君の右手に誓う永遠…

紫メガネ

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永遠の誓い

それぞれの幸せに向かって

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 トワの退職が決まり、北斗は瑠貴亜とすみれに挨拶に来た。

「いやぁ北斗君。やっと来てくれたんだね、嬉しいよ」

 瑠貴亜は初対面の北斗にとてもフランクで、会う早々にハグをしていた。

「もう、貴方ったら。ここは日本だから、ハグなんてしたら引かれちゃうって言っているじゃない」
「えー。だって嬉しいじゃないか、トワにこんな素敵な人が来てくれたんだよ」

「まったく、ごめんなさいね北斗さん。初対面なのに」

「いいえ、前にお会いしていますから」

「ああ、そう言えばトワちゃんを送ってきてくれたって言っていたわね」


 紅茶を出しながらすみれが言った。


「ところで北斗君が今日来てくれたって事は、トワとの結婚を決めてくれたのかな? 」
「はい、それでご挨拶に伺いました」

「そうなんだ。別に反対しないよ。トワもやっと新しい恋をすることに、目を向けてくれたからさぁ」

 新しい恋? 
 そっか、半年前の事詳しうは知らないんだった…。

 北斗とトワは顔を見合わせた。


「あの伯父さん」
「トワ、僕の事はお父さんって呼んで。トワの父親として、ちゃんと送り出したいからさぁ」

「あ、はい。・・・お父さん・・・」
「うん、うん、いいね。もっと呼んで」

 お父さんとおバレると、目をギラギラして喜んでいる瑠貴亜は、まるで子供のようだ。


「あ、あのねお父さん。北斗さんは、ずっと私が交際していた人なの」
「へぇ? 」


 キョンとなり、瑠貴亜は北斗とトワを交互に見渡した。


「トワちゃん、どうゆう事なの? 」

 すみれが尋ねると、トワは少し赤くなった。


「北斗さんは、もう半年前からずっと交際していた人なの。事故で、記憶喪失になっていて。それで、諦めていたんだけど。思い出してくれて…」


「なるほど。もしかして、トワが右手を負傷したのは北斗君を庇ったからなのか? 」

「そ、そんなんじゃないけど…」


 瑠貴亜はじっと北斗を見つめた。


「北斗君」
「は、はい…」


 瑠貴亜はすっと頭を下げた。

「娘は右手がありませんが、とても優しくて世界で一番の娘です。私が保証します。なので、どうか娘を幸せにして下さい。家事などは、私やすみれも協力しますので。決してご迷惑はかけませんから」

「ちょっとお父さん。頭を上げて下さい」

 
 お父さんと呼ばれると、瑠貴亜は顔を上げて嬉しそうな目をした。

 そして北斗の手をとってギュッと握り締めた。


「北斗君、僕は今日から君のお父さんだよ。何でも話してくれ」
「は、はい…」


 トワが言ったように、瑠貴亜は個性が強いようだ。
 自分の世界をしっかり持っていて思い込みも激しそうである。
 だが、気さくで優しい人だ。


「貴方。少しは北斗さんを見てよ、ちょっと引いているわよ」
「あ、すまんすまん」


 照れくさそうにしている瑠貴亜。


「お父さん、何も心配しないで下さい。トワさんの右手の事は知っていますから。父と母も協力的です。大丈夫ですよ」

「それなら安心だ。でも困ったなぁ。トワがお嫁に行ってしまうとこの早杉家を継ぐ人が居なくなってしまうんだ。僕の父が代議士で、この家はちゃんと護ってほしいって言われているからなぁ」

「もう、貴方ったら。その事は、また後から考えればいいじゃない。今はトワちゃんが、したいようにさせてあげればいいのよ。せっかく好きな人とまた再会できたんじゃない」
「そうだな」

