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一年目、五歳

第10話 風向風速計を作るの。

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 『お天気キャスター』を目指すレイニィは、天気予報をするために、気象観測をしようと思ったが、この世界には温度計などの観測機器がなかった。
 本人の感覚だけで記録することも無意味であるわけでは無いが、客観的な数値化されたデータが欲しい。
 レイニィは観測機器の作成から始めることにした。
 これを広めれば、広範囲からのデータを得られることになるし、女神様との約束である、異世界の技術を広めることにもなる。一石二鳥だ。

 先ずは温度計を作ろうと思ったが、材料集めの段階で早速頓挫した。
 ガラスがなかった。いや、ガラスはあったのだが透明でなかった。
 透明なガラスを作るか、何か他の素材を見つけなければならない。
 すぐには見つけられないだろうと踏んだレイニィは、ガラスを使わない温度計以外の観測機器から作ることにした。

「風向風速計ならガラスを使わなくてもできるだろうから、それから作ってみましょう」
「風向風速計ですか? どんなものでしょう?」

「風の向きと強さを測る器具よ」
「これでは駄目なのですか?」

 スノウィは右手の人差し指を少し舐めて天に掲げた。

「それでも大体はわかるけれど、人によって捉え方が違ってきてしまうでしょう。誰でも、いつでも、同じ条件のデータが記録できる様にしたいのよ。そうでないと、比較したときに意味が無くなってしまうから」

「なるほど。それで、材料は何が必要ですか?」
「板と棒かな。加工できれば木材でも金属でもいいけれど――」

「それならミスティ様の所に行ってみましょうか!」
「お姉ちゃんのところ?」

「錬金術師ですから、色々な材料が揃ってますよ。適当なものがなかったとしても、どこに行けば手に入るか紹介してくれるかもしれません」
「お姉ちゃんの部屋に入れてもらったことがないんだけど、入れてもらえるかしら?」
「ちゃんと説明すれば大丈夫ですよ。さあ、行ってみましょう」

 レイニィとスノウィは姉のミスティの部屋を訪れる。

「ミスティお姉ちゃんいる。レイニィなの」

 ドアが開いてミスティが顔を出す。

「あらレイニィ、どうかしたの?」
「お姉ちゃんにお願いがあるの」

「何かしら?」
「風向風速計を作りたいから、その材料が欲しいの」

「風向風速計? どんなものかしら?」
「風の吹く向きと強さを調べる道具なんだけど、棒とか板が必要なの」

「棒とか板ねえ。どんものができるか絵に描ける?」
「描けると思うの」

「じゃあ入って絵を描いて」
 ミスティはレイニィ達を部屋に招き入れた。

「うわー。何かいっぱいなの」
「そういえばレイニィは私の部屋に入るのは初めてだったかしらね」

「そうなの。初めてなの。色々あるの」
「勝手に触っては駄目よ」

「わかったの!」

 レイニィは、家族にまだ前世の記憶の事を言い出せずにいた、そのため、ミスティの前では子供言葉だ。
 スノウィも、それに気付いたが、何も言うことはなかった。

「じゃあ、ここに座って、この紙に描いてみて」

「はい。
 先ずは、縦にモップの柄の様な棒があるの。
 次に、弓矢の羽が大きくなった物を横向きに、風が吹いたらその方向に向きが変えられる様に縦棒の先端に付けるの。
 縦棒の途中に、方角がわかる様に目印の細い棒を付けるの。
 これで風向計の部分は完成なの。
 次に、風力計の部分なんだけど。
 矢の棒の部分に、直交になる様に細い棒を横向きに付けるの。
 その横棒に、手のひらサイズの板を吊り下げるの。
 その板には、縦に指の太さくらいの切れ目を、中央に、上から八分目位まで入れておくの。
 風が吹くと、この板がこう傾くから、傾き加減が判る様に、矢の後ろ部分に薄い円盤を四分の一にしたものを、下向きに板の切れ目に入る様に付けて、傾き加減の目印を付けるの。
 あとは、矢のバランスをとって、先端にお守りを付ければ、完成なの!」




「成る程、これで風の方向と強さを測るのね。よく考えられているわ。これはレイニィが考えたの?」
「ん、まあそんな感じなの」
「凄いわ! レイニィ。あなた天才よ。これぐらいの材料なら探せば出てくると思うから少し待っていて」
「はい!」

 レイニィは、本当は自分で考えた物でなく、前世の記憶にあった物なので、ミスティに褒められても申し訳ない気持ちになっていた。

 スノウィは、普通の五歳児が、こんな物を考え付くはずがないのに、天才で済ませてしまうミスティを微笑ましく見ていた。

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