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二年目、六歳
第82話 悪魔が来たの。
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そろそろ初夏といえる季節となり、強烈な陽射しが降り注ぐなか、レイニィは木陰で涼みながらデッキチェアに座り、空を見上げ雲を眺めていた。
「レイニィ様、何か冷たい飲み物でもお持ちしましょうか?」
侍女のスノウィが声を掛ける。
「そうね。お願い」
「それでは用意してまいります」
スノウィは屋敷の中に消えていった。
それを待っていたかのように、見慣れない男がレイニィの側に突然現れた。
「貴方、どなたなの? どうやってここに入って来たの?」
ここは、領主の屋敷の中庭だ。表には警備の者がおり、誰でも簡単に入り込めるわけではない。
その上、レイニィの魔法が強力であることは、港町ライズでは有名になっているので、強盗や人攫いなどは領主の屋敷を狙うことはない。それに今は、真昼間だ。
だが、レイニィはこの男に警戒していた。
それは、レイニィが常に張り巡らせている検索魔法に引っ掛からなかったからである。
隠密能力が優れているのか、それとも瞬間移動してきたのか。
兎に角、何の前触れもなく、レイニィの側に現れたのだ。
「君が元勇者に要らない知恵を授けている者か――。まさかこんなに幼いとは盲点だった」
「もしかして、貴方、悪魔なの?」
「察しがいいいな。その通り、私は君達がいうところの悪魔だ」
レイニィは焦っていた。
(悪魔は技術の発展を邪魔しているという話だ。元勇者に技術提供し過ぎただろうか……。話の内容からして、元勇者から身元がバレたようである。使えない元勇者だ!)
「それで、悪魔が、私になんの用なの」
「勿論、これ以上の技術を発展させないよう、この場で君に死んでもらうためだ」
「ちょっと待つの! こんな小さな子供を手に掛けて心が痛まないの?」
「心は痛むが致し方ない。せめて、苦しまないように殺してやる」
悪魔は腕を横に振り払った。見えない刃がレイニィを襲う。
「痛っ!」
レイニィは、一瞬、首に痛みを覚えて、そこに手をやる。僅かに血が滲んでいるようだ。
レイニィの首の周りが、いくらか赤くなっていたが、それも直ぐに治まり、それに合わせて痛みも引いていった。今は元通りだ。
「何をしたの?!」
「これは驚いた……。君は本当に人間か?」
「失礼なの! こんなかわいい女の子に向かって、なの」
「普通の人間なら、さっきの一振りで首が飛んでいるところなんだが――」
「首が飛んでる?!」
レイニィは慌てて首を再確認する。今はもう変わったところはない。ちゃんと頭と胴体を繋いでいる。
「貴方、私を殺す気なの?!」
「いや、そう言ったはずだが――」
レイニィは状況についていけず、パニックを起こしている。
「もう一度試してみるか。それ」
悪魔が再び腕を横に振り払う。
「痛っ! 何するの、まったく!!」
今度はお腹に痛みが走る。
次の瞬間、着ていた服の下半分が地面に落ちた。
「きゃー!なんてことしてくれるのよ!!これじゃ、へそ出しルックじゃないの。
頭に来たわ。これでもくらいなさい!!」
レイニィは悪魔に向かって魔力を放つ。雷撃が悪魔に迫るが、悪魔は素早くそれを避ける。
「危ないなー。エルフでもないのに魔術が使えるのか? あんなの当ったら死んでしまうだろう」
「人のこと殺そうとしているくせに、なに言っているの?!」
「君は、本当に何者なんだ? 切っても直ぐにくっついちゃうし。実はスライムか?」
レイニィは悪魔の攻撃を防いでいるわけではない。
悪魔の攻撃を食らって切られているのだが、切られた瞬間から、女神の加護の自己再生により傷口が塞がっているだけだった。
「スライムだなんて、本当に失礼ね。これを見なさい!」
レイニィは、神の封筒から便箋を取り出した。
これで、人間であると証明できるはずだ。
「ちゃんとここに人間だと書かれて……。いないわね?」
便箋に書かれているのは、名前と職(ジョブ)と賞罰だけだ。種族は書かれていなかった。
「あはははは。君は面白いな!」
「くっ! 種族が書かれていないなんて、何のための証明書よ。ん? あれ? この賞罰欄の、称号の後のかっこ書きはなによ。信者? こんなのあったかしら??」
「どれどれ、見せてみろ」
戦闘中であるのにも関わらず、悪魔はレイニィに近付き便箋を覗き込んだ。
全く緊張感の足りない二人である。
「何々。称号「希少世放神」(信者:四千八百六十五人)。おい! 君は神だったのか?」
「いえ、私は人間ですけど?」
「人間でも、神なのだろ。それも信者が五千人近くいるじゃないか! これでは殺すわけにはいかなくなったぞ――」
「え、見逃してくれるのですか?」
「神は、普通の人間に比べて幸福度が高い。しかも、君が死ねば、信者五千人分の幸福度も下がってしまう。
