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思いだされた記憶の中に
本当に愛する人は
しおりを挟む幸弥が帰った後。
北斗は一息ついて、また引き出しにしまってあった写真を手に取って見つめた。
写真に写っている女性トワ。
未希に逮捕状を持って現れた刑事とは雰囲気は違うが、よく見ると同じ目をしている。
魅力的な切れ長の目は、胸がキュンと鳴る…。
髪が長い時は、どこかのお嬢様の様に見えるが、ショートヘヤーのトワはボーイッシュで活発的に見える。
どちらのトワも魅力的だ。
トワを見て思い出せない記憶が蘇ってきたのは、きっとこれも運命なのだろうと北斗は思った。
「あの雨の日…きっとあれは、運命の出会いだったんだ…」
トワと北斗が初めて出会ったのは、今から半年以上前。
春先の冷たい雨が降る時だった。
外回りをしていた北斗は、急に降り出した雨を避けるために公園にある屋根付きの休憩所で雨宿りをしていた。
駆け込んできた北斗は、濡れた服をハンカチで拭きながら空を見上げると、通り雨のような雲の流れにちょっとホッとした。
暫く待てば止むだろうと思った北斗は一息ついた。
すると。
「クション…」
小さくとも可愛いクシャミの声が聞こえて、驚いて北斗が振り向くと、そこには紺色のかっちりしたスーツを着た柔らかい栗色の長い髪の女性がちょっと寒そうに肩を抱いて立っていた。
北斗と同じように急な目に振られて濡れてしまったようだ。
髪も濡れてしまい、しずくがポツンと肩に落ちるのを見ると艶っぽく見え、北斗は思わず息を呑んだ。
よく見るととても綺麗な顔立ちをしている女性。
色白でほっそりした面長の輪郭に、スッと筋の通った高い鼻に魅力的な唇。
パンツ姿だが、靴はかかとのない黒い靴だがスラっとした長身で推定170cmはありそうだ。
北斗は何となく女性が気になり歩み寄って行った。
傍に行くと女性は寒そうにちょっと震えていた。
「あの…」
北斗が声をかけると女性はハッとして振り向いた。
目と目が合うと北斗はドキッと胸が高鳴ったのを感じた。
可愛い…いや、綺麗と言うのが正しいかもしれない…こんな素敵な人、今まで見た事ない…。
そう思った北斗は濡れている女性の髪をハンカチで拭いた。
「大丈夫ですか? 」
北斗がそう声をかけると、女性はこくりと頷いた。
「通り雨のようですから、すぐ止むと思いますよ。僕も外回りしていたら、雨に降られてしまったんです」
「…はい…」
返事をした女性の声が震えていた。
寒いんだきっと。
そう思った北斗は考えるより先に、女性をギュッと抱きしめていた。
驚いたハッとなった女性を、またギュッと抱きしめた北斗。
「暫くこのままでいて下さい。雨に打たれて、寒いと思います。…僕もこのままの方が、とても暖かいですから…」
女性はじっと動かないまま北斗の言う通りにした。
初めて会った人なのに…抱きしめられるなんて…。
そう思いながらも北斗の腕の中はとても心地よく女性は感じていた。
「あの…お名前、教えてもらえませんか? 俺は宗田北斗と言います」
「…野山トワです…」
「トワさん。素敵な名前ですね」
そんな会話をしていると、雲間から太陽が顔を出してきて雨が上がって来た。
「雨あがりましたね。良かった」
そっと離れた北斗を女性ことトワはそっと見上げた。
「ねぇ、また会ってくれる? 」
そう言って笑いかけてくる北斗に、トワは驚いた目を向けた。
「ここで会えたのは、きっと運命だったんだよ」
そう言いながら北斗は名刺を取り出し、裏側に自分の携帯番号を書いた。
「これ、俺の名刺です」
名刺を受け取ったトワは名前を見て驚いた。
「宗田ホールディング。…もしかして、お身内の方なのですか? 」
「ああ、俺の父親が今は社長なんだ」
「そんなご立派な方が、私になって時間を使うのはもったいない事です! 」
そう言ってトワは名刺を北斗に着き返した。
「すみません、失礼します」
名刺を突き返すと、トワはそのまま走り去った。
「待ってよ! 」
北斗はトワを追いかけたが。
トワは走るのがとても速く、追いつけなくなってしまった。
曲がり角を曲がったあたりでトワを見失ってしまい、北斗は愕然と肩を落とし立ち止まった。
しかし数日後。
北斗はトワと再会したのだ。
それは本当に偶然だった。
北斗が仕事帰りに同僚達と駅前で飲んで帰る時だった。
かっちりとした黒いスーツ姿の女性が目に入り、北斗はハッとなり飲んでいた酔い覚めるくらいだった。
ちょっと俯き加減で歩いてくる黒いスーツ姿の女性。
その女性はトワだった。
やっと会えた!
