79 / 104
二年目、六歳
第79話 沼の主なの。
しおりを挟む
勇者の依頼で南部の水田地帯に来ていたレイニィ達は、村に着いた翌日、村から少し離れた沼に来ていた。
「この沼から、この辺一帯の田んぼに水を引いているわけなの?」
「そうだ。だからこの水に魔力を帯びさせることが出来れば、全ての田んぼに魔力が供給出来るという寸法だ」
「なるほど、考えたの。水田ならではの方法なの」
「そうだろう。そうだろう」
レイニィに褒められて元勇者は得意顔だ。
「それはいいとして、村長が言っていた沼の主については、どうするつもりなんだ?」
エルダがそんな勇者に注意を促す。
「出て来たら倒して仕舞えばいいだろう。村人も困っているみたいだし。一石二鳥だ」
「それはお前に任せていいんだろうな?」
「おう。任せておけ。沼の主ぐらい一捻りだ」
「そうか。それならまあいいが。余り調子に乗っていると足元をすくわれるぞ」
「わかってるって」
「それじゃあ沼に魔力を込めるけどいいの?」
「おう。ありったけ込めてくれ」
「では、いくの!」
「レイニィ様、頑張ってください」
レイニィは沼全体に魔力を込める。水面が光り輝く。
「綺麗。流石レイニィ様だわ」
「おお。凄いな」
「こら、レイニィ。魔力の込め過ぎだ。いつも頑張り過ぎるなと言ってるだろう!」
魔力を感じられない二人は、呑気に綺麗だなどと騒いでいるが、魔力を感じられるエルダにしてみれば、沼全体を光らせる魔力量に驚いていた。
「ん? もういいの?」
「一度にやらずに、様子を見ながらやっていこう。魔力過多になっても、それはそれで厄介だ」
「はいなの」
エルダに言われて、レイニィは魔力を込めるのを止める。
すると、さっきまで光り輝いていた水面が渦巻き始めた。
「何か出て来るの?」
「主が出てくるのか!」
ザッパン!!
渦の中心から巨大な何かが姿を現した。
「ドラム缶並みの太さがあるが、あれは、大蛇(オロチ)か?」
「大蛇ってヘビですか?! キャー!! レイニィ様逃げますよ」
スノウィはレイニィを抱き上げると一目散に逃げ出す。
どうも、スノウィはヘビが苦手な様だ。
大蛇はレイニィの魔力がもっと欲しいのか、レイニィを追って沼から這い出てきた。
「元勇者よ、出番だぞ」
「任せろ!」
元勇者は、聖剣を抜くと大蛇に向かって斬りかかっていった。
ヌル。
元勇者の聖剣は、大蛇の表皮の滑りにより、大蛇を斬り裂くことなく滑ってしまう。
「何だと?! この。これでどうだ!!」
元勇者は再び斬りつけるが結果は同じで、聖剣が滑って、大蛇を斬ることができない。
「くそう! 表皮の滑りで剣が役に立たん」
大蛇はクネクネ、くねりながらレイニィを追って行く。
「キャー! 追って来ました。いやー!!」
スノウィが叫び声を上げて、レイニィを抱えたまま逃げ回る。
「ん? あの大蛇、ヒレがあるな。エラもあるし。体の滑りといい。大蛇じゃなくてウナギじゃないのか?」
「ウナギだと。だとすると主鰻(イールロード)か」
エルダと元勇者の会話をスノウィが聞きつける。
「ヘビでなくウナギなのですか?」
「多分、ウナギだな」
「そうですか。ウナギですか……」
スノウィの目付きが変わる。逃げるのを止め、抱えていたレイニィを下ろすと、主鰻と対峙した。
「レイニィ様。魔法で頭を釘付けにしてください!」
「え? え? 釘付け?」
「レイニィ様、早く!」
「水が側にあるし、氷柱(ツララ)でいいか――」
スノウィに急かされて、レイニィは魔法を放つ。沼の水を使って氷柱を作ると、それを主鰻の頭に向けて打ち付けた。
「貸しなさい!」
「あ! 俺の聖剣――」
スノウィは元勇者の聖剣を奪い取ると、そのまま主鰻に向かって走り寄り、その背中に飛び乗ると、そこに聖剣を突き立てた。
「ウナギの捌き方は、背開きよ」
そのまま、尻尾に向かって切り裂いていく。そして、瞬く間にスノウィは、主鰻を捌いてしまった。
「ふうー。一丁上がり!」
「凄いの。これ、蒲焼き、何人前なの?」
「たいした腕前ね」
「いえ、これくらい侍女として出来て当然です」
「それに引き換え、口だけの人もいるけど」
エルダが元勇者を冷ややかな目で見る。
「うっ! それは……」
「まあ、元勇者も頑張ったの。でも、役立たずなの」
「ガーン」
レイニィにまで言われて、元勇者はショックを受けてその場で項垂れてしまった。
「まあまあ。元勇者さんもウナギでも食べて元気を出してください」
「ううう。ありがとうございます。こうなりゃやけ食いだ!」