つまり、君を殺すことは、五千人の人間を殺すことと同じということだ。流石にそこまではできない」
レイニィは、なんとか命拾いをしたようだ。
「レイニィ様、何か冷たい飲み物でもお持ちしましょうか?」
侍女のスノウィが声を掛ける。
「そうね。お願い」
「それでは用意してまいります」
スノウィは屋敷の中に消えていった。
それを待っていたかのように、見慣れない男がレイニィの側に突然現れた。
「貴方、どなたなの? どうやってここに入って来たの?」
ここは、領主の屋敷の中庭だ。表には警備の者がおり、誰でも簡単に入り込めるわけではない。
その上、レイニィの魔法が強力であることは、港町ライズでは有名になっているので、強盗や人攫いなどは領主の屋敷を狙うことはない。それに今は、真昼間だ。
だが、レイニィはこの男に警戒していた。
それは、レイニィが常に張り巡らせている検索魔法に引っ掛からなかったからである。
隠密能力が優れているのか、それとも瞬間移動してきたのか。
兎に角、何の前触れもなく、レイニィの側に現れたのだ。
「君が元勇者に要らない知恵を授けている者か――。まさかこんなに幼いとは盲点だった」
「もしかして、貴方、悪魔なの?」
「察しがいいいな。その通り、私は君達がいうところの悪魔だ」
レイニィは焦っていた。
(悪魔は技術の発展を邪魔しているという話だ。元勇者に技術提供し過ぎただろうか……。話の内容からして、元勇者から身元がバレたようである。使えない元勇者だ!)
「それで、悪魔が、私になんの用なの」
「勿論、これ以上の技術を発展させないよう、この場で君に死んでもらうためだ」
「ちょっと待つの! こんな小さな子供を手に掛けて心が痛まないの?」
「心は痛むが致し方ない。せめて、苦しまないように殺してやる」
悪魔は腕を横に振り払った。見えない刃がレイニィを襲う。
「痛っ!」
レイニィは、一瞬、首に痛みを覚えて、そこに手をやる。僅かに血が滲んでいるようだ。
レイニィの首の周りが、いくらか赤くなっていたが、それも直ぐに治まり、それに合わせて痛みも引いていった。今は元通りだ。
「何をしたの?!」
「これは驚いた……。君は本当に人間か?」
「失礼なの! こんなかわいい女の子に向かって、なの」
「普通の人間なら、さっきの一振りで首が飛んでいるところなんだが――」
「首が飛んでる?!」
レイニィは慌てて首を再確認する。今はもう変わったところはない。ちゃんと頭と胴体を繋いでいる。
「貴方、私を殺す気なの?!」
「いや、そう言ったはずだが――」
レイニィは状況についていけず、パニックを起こしている。
「もう一度試してみるか。それ」
悪魔が再び腕を横に振り払う。
「痛っ! 何するの、まったく!!」
今度はお腹に痛みが走る。
次の瞬間、着ていた服の下半分が地面に落ちた。
「きゃー!なんてことしてくれるのよ!!これじゃ、へそ出しルックじゃないの。
頭に来たわ。これでもくらいなさい!!」
レイニィは悪魔に向かって魔力を放つ。雷撃が悪魔に迫るが、悪魔は素早くそれを避ける。
「危ないなー。エルフでもないのに魔術が使えるのか? あんなの当ったら死んでしまうだろう」
「人のこと殺そうとしているくせに、なに言っているの?!」
「君は、本当に何者なんだ? 切っても直ぐにくっついちゃうし。実はスライムか?」
レイニィは悪魔の攻撃を防いでいるわけではない。
悪魔の攻撃を食らって切られているのだが、切られた瞬間から、女神の加護の自己再生により傷口が塞がっているだけだった。
「スライムだなんて、本当に失礼ね。これを見なさい!」
レイニィは、神の封筒から便箋を取り出した。
これで、人間であると証明できるはずだ。
「ちゃんとここに人間だと書かれて……。いないわね?」
便箋に書かれているのは、名前と職(ジョブ)と賞罰だけだ。種族は書かれていなかった。
「あはははは。君は面白いな!」
「くっ! 種族が書かれていないなんて、何のための証明書よ。ん? あれ? この賞罰欄の、称号の後のかっこ書きはなによ。信者? こんなのあったかしら??」
「どれどれ、見せてみろ」
戦闘中であるのにも関わらず、悪魔はレイニィに近付き便箋を覗き込んだ。
全く緊張感の足りない二人である。
「何々。称号「希少世放神」(信者:四千八百六十五人)。おい! 君は神だったのか?」
「いえ、私は人間ですけど?」
「人間でも、神なのだろ。それも信者が五千人近くいるじゃないか! これでは殺すわけにはいかなくなったぞ――」
「え、見逃してくれるのですか?」
「神は、普通の人間に比べて幸福度が高い。しかも、君が死ねば、信者五千人分の幸福度も下がってしまう。
つまり、君を殺すことは、五千人の人間を殺すことと同じということだ。流石にそこまではできない」
レイニィは、なんとか命拾いをしたようだ。
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