「トワちゃん、結婚しても私達は親子だからいつでも頼ってね」
「はい」


 フランクな瑠貴亜とすみれのおかげで、楽しい顔合わせが出来た。
 北斗は少しトワの部屋で話をしてから帰る事にした。




 広々としたトワの部屋に、北斗は驚いていた。

 ソファーも高級でとても座り心地が良かった。


「すごい部屋で驚いたよ」
「これは、おじい様が用意してくれて。私も驚きました」


「ねぇトワ。先に入籍したいと思っているんだけど。ダメかな? 」
「それは、構わないですよ」

「本当? じゃあ、明日にでも婚姻届けもらってきてもいい? 」
「はい」


 北斗はそっと、トワの手を取った。

「何も気にしなくていい。家事だって、みんな協力してくれる。困った事は言えばいい、いつでも力を貸すから」
「はい・・・」


 スーッと北斗の顔が近づいて来て唇が重なった。

 そっと唇が離れると、北斗は熱い目でトワを見つめた。

「今日は、できる日? 」

 尋ねられ、トワは赤くなった。

「は、はい。大丈夫です…」
「良かった」


 トワは寝室の扉を指さした。

 
 そっと北斗はトワを抱きかかえた。




 寝室に入ると、広くてフカフカなベッドにトワを寝かせた。

「すごくフワフワだね、このベッド」
「はい…」


 ゆっくりと、ブラウスのボタンが外されてゆくとトワはギュッと北斗にしがみ付いた。

 唇が重なり…。

 
 お互いが産まれたままの姿になり体が重なる…。 


 トワの体はちょっとひんやりしていた。
 緊張していたのか、いつもよりかたくなっているように北斗は感じた。


 北斗の温かい体温がトワを包み込み、硬くなっていたトワの体を柔らかくしてくれる…。


 お互いが1つになるのは二度目だが、また新鮮に感じて初めての夜より心地よいエネルギーを感じた。

トワも1つの事を終わらせ心が軽くなったようだ。

 素直に北斗を感じているトワはとても可愛くて、北斗は見ているだけでとても幸せを感じた。


 お互いを感じながら。


 目と目が合って微笑みあう喜び。


 1つになった時に感度もまた違う。


 額と額をくっつけて最高の喜びを感じていた。


「…好き…」

 北斗を感じながらトワが囁いた。


「俺も…愛しているよ…」


 ギュッと抱きしめ合って最高のエネルギーが交換できた。

 そんな気がした。






 それから。


 翌日になり北斗は言った通り婚姻届けをもらってきた。

 2人で記入して保証人には、秋斗と茜になってもらった。


 無事に入籍を済ませたトワは宗田トワになった。

 住まいは暫くは、北斗の家の隣。

 昔は秋斗と幸弥が住んでいた部屋に新居として暮らすことになった。



 家具などは昔、秋斗が使っていた家具がある為それを使う事に。

 ベッドは新しいダブルベッドを購入した。


 新婚生活のスタートだ。




「ねぇ母さん」

 仕事から帰ってきた羽弥斗が茜の下にやってきた。


「どうしたの? 羽弥斗」

「あのさ、僕。早杉家に養子に行ってはダメかな? 」

「え? 何言っているの? 突然」

「だって、トワさんが兄貴と結婚したから。後継ぎがいないって、言っていたから。僕はこの家を継ぐわけじゃないし。それに…」

「ん? どうしたの? 」


 羽弥斗はちょっと赤くなった。

「このまま一緒だと、僕、トワさんの事好きになってしまいそうだから」

「羽弥斗…」

「養子に行けば、僕はトワさんと兄弟になるからさっ。間違えても兄貴から奪う気には、ならないから」

