む物なんだ。
 魔導核や魔導ジェネレーターは問題ないかもしれないが、気密を保つためのパッキンなどは経年劣化で傷んでいくんだ。最悪、気密が保てなくなって、エアー漏れを起こせば、死ぬことにもなりかねないんだぞ。
 そのことをよく頭に刻んでおいて、定期メンテナンスは必ず受けるんだぞ」
「はい、わかりました!」

 俺が頭を下げていると、スタイルいい女性がやってきた。
「コーラになります」
「ありがとうございます」

 俺はテーブルに置かれたコーラにストローを挿して飲んだ。
 うーん。懐かしいこの味。口の中がピリピリ……。ピリピリしない?
 完全に炭酸が抜けている。コーラ味の水だ。
 こんなのコーラじゃない!

 コーラを注文した時、おっさんに睨まれた気がしたが、あれは、「こんなもん飲む、もの好きがいるもんだな」という視線だったのだろう。
 俺は、一口飲むとそのままテーブルに置いたのだった。

 おっさんは俺がコーラを飲むのをやめたのを見計らって、書類を出してきた。
「それじゃあこの書類にサインしてくれ」

「何の書類ですか?」
「メンテナンスに必要な、船へのアクセス権限を与えるという書類だ。これがないと船に入ることもできない」

「ああ、成る程、わかりました」
 ドアに鍵など無かったけど、セキュリティーは掛かっているのか。

 俺は書類にサインをし、それをおっさんに返す。
 おっさんは、それを確認する。
「セイヤ S シリウスだな。シリウス?」

「何か?」
「いや、なんでもない」
 おっさんは俺の姓が気になる様子だが、深くは聞いてこない。

「ところでお前さん、一人で乗ってきたようだが他の乗組員はどうした?」
「他にはいませんが?」

「他にはいないって、あの大きさの船は最低限乗組員が二人必要だろ」
「そうなのですか? 一人でも動きましたけど」

「そうじゃない、規則上の問題だよ。お前さん、ライセンスは、免許は持ってるのか?」
「免許ですか? 宇宙船に乗るには免許が必要なんですか?」

「当たり前だろ! 何でライセンスも持ってないのに乗ってきたんだ!」
「えー。何か緊急シークエンスだとか言って、勝手に動き出して……」

「成る程、そういうことか。お前さん運が良かったな」
「何がですか?」

「緊急シークエンスということは、生命に関わるトラブルが起きそうだということだ。五百年もメンテナンスをしていなければ、そうなってもおかしくないな。無事ここまで辿り着けて運が良かったじゃないか」

 下手をしたらここに辿り着く前に、途中で船が壊れて、死んでいたかもしれないということか。
 それは確かに運が良かったようだ。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

異世界でも男装標準装備~性別迷子とか普通だけど~

結城 朱煉
ファンタジー
日常から男装している木原祐樹(25歳)は 気が付くと真っ白い空間にいた 自称神という男性によると 部下によるミスが原因だった 元の世界に戻れないので 異世界に行って生きる事を決めました! 異世界に行って、自由気ままに、生きていきます ~☆~☆~☆~☆~☆ 誤字脱字など、気を付けていますが、ありましたら教えて頂けると助かります! また、感想を頂けると大喜びします 気が向いたら書き込んでやって下さい ~☆~☆~☆~☆~☆ カクヨム・小説家になろうでも公開しています もしもシリーズ作りました<異世界でも男装標準装備~もしもシリーズ~> もし、よろしければ読んであげて下さい

スペーストレイン[カージマー18]

瀬戸 生駒
SF
俺はロック=クワジマ。一匹狼の運び屋だ。 久しく宇宙無頼を決めていたが、今回変な物を拾っちまった。 そのまま捨ててしまえば良かったのに、ちょっとした気の迷いが、俺の生き様に陰をさす。 さらば自由な日々。 そして……俺はバカヤロウの仲間入りだ。 ●「小説化になろう」様にも投稿させていただいております。

異世界へ誤召喚されちゃいました~女神の加護でほのぼのスローライフ送ります~

モーリー
ファンタジー
⭐︎第4回次世代ファンタジーカップ16位⭐︎ 飛行機事故で両親が他界してしまい、社会人の長男、高校生の長女、幼稚園児の次女で生きることになった御剣家。 保険金目当てで寄ってくる奴らに嫌気がさしながらも、3人で支え合いながら生活を送る日々。 そんな矢先に、3人揃って異世界に召喚されてしまった。 召喚特典として女神たちが加護やチート能力を与え、異世界でも生き抜けるようにしてくれた。 強制的に放り込まれた異世界。 知らない土地、知らない人、知らない世界。 不安をはねのけながら、時に怖い目に遭いながら、3人で異世界を生き抜き、平穏なスローライフを送る。 そんなほのぼのとした物語。

転生者はチートな悪役令嬢になりました〜私を死なせた貴方を許しません〜

みおな
恋愛
 私が転生したのは、乙女ゲームの世界でした。何ですか?このライトノベル的な展開は。  しかも、転生先の悪役令嬢は公爵家の婚約者に冤罪をかけられて、処刑されてるじゃないですか。  冗談は顔だけにして下さい。元々、好きでもなかった婚約者に、何で殺されなきゃならないんですか!  わかりました。私が転生したのは、この悪役令嬢を「救う」ためなんですね?  それなら、ついでに公爵家との婚約も回避しましょう。おまけで貴方にも仕返しさせていただきますね?

空のない世界(裏)

石田氏
SF
働きながら書いてるので更新は不定期です。 〈8月の作者のどうでもいいコメント〉 『本格的な夏になりました。学校では夏休み、部活に励む学生、夏の催し夏祭り……ですが、楽しいことばかりではない夏でもある。山のようにある宿題、熱中症等健康悪化、夏休みのない大人。何が楽しくて、こんな暑い中祭りに行くんだと言いながら、祭りに行く自分。まぁ、色々あると思いますが、特に脱水には気をつけましょう。水分不足で、血液がどろどろになると、脳梗塞の原因になります。皆、熱中症だけじゃないんだよ。ってことで、今月も仕事しながら執筆頑張ります』 完全に趣味で書いてる小説です。 随時、概要の登場人物更新します。 ※すいません、途中字数オーバーがありますが、御承知ください。(アルファポリス様更新前の上限一万字の時のことです)

ある事実を隠した能力者

Nori
SF
ある特殊能力を得た主人公はほぼ全ての事ができる。 主人公はヒロインと出会って能力を成長させていく物語です。 主人公は過去に最強を求めて…

無記名戦旗 - no named warbanner -

重土 浄
SF
世界全てと重なり合うようにして存在する電子空間メタアース内では、今日も仮想通貨の覇権戦争が行われている そこで戦うのは全ての市民、インセンティブにつられて戦うギグソルジャー(臨時雇い傭兵)たちだ オンラインARゲームが戦争の手段となったこの時代で、いまだ純粋なプロゲーマーを目指す少年、一色空是はその卓越した技能ゆえに戦火に巻き込まれていく… オンラインと現実の境界線上で起こる新しい世界戦争。それを制するのは、ゲームの強さだけだ! (他サイトでも連載中)

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

処理中です...