そう思った北斗は思いより先に体が動き、トワに駆け寄りギュッと手を握り引き止めた。
トワは驚いた目をして振り向いた。
「また会えたね。良かった」
満面の笑みを浮かべ見つめてくる北斗に、どうしたら良いのか分からずトワは俯いた…。
そんなトワを北斗はギュッと抱きしめた。
「ずっと忘れてなかったよ。また会えるって信じていたんだ」
北斗の腕の中でトワは何と答えていいの変わらず黙っていた。
「ねぇ、俺がどんなところで働いていても。父親が、どんなすごい人でも何も変わらないだろう? 」
そっと体を離して、引くとは愛しい眼差しでトワを見つめた。
「同じこの空の下、同じ空気吸っているじゃん。食べているものだって、君と同じような物食べているんだよ。何が違うていうんだ? 」
「…私…」
何か言いたいのに上手く言葉にできなくて、トワは俯いてしまった…。
「俺は、君が好きだ。あの雨の日に会った瞬間、ハートがすごく喜んだのを感じたんだ」
「私なんて…」
「そんな言い方するな。君は、こうしてここに居てくれるだけで素晴らしいんだ。俺、何もいらないよ。君の気持ちがちゃんと俺に向いていてくれればそれでいいよ。大切なのは、一緒に楽しむ事だけだから」
こんなに優しい人に出会ったのは初めて…。
男に人と付き合う事なんで、考えたことがなかった。
ずっと、家族を守る事しか考えていなかったから…。
そう思い、トワは北斗をそっと見上げた。
目と目が合うとトワの目が潤んでいた。
潤んだトワの目を見ると、北斗の目も潤んできた…。
「…こんな私でいいのですか? …私…男の人と付き合った事なんてなくて…ずっと…家族を守る事しか考えていなくて…恋なんて、してはいけないのだとずっと思っていたので…」
スッとトワの頬に涙が伝った…。
その涙を北斗はそっと指で拭った。
「君は優しいんだね。もういいよ、これからは自分の幸せを考えれば」
「…自分の幸せ…考えた事ありませんでした…」
「先ずは君が幸せにならなくちゃ。君の家族だって、そう願っている筈だよ」
「…はい…」
北斗は名刺を取り出して、トワに握らせた。
「今度は返したりするなよ。裏に、プライベート用の携帯番号かいてあるから。いつもで連絡くれ」
「有難うございます…」
素直にお礼を言うトワはとても可愛くて。
北斗はまたギュッと抱きしめた。
こんなに可愛い子を世の中の男がほっとくなんて、どうかしている。
でも、ほっといてくれたから俺がこうして出会えたんだな。
トワを抱きしめて北斗は胸がいっぱいになった。
その日はタクシーでトワを家の近くまで送り届けた。
「また連絡します」
と、タクシーを降りる時トワは言った。
それから数日してトワから北斗の携帯に番号メールが届いた。
(先日は有難うございました。連絡が遅くなり申し訳ございません)
メールを見た北斗は嬉しくて、すぐにトワに電話をかけたが繋がらなかった。
タイミングが合わなかったのか?