「何を言い出すかと思えば」

「それだけじゃないよ。トワさんの伯父さん、新幹線の運転手なんでしょう? だから、憧れちゃうんだよね。僕も電車が大好きだから」


 やれやれと、茜はため息をついた。
 

 羽弥斗が早杉家に養子に行く話は、ここでは一旦保留になった。

 瑠貴亜に話せばすぐにでもOKがでそうだが。

 少し保留にした。






 北斗とトワの結婚式は来年の夏頃に予定する事にした。

 式場は早めに予約しておかないと、予約ができなくなると言って北斗は式場探しを始めている。


 
 トワは警察署を退職してから、家事が上手にこなせるようにと左手でも頑張って料理を作ってくれている。 

 包丁を使うのがどうしても曲がってしまったり上手くできない事もあるが、時間をかけてでも美味しいご飯を作ってくれるトワ。

 北斗はトワの作るご飯がとても気に入っていて、お昼も社内にいる時は家に戻ってくるくらいである。


 茜が心配して手伝ってくれる事もあるが、トワは思った以上に家事をこなしていた。



 トワが警察署を退職するとき、多くの男性職員や警察官が惜しんでいた。

 地味にしていたトワだが、実は男性たちの間では話題になるくらモテていた。

 人を近づけさせないようにしているトワを見て、逆に男性達は護ってあげたくなっていたようだ。


 トワが右手を無くしてからも、ずっと心配していて不自由していないかと見ていたくらいだった。


 退職の理由が結婚する為だと知ると非常にショックを受けていた男性達。

 
 警察署には女性が少ない為、トワの存在は貴重だったようだ。


 それぞれの新しい道への出発。

 多くの壁を乗り越えて手に入れた幸せの形が今ここにある。







 月日は流れ季節は夏になった。

 暑い夏がやって来た。

 タワーマンションの最上階は涼しく過ごせる。

 周りに何も遮るものがない分風通しが良く、午前中は窓を開けていればかなり涼しい。


 トワは真夏になっても薄手の長袖を着ている。

 義手である右手は手袋をはめたまま過ごしている。


 だが・・・

 トワの服装はとてもゆったりしたワンピース。

 以前の比べて少しふっくらした感じがある。

 髪は伸びて肩に届くようになって、後ろでシュシュでとめている。


 すっかり可愛くなったトワ。

 表情もとても穏やかである。


「トワ、ただいま」


 北斗が帰ってきた。

「お帰りなさい」

 笑顔で迎えてくれるトワ。


「お昼作ってあるから、今用意するね」

「あ、いいよ。俺が用意するから」


 北斗はジャケットを脱いで、キッチンへ向かった。



 お昼はビーフシチューを作ったようだ。

 ビーフシチューとクロワッサン。

 どれも手作りである。


 北斗がお皿についでくれて、食卓に用意された昼食。


「このクロワッサン手作り? 」

 食べながら北斗が言った。

「うん、お母さんに手伝ってもらって作ったの。ちょっと焦げちゃったけど」
「へぇー。お店のより美味しいよ」

 
 ふんわりと美味しそうなクロワッサンを食べながら、北斗はとても幸せそうに微笑んだ。
 2人で笑い合って楽しい昼食のひと時。


 クロワッサンが1つ残ると。

「はい、これはトワが食べるんだよ」
「え? もうお腹いっぱいよ」

「いいから、いいから。トワは2人分必要だからさっ」


 お皿にパンを置いて、北斗は嬉しそうに微笑んだ。
 トワはちょと照れたように笑って、お腹にそっと手をあてた。


 



