街角で悪役令嬢役にスカウトされた件 【OKしたけど、異世界でサスペンスだとは聞いてない！】

第一幕 悪役公爵令嬢(闇魔法使い８歳)王宮書庫殺人事件

88. マネージャーに質問

　侍女としてやってきたララエルは、プロデューサーに遣わされたマネージャーだった。
　やっと、事情を知っているマネージャーに会えたのだ、ヒロインのことも気になるが、疑問だったことを聞くことにしよう。

「それよりも、私が婚約するはずの王子はどっちだったの？」
「どちらでも構いません。マリー様が選んだ方が舞台に上がるようになりますから。いわゆるダブルキャストです」

　ララエルは嬉しそうに、両手でＶサインを出す。まったく緊張感がない。
　でも、それで、どちらでもいいように、台本に王子の名前がないのね。そこは納得だ。

「でも、このままだとどちらとも婚約できそうにないし、王都の学園自体に行くことにならないと思うわよ」
「それは困ります。いったい何があったんですか？！」

　私は今まで王宮で起きたことを説明する。

「どういうことでしょう？　本来マリー様が襲われるのは、今から三年後のはずなんです」
「三年後？　でも、襲われることは変わりないのね」

「ええ、ですが、王子が止めに入ったことにより、女騎士は剣を納め、マリー様も王子も刺されることはありません」
「ああ、時期が早まったことで、女騎士の熟練度が低くて、剣を止められなかったのね」
　いかにも、経験不足の新人みたいだったものね。

「その事件がきっかけで、婚約話が進むはずだったんですが……。困りましたね」
「今のまま、本当の犯人が誰かわからない状態じゃ、危険すぎて、婚約も学園に通うこともできないわよ」

「そうですね。また、襲われないとは限りませんからね。でも、それで婚約話が進むかもしれませんよ」
「また死にかけるなんてまっぴらよ」

　心に何か引っかかるものがある。
　……あれ？　そうだ！

「ララエルなら真犯人を知っているんじゃないの？」
「いえ、王太子妃のうち、誰が真犯人なのかは毎回ランダムです」

「毎回って、今回が初めてじゃないの？」
「はい、この公演は、既に何度も上演されています。その度に、王子が変わったり、ストーリーに変化が加えられたりしています」

「私の他にも、スカウトされた役者はいるの？」
「いえ、今回スカウトされた役者はマリー様一人だけです」

「そうなの……」
　母親が死んだのに落ち着いている様子から、リヒトもそうかと思ったが、そうではないようだ。

　そうだ、それよりも、だ。
「私は元の世界に帰れるの？」