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第一章
第8話 家庭教師
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「お初にお目にかかります、イライザ様。私は隣国アーバント王国アウラン子爵の次男ニコラス=アウランと申します。これから週に3日、一日置きに第一、第三、第五の日に家庭教師を勤めさせていただきます。よろしくお願いします」
「イライザ=ノース=シュバルツよ、こちらこそよろしくお願いしますね、先生」
6歳になったのを機に父に頼んで家庭教師を付けてもらった。
父が見つけてきたのは案の定『ニコラス=アウラン』緑髪、エルフ耳の攻略対象者だ。
「早速ですが、今日は文字の読み書きから勉強していきたいと思います」
「はい、分かりました先生」
家庭教師は鞄から何やらカードを取り出す。
「では、この文字が読めますか」
蟻の絵が描いてあるカードに「あ」の文字が書かれていた。
「あ、ですね」
「正解です。次はこれです」
犬の絵が描いてあるカードが出される。当然「い」と書いてある。
「い、ですね。先生、私、字は全て読めます」
この世界で使われている文字は、日本語そのままである。
流石に、前世の記憶を取り戻した私には、このまま続けられるのは辛いので、文字は分かることを訴える。
「あ、そうですか。既に誰かに教わりましたか?」
「メイドのシリーに教わりました」
嘘である。シリーには時々絵本を読んでもらったが、文字は教わっていない。
「では書く方の勉強をしましょうか」
鞄から紙とペンとインク瓶を取り出す。
「先生、書くこともできます」
「それはすごいですね。では私が言った言葉を書いてみてください」
紙とペンを渡してくる。
「むかしむかしあるところにうさぎとかめがいました」
私は「昔々あるところに兎と亀がいました」と紙に書き彼に渡す。
「書けました」
「ひらがなだけでなく漢字も書けるのですか!」
「漢字は勿論カタカナも書けますよ」
びっくりしている彼を見て、私は当然だと胸を張り、笑みを浮かべる。
「そうですか。そうすると、文字の読み書きの勉強は必要ないかも知れませんね」
これはあれか、学問無双の始まりだな。そんな事を思った時期もありました。
「じゃあ、数字の勉強をしましょう。一から順に数えてください」
私は、そこからかと思いながら数を数えていく。
「1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11」
「はい、いいですよ。8までは数えられるようですね」
11まで数えたところで止められた。
「8の次は、11ですよ。最後のエスは言わなくても構いません」
訳の分からないことを言われ私は焦る。
「いちえふいちえす? どう書くのですか?」
「いちエフいちエスはこう書きますね」
彼が紙に「11」と書く。
「先生8の次は9ではないのですか?」
「キュウ? なんの事でしょう。数は、1から8までの8個の数字とS F C A G P M Oの位を表す記号からなります。まだ難しいですよね。まあ、Sの位は大丈夫なようなので、Fの位まで数えられるように頑張りましょう」
彼は、教えることが有って安心したような表情を浮かべる。
「先生、4足す6はいくつですか」
「足し算ですか、まだ早いですよ。段々と教えますからね。ちなみに答えは12です」
ちょっと困った子を宥めるように答える彼。
「いちエフにセス」
その答えに考え込む私。
「それではこの飴玉を21まで数えてみましょう。私が先に言いますので、後の続いてください」
鞄から飴玉と皿二枚を取り出し、片方の皿に飴玉を広げ、もう片方の皿に、一つづつ移しながら数を数えていく。
「ではいきますよ。1、2、3、4、5、6、7、8、11、12、13、14、15、16、17、18、21」
私は素直に復唱していく。
「1、2、3、4、5、6、7、8、11、12、13、14、15、16、17、18、21」
「はい、いいですよ。8は1F、18は2Fでも構わないのですが、徐々に覚えていきましょうね」
ここで私はあることに気付く。
「先生」
「どうしました」
「数字に0はないのでしょいか」
「ゼロ、聞いた事がありませんね。どこかの方言ですか?」
彼は首を傾げた。
「あ、いえ勘違いです。忘れてください」
私は焦ったように両手を振り、発言を取り消す。続いて次の問いかけをする。
「ちなみに先生、ここに飴が2個あります。これを私が2個とも食べてしまったら残りはいくつになりますか」
「残りは無くなりますよね。心配しなくても好きなだけ持っていっていいのですよ」
彼は、微笑ましいものを見る目でそう答えた。
私は心の中で困っていた。
そうか、八進法か。しかもゼロの概念がないときたか。こりゃ学問無双は無理だな。一からちゃんと勉強しないと。
ちなみにこの世界、小数点もなかった。1より小さい数は、分数で表すだけであった。
その後も彼に様々なことを習った。