 現在、トワは妊娠中で、今月で3ヶ月目に入る。

 入籍前日の時の子供の様で、落ち着いた環境で迎えられて良かったと北斗は言っていた。


 悪阻はなく空腹時になると胸やけがしてくるようだ。

 まだ安定期ではない為、秋斗と茜も昼間トワが1人で居る時気を付けて見ている。


 今日は夕方から検診に行く予定になっている。

「そう言えばさぁ、羽弥斗がお父さんの所に養子に行くことを決めたって」
「え? 本当に? 」

「うん。何だか、新幹線の話しで盛り上がってたから。意気投合したみたいだよ」
「そう言えば羽弥斗君って、電車が大好きなんだよね? 」

「ああ、小さい頃から電車を見せるとご機嫌だったよ。新幹線なんか乗ると、大はしゃぎしていたからね」
「でも寂しくなるわね」

「大丈夫だよ、どちらにしても血縁関係は変わらないから。羽弥斗がそうしたいなら、好きにさせていいって、父さんも母さんも言っているから」



 あれから羽弥斗は、瑠貴亜によく会いに行くようになっていた。
 初めて会ったのに瑠貴亜と羽弥斗はとても気が合って、電車の話しで意気投合。

 瑠貴亜は電車が好きで鉄道員になったと話していた。

 羽弥斗が養子になりたいと話すと、すぐに承諾してくれたようだ。

 すみれも大歓迎している。



 しかし。

 羽弥斗が養子に行く決意をしたのは、それだけの理由ではなかった。





 早杉家。

「ただいま」

 仕事から帰ってきた瑠貴亜が玄関から入って来た。

「貴方お帰りなさい」

 奥から出てきたすみれ。

 すみれの腕には、産まれたばかりの小さな赤ちゃんが抱っこされている。
 可愛いピンクの産着を着ている所を見ると女の子のようである。

「ただいま。ひまわり、元気だったか? 」

 生まれたての赤ちゃんは女の子で、名前をひまわりと言う。
 産まれてからまだ7日目。
 早産で産まれたが、とても元気で施設に送られるところを瑠貴亜とすみれが引き取ったのだ。


「あ、おかえりなさい」

 羽弥斗が奥から出てきた。

「羽弥斗、来てくれていたんだ」
「うん。もう、ここで生活しようと思って。荷物は後々持って来てもいいし」

「そうか、大歓迎だよ! 」

 瑠貴亜はギュッと羽弥斗を抱きしめた。


 
 夕食の時間は、瑠貴亜とすみれ、羽弥斗とひまわりが一緒に食卓を囲む。
 ひまわりはまだベビーバウンズで寝ている。

 しかし、なんだかとって暖かい家族のだんらんの様である。


「羽弥斗君。有難うね、私達に赤ちゃんをプレゼントしてくれて」

 すみれが言った。

「お礼なんて。僕こそ、なんかすごく無理な事を頼んでしまって、ごめんなさい」
「何を言っているんだ羽弥斗君。この子の幸せを願って、してくれた事じゃないか」


 この赤ちゃん、ひまわりは実は未希が産んだ子供である。
 早産で2ヶ月ほど早く生まれたひまわり。

 未希は服役中で、施設に送られる事を知った羽弥斗が引き取る事にした。

 未希はあれから禁固20年と重い判決が下された。
 服役しながら子供を守っていた未希は、だんだんと優しさを取り戻していた。

 自分の歪んた心を改心して行っていた未希。

 出産後、産まれてきた子供を見るととても愛しそうだった。

 羽弥斗が引き取る話をすると、未希は泣いて喜んでいた。


「でも、どうして羽弥斗君は、この子を引き取ろうと思ったの? 」

 すみれに尋ねられると、羽弥斗は少し痛い笑みを浮かべた。

「なんとなくだけど、未希さんが出所してきた時に。この子が、沢山の愛を受けて育っていれば。きっと、どんな母親でも受け入れてくれる人になれると思ったからだよ。僕は子育てした事もないし、結婚もしていないから、理解できない所もあるけど。でも、この家で育てばきっと素敵な子に育つと思ったんだ」

「まぁ、そんな事言われたら嬉しすぎるわ」

「犯罪者って、服役して出てきても世間は冷たいんだ。でも、1人でも優しく受け入れてくれる人がいれば立ち直る事だってできるって、僕は信じているから」


 眠っているひまわりを見て、羽弥斗は微笑んだ。

 犯罪者の産んだ子供は、何も知らないまま後ろ指をさされて生きてゆく事になる。

 ひまわりの場合は、養女として引き取られ何も知らないまま育ってゆくだろう。

 だが羽弥斗は、いつか、ひまわりが大きくなったらちゃんと話そうと思ている。

 真実を受け入れ、そして知らない過去も受け入れ、そこには命を懸けて産んでくれた母親が居た事をちゃんと教えてあげたいと思っていた。


 どんな真実でも受け入れ、それを乗り越えた先には明るい未来が待っていると羽弥斗は信じている。


 羽弥斗が早杉家に養子に来たのは、トワへの想いを断ち切りたいのもあったが、未希の産んだ子供が幸せに沢山の愛を受け取って育ってほしい。

 その場所を作る為でもあったのだ。


 瑠貴亜とすみれも、犯罪者の子供と軽蔑する事もなく、ずっと欲しくて望んでいた子供を特別養子縁組と言う形でも手に入れられて喜んでいる。

 この早杉家も複雑な血筋ではあるが、個性的で面白い家族になりそうだ。







 寒い冬がやってきて年が明けて。

 それぞれの道へ進んでゆく。


 時間が経過するにつれて、それぞれの心の傷も癒えてゆき穏やかになっていった。

 