レイニィ達は、無事、沼の主を退治し、田んぼに魔力を供給することにも成功したのだった。
「この沼から、この辺一帯の田んぼに水を引いているわけなの?」
「そうだ。だからこの水に魔力を帯びさせることが出来れば、全ての田んぼに魔力が供給出来るという寸法だ」
「なるほど、考えたの。水田ならではの方法なの」
「そうだろう。そうだろう」
レイニィに褒められて元勇者は得意顔だ。
「それはいいとして、村長が言っていた沼の主については、どうするつもりなんだ?」
エルダがそんな勇者に注意を促す。
「出て来たら倒して仕舞えばいいだろう。村人も困っているみたいだし。一石二鳥だ」
「それはお前に任せていいんだろうな?」
「おう。任せておけ。沼の主ぐらい一捻りだ」
「そうか。それならまあいいが。余り調子に乗っていると足元をすくわれるぞ」
「わかってるって」
「それじゃあ沼に魔力を込めるけどいいの?」
「おう。ありったけ込めてくれ」
「では、いくの!」
「レイニィ様、頑張ってください」
レイニィは沼全体に魔力を込める。水面が光り輝く。
「綺麗。流石レイニィ様だわ」
「おお。凄いな」
「こら、レイニィ。魔力の込め過ぎだ。いつも頑張り過ぎるなと言ってるだろう!」
魔力を感じられない二人は、呑気に綺麗だなどと騒いでいるが、魔力を感じられるエルダにしてみれば、沼全体を光らせる魔力量に驚いていた。
「ん? もういいの?」
「一度にやらずに、様子を見ながらやっていこう。魔力過多になっても、それはそれで厄介だ」
「はいなの」
エルダに言われて、レイニィは魔力を込めるのを止める。
すると、さっきまで光り輝いていた水面が渦巻き始めた。
「何か出て来るの?」
「主が出てくるのか!」
ザッパン!!
渦の中心から巨大な何かが姿を現した。
「ドラム缶並みの太さがあるが、あれは、大蛇(オロチ)か?」
「大蛇ってヘビですか?! キャー!! レイニィ様逃げますよ」
スノウィはレイニィを抱き上げると一目散に逃げ出す。
どうも、スノウィはヘビが苦手な様だ。
大蛇はレイニィの魔力がもっと欲しいのか、レイニィを追って沼から這い出てきた。
「元勇者よ、出番だぞ」
「任せろ!」
元勇者は、聖剣を抜くと大蛇に向かって斬りかかっていった。
ヌル。
元勇者の聖剣は、大蛇の表皮の滑りにより、大蛇を斬り裂くことなく滑ってしまう。
「何だと?! この。これでどうだ!!」
元勇者は再び斬りつけるが結果は同じで、聖剣が滑って、大蛇を斬ることができない。
「くそう! 表皮の滑りで剣が役に立たん」
大蛇はクネクネ、くねりながらレイニィを追って行く。
「キャー! 追って来ました。いやー!!」
スノウィが叫び声を上げて、レイニィを抱えたまま逃げ回る。
「ん? あの大蛇、ヒレがあるな。エラもあるし。体の滑りといい。大蛇じゃなくてウナギじゃないのか?」
「ウナギだと。だとすると主鰻(イールロード)か」
エルダと元勇者の会話をスノウィが聞きつける。
「ヘビでなくウナギなのですか?」
「多分、ウナギだな」
「そうですか。ウナギですか……」
スノウィの目付きが変わる。逃げるのを止め、抱えていたレイニィを下ろすと、主鰻と対峙した。
「レイニィ様。魔法で頭を釘付けにしてください!」
「え? え? 釘付け?」
「レイニィ様、早く!」
「水が側にあるし、氷柱(ツララ)でいいか――」
スノウィに急かされて、レイニィは魔法を放つ。沼の水を使って氷柱を作ると、それを主鰻の頭に向けて打ち付けた。
「貸しなさい!」
「あ! 俺の聖剣――」
スノウィは元勇者の聖剣を奪い取ると、そのまま主鰻に向かって走り寄り、その背中に飛び乗ると、そこに聖剣を突き立てた。
「ウナギの捌き方は、背開きよ」
そのまま、尻尾に向かって切り裂いていく。そして、瞬く間にスノウィは、主鰻を捌いてしまった。
「ふうー。一丁上がり!」
「凄いの。これ、蒲焼き、何人前なの?」
「たいした腕前ね」
「いえ、これくらい侍女として出来て当然です」
「それに引き換え、口だけの人もいるけど」
エルダが元勇者を冷ややかな目で見る。
「うっ! それは……」
「まあ、元勇者も頑張ったの。でも、役立たずなの」
「ガーン」
レイニィにまで言われて、元勇者はショックを受けてその場で項垂れてしまった。
「まあまあ。元勇者さんもウナギでも食べて元気を出してください」
「ううう。ありがとうございます。こうなりゃやけ食いだ!」
レイニィ達は、無事、沼の主を退治し、田んぼに魔力を供給することにも成功したのだった。
1
お気に入りに追加
223
あなたにおすすめの小説

