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第一章

第21話 最初の迷宮攻略会議 二日目

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 [リココ視点]
 都を出て、公爵領に向かって二日目です。
 今日も馬車に揺られています。乗っているのは、イライザお嬢様、シリーさん、私の三人。

 しかし、昨日は驚きました。
 まさか、イライザお嬢様が、迷宮に挑戦しようと考えていたとは、思いもしませんでした。
 確かに迷宮に臨むならポーターは必要でしょうから、私が役立つ機会もあるのでしょうが、こんなことなら、もっと剣術とか体術とか鍛えておけばよかったです。不安しか湧いてきません。

「それでは、第二回最初の迷宮攻略会議を始めます」

 馬車に乗っているのに飽きた頃、イライザお嬢様が会議の開催を宣言しました。

「ではまず、昨日決まったことの確認から。昨日は後半グダグダになってしまったから、取り違えがないようキチンと確認するよ」

 そう言ってイライザお嬢様は決定事項を上げていきます。

 1 私の持っている肩こりの魔道具から、雷の魔法カードを作る
 2 弟のレオン様を鑑定し、土の魔法カードを作る
 3 攻撃カードは、使用者を限定できる対策ができるまで作らない
 4 闇の魔道具又は魔法使いを見つける

「こんなところかしら。ところで、闇魔法って何があるか知っている?」

 イライザお嬢様の疑問に、私も首を傾げます。
 そう言われると、闇魔法という言葉はよく聞きますけれども、具体的にどんな魔法か知らないです。光魔法ならわかりやすいけれど、周りを暗くする魔法? あまり聞いたことがないです。それとも影を操る魔法でしょうか。

「確か、精神系魔法は闇魔法に分類されているようですが、見つけるのは難しいかもしれませんね。精神系魔法は他の人から毛嫌いされる傾向にあるようですから」
 私が考え込んでいるとシリーさんが答えてくれます。
 なんか、いかにも暗そうですから納得です。

「街で手当たり次第に鑑定してみたらどうなのでしょうか」
 私はイライザお嬢様に提案してみます。

「そうね、たくさん集まれば魔術回路の解析にも役立つだろうし、やりたいところではあるのだけれど。無断で鑑定して、バレたときに厄介そうなのよね」

「そうですね」
「バレなければ問題になりようがございません」
 イライザお嬢様の言葉に同意する私と、とんでもないことを言うシリーさん。

 それにしても、シリーさんてどういう人なのでしょう。イライザお嬢様が幼い頃から専属でお世話をしているようですが、あまり仕事をしている様子を見ないのです。

 けして仕事ができないわけではなく、イライザお嬢様の側に常に控えていて、言い使ったことはサッサと熟しています。仕事の出来も正確で丁寧です。
 イライザお嬢様が、大抵のことは自分でなさってしまうので、そのせいもあり、暇をしているように見えるのかもしれません。
 いずれにしろ、自分から積極的に仕事を見つけて、熟していくタイプではないようです。

「まあ最悪、闇魔法が見つからなかった、物理で何度も切りつけましょう」
 イライザお嬢様が身も蓋も無いことをおっしゃいます。

「では次に、昨日触れられなかった、最も重要な攻略情報についてですが」
 イライザお嬢様がそこで言葉を切り、ちらりとシリーさんに視線を送っています。シリーさんが、コイツめんどくさ、といった顔でお嬢様の言葉を補うように質問します。
「ラスボススライムについてですか?」
「そうです。ラスボススライムについてです」
 阿吽の呼吸というにはちょっと無理矢理感がありますが、きっとこれはこれで息があっているのでしょう。私も早くお嬢様とこんな関係になりたいものです。

「ギルドのお姉さんの話では、物理も魔法も効かないということでしたが、攻略法などあるのでしょうか」
「実は鑑定魔法で裏攻略法がわかりました」
 イライザお嬢様はドヤ顔で胸を張ります。これは称賛の催促でしょうか。

「凄いです。イライザお嬢様。流石は鑑定魔法です。ギルド職員が知らない情報を得られるなんて素晴らしいの一言に尽きます」
 私は空気が読める女リココ。イライザお嬢様をあらん限り褒め称えます。
「で、その裏攻略法とは何なのですか」
 シリーさんが冷たく言い放します。

「おホン。塩です」
「塩ですか?」
 シリーさんが塩対応だと言いたい訳ではないようですね。
「そうです。塩です。それがラスボススライムの弱点なのよ。塩を掛ければ縮んで死んでしまうわ」

「まるでナメクジですね」
「そうですね。似た感じはありますけど」
 そう言われるとスライムがナメクジに見えて、近寄り難さが増してしまいます。

「ただ、大きさがあれなので、塩も大量に必要となるわ」
 確か、ギルドお姉さん情報によると、小さな家くらいの大きさがあるはずです。
「このくらいの大きな樽二つ分は必要よ。リココ持てる」

 イライザお嬢様は、胸の前に両腕で大きく輪を作り、樽の大きさを表現します。
「そのくらいの大きさならば、なんとかギリギリ大丈夫だと思います」
「そう。それではよろしく、頼みますね」
 早速お役に立てるようなので二つ返事で了承したいところだが、喜んでばかりもいられない。疑問に思ったことはきちんと確認しておかないと後で迷惑をかけることになりかねない。
「それは構わないのですが、そんなに大量の塩をどうやって手に入れるのですか」
「そうなのよね。そこが問題よね。いくつか方策は考えたのだけれど、どれもイマイチで」
「どんな方策を考えられたのですか」

 イライザお嬢様が指折り方策をあげていきます。
「一つ目が、お金を貯めて塩を買う」
「二つ目が、海まで行って自分で作る」
「三つ目が、シリーに辺りを塩に変えてもらう」

 三つ目をあげた時点でシリーさんがイライザお嬢様に待ったをかけます。
「お嬢様、私には辺りを塩に変えることはできませんよ」
「あら、できないの。神が天罰として辺りを塩にするのはデフォかと思っていたのだけれど」
「そんなデフォはありません」

 二人が何か分からない会話をしています。髪が点、バツっとして、当たりを塩にする? 髪を切って、それで塩が当たるクジでも引くのでしょうか?
 それともなにか、シリーさんは、塩を作り出せる魔法が使えるとかでしょうか。あ、でも、できません。と言ってますね。

「あの、話の腰を折って申し訳ないのですが、シリーさんって、どんな魔法が使えるのですか」
「そういえば、私も今まで気にしたことがなかったわ。なにが使えるのシリー」

「え、えーと。私はお嬢様の支援係ですから。支援魔法ですかね。女神の私は、この世界に直接干渉は避けなければなりませんから、イライザお嬢様専用支援魔法、カッコお嬢様の所有物を含む。にしておきます」

「なんだい、その、今決めました。みたいな感じわ。そんなのでいいわけ」
「いいんですよ。女神ですから」

 うわぁー。シリーさんて、自分のことを女神とか言っちゃう人なんだ。そりゃあ美人だし、スタイルもいいから、女神とか人から言われることも多いのだろうけれど、自分で言っちゃう可哀想な人だったのか。

「まあいいわ。それで私専用の支援魔法ってなにができるの」
 私がシリーさんを残念な目で見ている間も、イライザお嬢様とシリーさんとの会話は続いています。

「そうですね。お嬢様に対しては、身体強化支援とか思考加速支援、並列処理支援、回復支援、そうだ、移動支援なんてどうですか」
「シリー、何でも支援を付ければ許されると思っていない。ところで最後の移動支援ってなに、速く走れるようになるわけ」
「そうではなく、瞬間移動です。テレポート、転移ですね」
「あ、それすごく便利。……シリーあなた、自分が馬車移動に飽きただけでしょ」
「あはは。そんなことないですよ。あくまでお嬢様の支援です」
 なんだか、イライザお嬢様とシリーさんが、とんでもないやり取りをしています。

「それと、お嬢様の所有物にも支援魔法が効きます。威力支援とか耐久力支援とか回復支援とかですね。ただこれは、お嬢様が自分の所有物だと思ったものにしか効果がありません。こんなところでどうでしょう」
「ナイス、シリー。最高よ。昨日の問題一挙解決じゃない」

 なんかよくわからないけれど、私も喜んでおこう。
「よかったですね。イライザお嬢様」
「リココもよかったわね。威力支援とか耐久力支援とか回復支援とかだから、収納力もふえるし、攻撃力も上がるわね。何より怪我の心配が減ったのがよかったわ。これで心置きなく迷宮にもぐれるわね」
「どういうことでしょうか?」
 私はまったく意味が分からない。
「話を聞いていなかったの。しょうがないわね。シリーが、私の所有物に支援魔法を掛けてくれるのよ」

 イライザお嬢様は、「シリーが」でシリーさんを指さし、「私の」で自分の胸に手を置き、最後に、「所有物」で私を指さします。
 私は、イライザお嬢様の所有物だったようです。ちょっとショック。そんな私にシリーさんが追い打ちを掛けます。

「リココさん。支援魔法は、お嬢様が、リリコさんを、自分の所有物だと思っている間しか効果がありませんからね。注意してください」
「はい、わかりました。ありがとうございます」
 私は、やっとの思いで、お礼の言葉を口にしました。

「えーと。話が大分それたけれど、塩をどうやって確保するかの話に戻すわよ」
 イライザお嬢様が話を塩のことに戻します。
「シリーの支援魔法により、海まで行って自分で作ってくる案の最大の問題点であるどうやって海まで行くか。が、解決できたわ」
「そうですよね。海まで馬車で行ったら、一週間以上かかるでしょうから、転移で行ければ直ぐですよね。ところでシリーさん、確認してなかったですが、海まで転移できるのですか」
「問題ありませんよ。この世界なら、どこへでも転移できます」
「それは凄いですね」
 純粋に感心している私に対し、イライザお嬢様は次のことを考えていたようです。

「それはいいわね。無人島に連れて行ってもらえれば、塩の利権で問題になることもないだろうし。南国の島ならバカンスを楽しめそうだわ。そうしよう。南国の無人島に、そして、バカンス」

 イライザお嬢様は既にトリップしているようです。

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