マスク ド キヨコ

居間一葉

文字の大きさ
上 下
3 / 11

3

しおりを挟む
 振り返ると、中年の女性達が十人ほど、楽しげにおしゃべりをしながら廊下を歩いているのが、ところどころにあるガラス窓から覗けた。私達からすれば、自分たちの母親より更に一回りほど年上の女性達である。ガラス窓は大人の顔から胸の高さくらいに設置されている。そのため、背の低い私達から見えるのは、彼女たちの顔だけであった。時節柄であろう、その女性達は全員、口に白いマスクをつけている。
「ねえねえ、今日、何食べる?」
「そうねえ、やっぱり生きのいいピチピチのがいいわね」
「うんうん、踊り食いとかできたら最高よね」
 夕飯の相談でもしているようだった。その声はまるで小学校のクラスメイトの女子達のように、若々しく生きる喜びに満ちていた。
 友人は、その女性達に対して、特に興味を抱かなかったようだった。すぐにまた池の傍に座り込むと、今度は近くの枯れかかった芝を引きちぎって、それを鯉に食べさせようと躍起になりだした。
 一方私は、一団の先頭を歩く女性の横顔を、ぼーっと目で追っていた。女性は長く、まっすぐで、黒々とした髪をしていた。肌は褐色に日焼けしており、鼻筋は高くすっとしていた。眉も細いが黒々としており、目尻はぐっと力強く上がっている。
 美しかった。私はその時、生まれて初めて、自分の母親より年上の女性を美しいと感じた。以前、図鑑か漫画かで見た、古代エジプトの伝説的な美貌の女王の事を思い出した。頭にコブラのティアラをつけた女王だ。
「ああ、早く食べたい。お腹すいちゃった。今なら一呑みにできそうよ」
 先頭の女性はそう言うと、他の女性達の方を振り向いた。その時、彼女がつけているマスクが、内側から、もぞっと動いた。そして、そのマスクの下端から、何か赤色のものがはみ出るのを、私は見逃さなかった。
「あらあなた、お下品よ」
「そうそう、いくらマスクをつけてるからって。人目があるかもしれないじゃない」
 別の女性たちが、笑いながらたしなめた。先頭の女性は、ふふ、と小さく笑うと、「舌を出して笑った」。そして、前に向き直った。その時であった。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

JKがいつもしていること

フルーツパフェ
大衆娯楽
平凡な女子高生達の日常を描く日常の叙事詩。 挿絵から御察しの通り、それ以外、言いようがありません。

妻がヌードモデルになる日

矢木羽研
大衆娯楽
男性画家のヌードモデルになりたい。妻にそう切り出された夫の動揺と受容を書いてみました。

就職面接の感ドコロ!?

フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。 学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。 その業務ストレスのせいだろうか。 ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。

寝室から喘ぎ声が聞こえてきて震える私・・・ベッドの上で激しく絡む浮気女に復讐したい

白崎アイド
大衆娯楽
カチャッ。 私は静かに玄関のドアを開けて、足音を立てずに夫が寝ている寝室に向かって入っていく。 「あの人、私が

13歳女子は男友達のためヌードモデルになる

矢木羽研
青春
写真が趣味の男の子への「プレゼント」として、自らを被写体にする女の子の決意。「脱ぐ」までの過程の描写に力を入れました。裸体描写を含むのでR15にしましたが、性的な接触はありません。

小学生最後の夏休みに近所に住む2つ上のお姉さんとお風呂に入った話

矢木羽研
青春
「……もしよかったら先輩もご一緒に、どうですか?」 「あら、いいのかしら」 夕食を作りに来てくれた近所のお姉さんを冗談のつもりでお風呂に誘ったら……? 微笑ましくも甘酸っぱい、ひと夏の思い出。 ※性的なシーンはありませんが裸体描写があるのでR15にしています。 ※小説家になろうでも同内容で投稿しています。 ※2022年8月の「第5回ほっこり・じんわり大賞」にエントリーしていました。

女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。

矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。 女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。 取って付けたようなバレンタインネタあり。 カクヨムでも同内容で公開しています。

処理中です...