内政チートをやってみよう!……まあぼっちですが。
カナデ
ファンタジー
誰も立ち入らない深い森の中の小さな集落。住人はリザティア以外は全てが老人だったが、とうとうたった一人になってしまった。
これからどうしよう? ここから、森から出て外の世界へ行く?
……いいえ。この集落で一人で暮らします! ぼっちだけど、内政チートで! 相棒のシルバー(狼)と精霊たちとともに!
これは前世の記憶を持った少女が、でも自分が何故異世界転生だか転移したか何も分からないので、異世界へ飛び込まずに、森の中でのんびりと自由に暮らすことを目標にして生活していくお話です。
いつしか集落にも住人が増え、内政チートの本領発揮、となるか?(そんな感じです)
完結まで連載予定ですので、どうぞよろしくお願いします<(_ _)>
**この話は、他サイトさんで連載していた同タイトルの話(未完)の大幅改稿版となっています**
第2章から、書き直し、書き下しの部分が改稿部分より増え、話も追加で新たに入れます。
大分改稿前とは変わると思いますが、ご了承ください。
3/1 HOT32位 3/2HOT 22位 3/5HOT16位 3/7HOT14位 ありがとうございます!
3/7 お気に入り 1000 ありがとうございます!

チート幼女とSSSランク冒険者
紅 蓮也
ファンタジー
【更新休止中】
三十歳の誕生日に通り魔に刺され人生を終えた小鳥遊葵が
過去にも失敗しまくりの神様から異世界転生を頼まれる。
神様は自分が長々と語っていたからなのに、ある程度は魔法が使える体にしとく、無限収納もあげるといい、時間があまり無いからさっさと転生しちゃおっかと言いだし、転生のため光に包まれ意識が無くなる直前、神様から不安を感じさせる言葉が聞こえたが、どうする事もできない私はそのまま転生された。
目を開けると日本人の男女の顔があった。
転生から四年がたったある日、神様が現れ、異世界じゃなくて地球に転生させちゃったと・・・
他の人を新たに異世界に転生させるのは無理だからと本来行くはずだった異世界に転移することに・・・
転移するとそこは森の中でした。見たこともない魔獣に襲われているところを冒険者に助けられる。
そして転移により家族がいない葵は、冒険者になり助けてくれた冒険者たちと冒険したり、しなかったりする物語
※この作品は小説家になろう様、カクヨム様、ノベルバ様、エブリスタ様でも掲載しています。


