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一年目、五歳

第18話 自分で訓練するの。

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 それから二週間、レイニィは必死に魔術の特訓を行った。
「うー」とか「やー」とか、色々気合を込めてみたが、魔法が使えることはなかった。
 一度使えたとはいえ、全くに手探り状態だ。簡単にいくわけがない。

 レイニィは前世の記憶にある、異世界の物語の主人公達が、魔法を使う時、魔力の流れを感じてそれを操り、後はイメージが大事だと語っていたのを思い出した。
 レイニィはそれに倣ってやってみることにした。

「先ずは魔力を感じる。体の中心に暖かい力の源のようなものを感じ取る。
 その力を、血液が流れるように体の中を巡らせる。
 うーん。難しいな。
 少しイメージを変えて、血液でなく、神経を伝って魔力が伝わる感じでやってみようか。ん?なんとなくいい感じかな。
 今度はそれを手に集めて。
 あ、何か暖かいような感じがする。
 そしたら、あの時出たのは多分雷魔法だから。
 雷、出ろ。
 駄目か。なら。
 電気、でどうだ。
 魔力を電気に変えて放出。
 駄目だな。
 確か、電気は電子の流れ、だったはずだから。
 魔力で電子を押し出す感じで、どうだ。
 駄目か。やっぱり簡単にはいかないな。魔力が集まってきている感覚はあるんだけどな」

 その後もあれやこれや試してみたが、結局二週間では魔術が使えるようにはならなかった。

 レイニィが魔術の特訓を始めて二週間。時は無情に過ぎていった。
 その間、レイニィは魔力を感じて操作出来るような感覚はあったが、肝心の魔法が放たれることはなかった。

「こうなれば後は本番に奇跡が起こるのに賭けるしかない。アントを倒した時も、切羽詰まったらできたのだ。今回も、その状況になればできるかもしれない」

 レイニィは、奇跡が起こることを期待して、本番に臨んだ。

 商人達は既に屋敷の裏山に集まり、すき勝手に話していた。
 もし魔法が成功した場合、どれだけの威力があるか分からないので、魔法のお披露目会場は、屋敷の裏山となった。裏山の少し開けたところに、案山子を立てて、それを的にすることにした。

「しかし、領主様にも困ったものですな。子煩悩なのはいいですが、度が過ぎますよ」
「そうですな。いくら娘が可愛いからとはいえ、流石に白金貨百枚はやりすぎですよ」
「まあでも確かにレイニィお嬢様は可愛いですからね。気持ちもわからなくもない」
「確かに、レイニィ様が自分の娘になるなら白金貨百枚では安いくらいですよ」
「レイニィたん、モエー」

 若干危ない奴が混じっているようだ。

「とはいえ、レイニィ様も、自分が倒したなどと言わなければ良いものを――」
「まあ、まだ子供ですからね。それくらいの嘘はよくあるものです」
「そうですね。現実と妄想がごっちゃになっているのでしょうね」
「そうそう。私も子供の頃は、ウサギを相手に、角兎(ホーンラビット)だと思って剣の稽古をしていました」
「ああ、そんな時期もありましたね。私はカエルを毒蛙(ポインズフロッグ)だと言って倒して回ってましたな」
「あなたもですか?」
「あの頃は自分が勇者になった気分でした!」
「そうでしたな」
「それにしても、アリとあの大女王蟻(ジャイアントクィーンアント)では大きさが違い過ぎますがね」
「あははははは!」

 商人達は、誰もレイニィがクィーンアントを倒したと信じていなかった。

「しかし、あれは大女王蟻の中でも殊更大きいですな」
「しかも、変異種で透明となれば、欲しい人は沢山いるでしょうね」
「これは、白金貨百枚では、すまないかもしれませんよ?」
「どこまで出す気ですか?」
「それは言えませんよ」

 商人達は腹の探り合いを始めた。

 そこに領主のゲイルが、娘のレイニィを連れて現れた。

「忙しいところ、態々集まっていただきすまなかった。これからレイニィがクィーンアントを倒した事を証明する」

 商人達が騒めき立つ。

「ちょっと待ってください領主様。レイニィ様にあれが倒せるはずないでしょう?」

 商人達はまさか本当に領主がそんなことを実行するとは考えていなかった。ああは言ったが、競売のために集められたと思っていたのだ。

「それを、これから証明しようというのではないか」
「なるほど、そういうことですか。そうですね。レイニィ様、頑張ってくださいね」
「うん。頑張るの!」

 商人達は、これは、レイニィ自身に、クィーンアントが倒せるはずがないと、現実を突きつけて、わからせるための行為だと、誤った理解をしたのだった。

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