 トワと北斗は亡くなった愛とトワの母のお墓へやって来た。


 まだ風が冷たい冬真っただ中。

 トワのお腹も目立ってきた。

 現在8ヵ月に入った。


 お墓に手を合わせてお参りする北斗とトワ。


「今頃、お母さんと姉さん、お父さんと一緒に仲良くやっているだろうなぁ」
「そうだね。きっと、トワの事を護ってくれているよ」


 2人はお墓を見て、そっとトワのお腹に触れた。



 早杉家では、ひまわりが動くようになって毎日が大変そうである。

 現在5か月を過ぎたひまわりは、動きもそうだが何でも触りたがる。

 夜泣きはあまりしないが、瑠貴亜の影響なのか電車が大好きである。


 ひまわりの傍には電車のおもちゃが沢山置いてある。



 賑やかな早杉家。

 羽弥斗もすっかり養子に来て早杉家にそまっている。



 秋斗と茜は、羽弥斗が養子にいって2人きりの生活を過ごしている。

 新婚時代に戻ったようで、とっても仲良しな秋斗と茜。


 隣の部屋では北斗とトワが2人で生活している。


 なんだか不思議な空間のような気がする。








 
 それから…。

 また月日が過ぎて春になった頃。


 新学期が始まり新しいスタートを切る4月に、北斗とトワの子供が産まれた。


 可愛い男の子である。

 名前は結人(ゆいと)とつけた。

 想いを結んでくれる人と言う意味を込めて。


 
 結人が産まれて、色々大変になるだろうと言う事で、秋斗と茜は北斗トワに同居しようと話した。
 赤ちゃんのお世話も大変で、トワが右手が不自由な事もあり、茜が一緒の方が子育てもしやすく人が多い方が安全だということだ。



 2人の生活は十分味わってきたことから、同居する事になった。

 同居と言っても、隣から隣へ移るだけで大きく変わるわけではない。

 
 産まれたばかりの結人を抱っこして、トワはとても幸せそうである。


「結人」

 北斗が結人を抱っこした。

「産まれたてって、随分小さいんだね」

「あっという間に大きくなるわよ」

 傍にいた茜が結人の頬をつついた。


「トワ、結人を産んでくれて有難う」

「お礼なんて。私1人じゃ産めなかったもの」


 北斗はトワをギュッと抱きしめた。


 結人は茜が抱っこして、秋斗が嬉しそうに見ている。






 事故で記憶を無くしていた北斗。
 しかしその事故には、とんでもない事実が隠されていた。

 その事故でトワは右手を無くし、人生が大きく変わってしまった。

 だがそれを乗り越えて今ここに、幸せな家族が出来た。


 あの事故なければ…

 トワが右手を無くさなければ…

 この幸せは分からなかったかもしれない。




「トワ、結婚式。夏にって予定していたけど、来月にでもどうかな? 」
「え? そんなに急がなくてもいいわよ」

「うん。でも、ちゃんと結婚式しておきたいんだ。もうすぐ、トワのお母さんとお姉さんの一周忌もくるし。それが済んだらって、思っているよ」
「何だか、今更結婚式って恥ずかしいなぁ」

「いいじゃないか。父さんも母さんも、結婚式の時は、もう俺も兄さんもいたんだから。結人がいても問題ないよ」
「うん…」


 そっとトワを抱き寄せる北斗。

 そしてトワの右手に触れた。

「この右手は奇跡の右手だね」
「え? 」

「だって、あの事故があって辛い事もあったけど。今こうして最高の幸せを手に入れられたんだ。この幸せを、最高だと思えるように神様がくれた、ちょっとした試練だったって俺は思っているよ」
「そうね。…本当に…右手がなくても不自由に感じないのは。みんなが、優しいからだもんね」


 笑い合う北斗とトワ。




 優しい春の日差しが金奈市を包んでいる。

 祝福の日差しの中、幸せに包まれた家族が笑い合っている。

 この笑顔が永遠に続きますように…。

 君の右手に誓う永遠。
 END
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