時間や月日、お金の単位、身分制度や教育制度など、前世と大きく違うことも多かったが、それでも前世がアラサーOL、理解力と応用力では同年代の子供と比ぶべくもなく、三年を待たずに一通りの知識を身に着けたのだった。
「イライザ=ノース=シュバルツよ、こちらこそよろしくお願いしますね、先生」
6歳になったのを機に父に頼んで家庭教師を付けてもらった。
父が見つけてきたのは案の定『ニコラス=アウラン』緑髪、エルフ耳の攻略対象者だ。
「早速ですが、今日は文字の読み書きから勉強していきたいと思います」
「はい、分かりました先生」
家庭教師は鞄から何やらカードを取り出す。
「では、この文字が読めますか」
蟻の絵が描いてあるカードに「あ」の文字が書かれていた。
「あ、ですね」
「正解です。次はこれです」
犬の絵が描いてあるカードが出される。当然「い」と書いてある。
「い、ですね。先生、私、字は全て読めます」
この世界で使われている文字は、日本語そのままである。
流石に、前世の記憶を取り戻した私には、このまま続けられるのは辛いので、文字は分かることを訴える。
「あ、そうですか。既に誰かに教わりましたか?」
「メイドのシリーに教わりました」
嘘である。シリーには時々絵本を読んでもらったが、文字は教わっていない。
「では書く方の勉強をしましょうか」
鞄から紙とペンとインク瓶を取り出す。
「先生、書くこともできます」
「それはすごいですね。では私が言った言葉を書いてみてください」
紙とペンを渡してくる。
「むかしむかしあるところにうさぎとかめがいました」
私は「昔々あるところに兎と亀がいました」と紙に書き彼に渡す。
「書けました」
「ひらがなだけでなく漢字も書けるのですか!」
「漢字は勿論カタカナも書けますよ」
びっくりしている彼を見て、私は当然だと胸を張り、笑みを浮かべる。
「そうですか。そうすると、文字の読み書きの勉強は必要ないかも知れませんね」
これはあれか、学問無双の始まりだな。そんな事を思った時期もありました。
「じゃあ、数字の勉強をしましょう。一から順に数えてください」
私は、そこからかと思いながら数を数えていく。
「1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11」
「はい、いいですよ。8までは数えられるようですね」
11まで数えたところで止められた。
「8の次は、11ですよ。最後のエスは言わなくても構いません」
訳の分からないことを言われ私は焦る。
「いちえふいちえす? どう書くのですか?」
「いちエフいちエスはこう書きますね」
彼が紙に「11」と書く。
「先生8の次は9ではないのですか?」
「キュウ? なんの事でしょう。数は、1から8までの8個の数字とS F C A G P M Oの位を表す記号からなります。まだ難しいですよね。まあ、Sの位は大丈夫なようなので、Fの位まで数えられるように頑張りましょう」
彼は、教えることが有って安心したような表情を浮かべる。
「先生、4足す6はいくつですか」
「足し算ですか、まだ早いですよ。段々と教えますからね。ちなみに答えは12です」
ちょっと困った子を宥めるように答える彼。
「いちエフにセス」
その答えに考え込む私。
「それではこの飴玉を21まで数えてみましょう。私が先に言いますので、後の続いてください」
鞄から飴玉と皿二枚を取り出し、片方の皿に飴玉を広げ、もう片方の皿に、一つづつ移しながら数を数えていく。
「ではいきますよ。1、2、3、4、5、6、7、8、11、12、13、14、15、16、17、18、21」
私は素直に復唱していく。
「1、2、3、4、5、6、7、8、11、12、13、14、15、16、17、18、21」
「はい、いいですよ。8は1F、18は2Fでも構わないのですが、徐々に覚えていきましょうね」
ここで私はあることに気付く。
「先生」
「どうしました」
「数字に0はないのでしょいか」
「ゼロ、聞いた事がありませんね。どこかの方言ですか?」
彼は首を傾げた。
「あ、いえ勘違いです。忘れてください」
私は焦ったように両手を振り、発言を取り消す。続いて次の問いかけをする。
「ちなみに先生、ここに飴が2個あります。これを私が2個とも食べてしまったら残りはいくつになりますか」
「残りは無くなりますよね。心配しなくても好きなだけ持っていっていいのですよ」
彼は、微笑ましいものを見る目でそう答えた。
私は心の中で困っていた。
そうか、八進法か。しかもゼロの概念がないときたか。こりゃ学問無双は無理だな。一からちゃんと勉強しないと。
ちなみにこの世界、小数点もなかった。1より小さい数は、分数で表すだけであった。
その後も彼に様々なことを習った。
時間や月日、お金の単位、身分制度や教育制度など、前世と大きく違うことも多かったが、それでも前世がアラサーOL、理解力と応用力では同年代の子供と比ぶべくもなく、三年を待たずに一通りの知識を身に着けたのだった。
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