異世界に転生したので幸せに暮らします、多分
かのこkanoko
ファンタジー
物心ついたら、異世界に転生していた事を思い出した。
前世の分も幸せに暮らします!
平成30年3月26日完結しました。
番外編、書くかもです。
5月9日、番外編追加しました。
小説家になろう様でも公開してます。
エブリスタ様でも公開してます。

神々の仲間入りしました。
ラキレスト
ファンタジー
日本の一般家庭に生まれ平凡に暮らしていた神田えいみ。これからも普通に平凡に暮らしていくと思っていたが、突然巻き込まれたトラブルによって世界は一変する。そこから始まる物語。
「私の娘として生まれ変わりませんか?」
「………、はいぃ!?」
女神の娘になり、兄弟姉妹達、周りの神達に溺愛されながら一人前の神になるべく学び、成長していく。
(ご都合主義展開が多々あります……それでも良ければ読んで下さい)
カクヨム様、小説家になろう様にも投稿しています。

貴方の隣で私は異世界を謳歌する
紅子
ファンタジー
あれ?わたし、こんなに小さかった?ここどこ?わたしは誰?
あああああ、どうやらわたしはトラックに跳ねられて異世界に来てしまったみたい。なんて、テンプレ。なんで森の中なのよ。せめて、街の近くに送ってよ!こんな幼女じゃ、すぐ死んじゃうよ。言わんこっちゃない。
わたし、どうなるの?
不定期更新 00:00に更新します。
R15は、念のため。
自己満足の世界に付き、合わないと感じた方は読むのをお止めください。設定ゆるゆるの思い付き、ご都合主義で書いているため、深い内容ではありません。さらっと読みたい方向けです。矛盾点などあったらごめんなさい(>_<)

異世界母さん〜母は最強(つよし)!肝っ玉母さんの異世界で世直し無双する〜
トンコツマンビックボディ
ファンタジー
馬場香澄49歳 専業主婦
ある日、香澄は買い物をしようと町まで出向いたんだが
突然現れた暴走トラック(高齢者ドライバー)から子供を助けようとして
子供の身代わりに車にはねられてしまう

神獣に転生!?人を助けて死んだら異世界に転生する事になりました
Miki
ファンタジー
学校が終わりバイトに行く途中、子供を助けて代わりに死んでしまった。
実は、助けた子供は別の世界の神様でお詫びに自分の世界に転生させてくれると言う。
何か欲しい能力があるか聞かれたので希望をいい、いよいよ異世界に転生すると・・・・・・
何故か神獣に転生していた!
始めて書いた小説なので、文章がおかしかったり誤字などあるかもしてませんがよろしくお願いいたします。
更新は、話が思いついたらするので早く更新できる時としばらく更新てきない時があります。ご了承ください。
人との接し方などコミュニケーションが苦手なので感想等は返信できる時とできない時があります。返信できなかった時はごめんなさいm(_ _)m
なるべく返信できるように努力します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる