上 下
55 / 55
第一部 借金奴隷編

舞台裏10 それぞれのその後

しおりを挟む
 昨日ギルドに行って、借金を返済し、借金奴隷になる心配がなくなったミハルは、晴れやかな気分で、マーサルと一緒にエドワードの荷馬車に乗って、ミマスを出発するところであった。
 予定通り、今日明日で王都までエドワードを護衛することになる。

 そんなミハルに目を留める者がいた。
 Aランクパーティ「雷光の隼」のリーダー、ハベルトである。

「おい、あれ、プランさんじゃないか?」
 ハベルトがミハルを指さし声をあげる。

 釣られてメンバー全員が荷馬車の方を見る。
「え、どれどれ」
「あの荷馬車に乗っている!」
「似てるけど違うだろー」
「どこ見てるのよ。プランは黒髪よ。あの子は茶髪じゃない」
 昨日ギルドに行った時は黒髪に戻していたミハルたちであったが、ギルドから出て直ぐに、髪の色を変えていた。

「それに、あの格好は冒険者よ。プランがそんなことするとは思えないわ」
「そうか、プランさんだと思うんだけどな――」
 皆に否定されたが、ハベルトは納得していないようだ。

「しかし、ミマスでは見かけない顔だな。王都の冒険者か?」
 サベロはミハルの顔を見ても、プランタニエだとは全く思っていないようだ。

「どうせ、王都から護衛依頼で来てるんでしょ」
「こっちのギルドが止まってるから、王都から来る商人が多いものねー」

「この混乱、いつまで続くのかしら?」
「新しいギルマスが明日には来るという話だが、今まで通りに戻るまでにはしばらくかかるわよね」
 ヤリスとブローネの二人は、既に次の話題に移っている。

「そうだな。それにも関わってくるんだが、どうも昨日の夜マリーが脱走したらしい」
 そこで、サベロが今朝仕入れてきたばかりの情報を提供する。

「それは本当なのか?」
「信じられないわ! だってマリーは罪を犯せないように神罰を受けたって話よ」
「そうね。脱走すれば、神罰で死ぬことになるんじゃない?」

「それなんだがな、警備隊長がマリーを連れ出したらしい」
「え、マリーは警備隊長にも手を出していたの?!」
「そのようだな」

「つまり、警備隊長が勝手に連れ出したから、マリーに神罰は落ちないってこと?」
「そんなのが通るの?」
「それはマリーを捕まえてみないとわからないな」

「どの道、警備隊長が裏切ったとなると、この混乱はまだまだ続くな――」
 メンバー全員が溜息をつくことになる。

「どうだ、この際、これを機に、俺たちも王都に拠点を移してみては?」
 サベロが思い切ったことを提案する。

「王都にか……、競争が激しいんじゃないか?」
 ハベルトは乗り気ではない。

「でもよ、あの二人の冒険者、護衛依頼で来てるということはCランク以上だろ。あの二人でもやっていけるなら、俺たちでもなんとかなるんじゃないか?」
「馬鹿ね! 見た目で判断してると痛い目を見るわよ。でも、王都に拠点を移すのは賛成よ」

「お、ヤリスも乗り気なのか。ブローネはどうよ?」
 ヤリスが賛成したことに気をよくして、サバロはブローネにも尋ねる。

「そうね。取り敢えずこちらの混乱が収まるまで、王都に行ってみたらどうかしら。それで、こちらが正常になったら、戻るかどうかまた考えましょう」
「これで一時的にでも王都に行くのが三人だぞ、どうするよリーダー?」
「わかったよ。拠点を移すかどうかはともかく、一度王都に行ってみよう」
 三人が賛成したので、そこまで反対する理由がない。
 それに、ハベルトはさっきの冒険者の女の子のことがまだ気になっていた。

 こうして、雷光の隼は王都に移る準備を始めことになった。


 一方、警備隊長により連れ出されたマリーはと言うと。

「痛い、痛い、痛い!」
「マリー。大丈夫か?」
 警備隊長が心配そうにマリーに尋ねる。

「大丈夫じゃないわよ! 牢屋から出てからずっと痛いのよ。どうにかしてよ!!」
「隣国のマーザニアに知り合いの元司教がいる。邪神の魅力に取り憑かれ、教会から追われた男だ。俺が、マーザニアまで逃してやった。そいつならどうにかしてくれるはずだ。それまで我慢してくれ」

「マーザニアまで、このまま馬でどれだけかかるのよ」
 マリーは、警備隊長に抱えられて馬で逃げていた。
 馬は早足で歩いていた。
「この速度なら一週間といったところだ」

「一週間なんて持たないわ。その前に死ぬわよ!」
「わかった。なんとか五日で着けるようにしよう」
 たとえ、これで馬が駄目になっても構わないと、腹を括り、警備隊長は馬の足を早めた。

「それでも、五日もかかるの?!」
 マリーは絶望で気が遠くなり、そのまま気絶してしまった。


 元ギルマスのキールは、ウドと同じ牢屋に入っていた。
 マリーは警備隊長の手引きにより脱獄したが、キールに、脱獄に手助けをしてくれるような者はいなかった。
 このままでは晒し首になることは明らかなので、キールはウドに「一緒に脱獄しよう」と誘った。

 しかし、ウドの答えは予想外のものだった。

「キールさんも神に懺悔し、清らかな体になって、罪を償いましょう」

 ウドが完全に洗脳されていると感じたキールは、教会に戦慄を感じた。

 そして、脱獄にウドの協力を得ることは不可能だと悟った。
 しかし、脱獄を諦めたわけではなかった。


 サブマスだったリーザは、教会の馬車で、山奥にあるカリスト修道院に向かっていた。
 この修道院は、いくつかある修道院の中でも一番規律に厳しいとされ、生きて逃げ出せた者はいないといわれている所だ。

「何で私がこんなことに、何で私がこんなことに、何で私がこんなことに、何で私がこんなことに」
 リーザは馬車に乗っている間ずっとそう呟いていた。
 既に精神を病んでしまったようだ。

 同乗していたシスターは、同情の目でリーザを見ていた。


 聖女は昨日、王都の教会に着き、今は部屋で寛いでいた。
「結局ミマスまで行っても、黒神様の行方は知れませんでしたわ」
 実は帰りの道中にすれ違っていたのであるが、馬車の窓を閉め切っていた聖女が気付くことがなかった。
 まあ、仮に窓から外を眺めていたとしても、髪を染めているミハルが黒神様だと気付くことはなかっただろう。

 聖女が、プランタニエがミマスのギルドに現れたのを知るのは、数日後のことだった。


 ミーヤはコメットさんを抱えて、ミハルの帰りを、恐怖に震えながら、今か今かと待っていた。

 第一部 借金奴隷編(完)

しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(1件)

はさない
2024.02.28 はさない

大変楽しく読ませて頂きました
一気読みしてしまいました
黒髪様、この後どーなるのでしょう?
2部の更新を、気長にお待ちしています

なつきコイン
2024.02.29 なつきコイン

感想ありがとうございました。
YouTube 始めました。
https://www.youtube.com/@Natsuki_Coin
自分の作品を動画化してます。良かったら見てみてください。

解除

あなたにおすすめの小説

祝・定年退職!? 10歳からの異世界生活

空の雲
ファンタジー
中田 祐一郎(なかたゆういちろう)60歳。長年勤めた会社を退職。 最後の勤めを終え、通い慣れた電車で帰宅途中、突然の衝撃をうける。 ――気付けば、幼い子供の姿で見覚えのない森の中に…… どうすればいいのか困惑する中、冒険者バルトジャンと出会う。 顔はいかついが気のいいバルトジャンは、行き場のない子供――中田祐一郎(ユーチ)の保護を申し出る。 魔法や魔物の存在する、この世界の知識がないユーチは、迷いながらもその言葉に甘えることにした。 こうして始まったユーチの異世界生活は、愛用の腕時計から、なぜか地球の道具が取り出せたり、彼の使う魔法が他人とちょっと違っていたりと、出会った人たちを驚かせつつ、ゆっくり動き出す―― ※2月25日、書籍部分がレンタルになりました。

【完結】【勇者】の称号が無かった美少年は王宮を追放されたのでのんびり異世界を謳歌する

雪雪ノ雪
ファンタジー
ある日、突然学校にいた人全員が【勇者】として召喚された。 その召喚に巻き込まれた少年柊茜は、1人だけ【勇者】の称号がなかった。 代わりにあったのは【ラグナロク】という【固有exスキル】。 それを見た柊茜は 「あー....このスキルのせいで【勇者】の称号がなかったのかー。まぁ、ス・ラ・イ・厶・に【勇者】って称号とか合わないからなぁ…」 【勇者】の称号が無かった柊茜は、王宮を追放されてしまう。 追放されてしまった柊茜は、特に慌てる事もなくのんびり異世界を謳歌する..........たぶん….... 主人公は男の娘です 基本主人公が自分を表す時は「私」と表現します

突然だけど、空間魔法を頼りに生き延びます

ももがぶ
ファンタジー
俺、空田広志(そらたひろし)23歳。 何故だか気が付けば、見も知らぬ世界に立っていた。 何故、そんなことが分かるかと言えば、自分の目の前には木の棒……棍棒だろうか、それを握りしめた緑色の醜悪な小人っぽい何か三体に囲まれていたからだ。 それに俺は少し前までコンビニに立ち寄っていたのだから、こんな何もない平原であるハズがない。 そして振り返ってもさっきまでいたはずのコンビニも見えないし、建物どころかアスファルトの道路も街灯も何も見えない。 見えるのは俺を取り囲む醜悪な小人三体と、遠くに森の様な木々が見えるだけだ。 「えっと、とりあえずどうにかしないと多分……死んじゃうよね。でも、どうすれば?」 にじり寄ってくる三体の何かを警戒しながら、どうにかこの場を切り抜けたいと考えるが、手元には武器になりそうな物はなく、持っているコンビニの袋の中は発泡酒三本とツナマヨと梅干しのおにぎり、後はポテサラだけだ。 「こりゃ、詰みだな」と思っていると「待てよ、ここが異世界なら……」とある期待が沸き上がる。 「何もしないよりは……」と考え「ステータス!」と呟けば、目の前に半透明のボードが現れ、そこには自分の名前と性別、年齢、HPなどが表記され、最後には『空間魔法Lv1』『次元の隙間からこぼれ落ちた者』と記載されていた。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

辺境伯家ののんびり発明家 ~異世界でマイペースに魔道具開発を楽しむ日々~

Lunaire
ファンタジー
壮年まで生きた前世の記憶を持ちながら、気がつくと辺境伯家の三男坊として5歳の姿で異世界に転生していたエルヴィン。彼はもともと物作りが大好きな性格で、前世の知識とこの世界の魔道具技術を組み合わせて、次々とユニークな発明を生み出していく。 辺境の地で、家族や使用人たちに役立つ便利な道具や、妹のための可愛いおもちゃ、さらには人々の生活を豊かにする新しい魔道具を作り上げていくエルヴィン。やがてその才能は周囲の人々にも認められ、彼は王都や商会での取引を通じて新しい人々と出会い、仲間とともに成長していく。 しかし、彼の心にはただの「発明家」以上の夢があった。この世界で、誰も見たことがないような道具を作り、貴族としての責任を果たしながら、人々に笑顔と便利さを届けたい——そんな野望が、彼を新たな冒険へと誘う。 他作品の詳細はこちら: 『転生特典:錬金術師スキルを習得しました!』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/906915890】 『テイマーのんびり生活!スライムと始めるVRMMOスローライフ』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/515916186】 『ゆるり冒険VR日和 ~のんびり異世界と現実のあいだで~』 【https://www.alphapolis.co.jp/novel/297545791/166917524】

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

【完結】父が再婚。義母には連れ子がいて一つ下の妹になるそうですが……ちょうだい癖のある義妹に寮生活は無理なのでは?

つくも茄子
ファンタジー
父が再婚をしました。お相手は男爵夫人。 平民の我が家でいいのですか? 疑問に思うものの、よくよく聞けば、相手も再婚で、娘が一人いるとのこと。 義妹はそれは美しい少女でした。義母に似たのでしょう。父も実娘をそっちのけで義妹にメロメロです。ですが、この新しい義妹には悪癖があるようで、人の物を欲しがるのです。「お義姉様、ちょうだい!」が口癖。あまりに煩いので快く渡しています。何故かって?もうすぐ、学園での寮生活に入るからです。少しの間だけ我慢すれば済むこと。 学園では煩い家族がいない分、のびのびと過ごせていたのですが、義妹が入学してきました。 必ずしも入学しなければならない、というわけではありません。 勉強嫌いの義妹。 この学園は成績順だということを知らないのでは?思った通り、最下位クラスにいってしまった義妹。 両親に駄々をこねているようです。 私のところにも手紙を送ってくるのですから、相当です。 しかも、寮やクラスで揉め事を起こしては顰蹙を買っています。入学早々に学園中の女子を敵にまわしたのです!やりたい放題の義妹に、とうとう、ある処置を施され・・・。 なろう、カクヨム、にも公開中。

全能で楽しく公爵家!!

山椒
ファンタジー
平凡な人生であることを自負し、それを受け入れていた二十四歳の男性が交通事故で若くして死んでしまった。 未練はあれど死を受け入れた男性は、転生できるのであれば二度目の人生も平凡でモブキャラのような人生を送りたいと思ったところ、魔神によって全能の力を与えられてしまう! 転生した先は望んだ地位とは程遠い公爵家の長男、アーサー・ランスロットとして生まれてしまった。 スローライフをしようにも公爵家でできるかどうかも怪しいが、のんびりと全能の力を発揮していく転生者の物語。 ※少しだけ設定を変えているため、書き直し、設定を加えているリメイク版になっています。 ※リメイク前まで投稿しているところまで書き直せたので、二章はかなりの速度で投稿していきます。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。