と、北斗は思っていた。
夕方になりトワから折り返し北斗に電話がかかて来た。
やはり仕事で電話に出られなかったようだ。
北斗がデートに誘ったが、時間が合うのは先になってしまった。
次に会えるまでの間、時間が許す限り電話で話していた。
トワは生真面目て話す言葉も敬語で、どこかのお嬢様の様に感じた。
しかしデートを繰り返してゆくうちに、実はトワはちょと天然ボケな所もあり、ちょっとや気持ち焼きな所もあるのが判った。
休みが合う日がなかなかなく、仕事の合間に会って食事したりお茶したりと、少しの時間でも会う事が嬉しかった。
1日休みの日でも、トワは遠出はできないと言っていた。
理由は深く聞かなかったがいつも近場で金奈市内で遊ぶことが多かった。
会えば会うほど、北斗はトワを好きになって行った。
トワと出会って半年過ぎる頃。
北斗はトワにプロポーズした。
驚いたトワは前向に考えるから少し考えさせてほしいと言った。
その後もデートをしていた北斗とトワ。
北斗はデートの帰りに、トワを家に招待しようとしていたが家の前に来るとトワは「やっぱりやめます」と言って帰ってしまう事が多かった。
そんな時だった。
仕事の合間に北斗とトワがデートをしている時だった。
後ろからものすごい勢いで車が突っ込んできた。
トワが北斗を庇ったが、勢いて北斗も吹き飛ばされてしまい頭を強く打って怪我をしてしまった。
この事故が北斗が記憶を失った原因だった。
目が覚めたら病院にいた北斗。
頭に強い痛みが走り、何故こんな所にいるのか判らなかった。
枕元のネームプレートを見て「宗田北斗」と書いてあり、自分の名前は思い出せたが今まで何をしていたのか何故怪我をしているのか、何があったのか何も思い出せなかった。
何も覚えていない空白に戸惑い、どうしたら良いのか分からないまま困惑している北斗の元にあの未希がやって来た。
「北斗さん良かった目が覚めて。心配したのよ」
笑いかけてくる未希が誰なのか判らず、北斗はじっと見ていた。
「大丈夫? 判る? 私の事」
そう尋ねられ北斗はそっと首を振った。
そんな北斗を見て、未希が口元でニヤッと笑ったのを微かに覚えている。
「大変ね。交通事故で、頭を怪我して記憶が曖昧になっているようね。お医者様が言うには、一時的な記憶喪失のようなものって言っていたけど。時間をかけて、思い出せるから心配いらないわ。私が、傍に居るから大丈夫よ」
君は誰?
と、北斗は未希を見ていた。
「私、北斗さんの婚約者。岡田未希よ。私達は、結婚するの」
「結婚? 」
結婚とは…
それすら分からない北斗だったが、未希の言うことを聞くしかないような気がしてそのまま鵜呑みにしてしまったのだ。
未希は宗田ホールディングの取引先の社長の娘。
北斗とは営業先で出会い意気投合して交際していたと未希が話してくれた。
記憶を失っていた北斗は未希の言葉を鵜吞みにして聞いていたが、事実は全く違っていた。
取引先の社長の娘として、未希は何度か宗田ホールディングに来ていた。
その時、北斗を見かけて声をかけて来た事があったが、北斗は良い感じを受けなかった事から未希を避けていたのだ。
しつこく言い寄ってくることもあったが、ハッキリと断っていたのだ。
北斗が記憶を失っている事を知り利用して結婚しようとしていた未希。
その未希が事故起こした車を運転していた事が判明した。
北斗と結婚するために事故を起こしたのか?
そこまでして結婚したかったのだろうか?
失った記憶を取り戻した北斗は、この事実をハッキリさせなくてはと思っている。
それから1週間後。
逮捕からずっと続いている未希の取り調べ。
容疑は「殺人」で未希が殺害したのは野山愛26歳。
刃渡り15cmほどのナイフで、腹部を刺して殺害した事が判明している。
目撃者は少なくハッキリした証言は得られないままだったが、未希がとっさに動画撮影をしたようでブレた画像ではあるが音声がハッキリ残っていて声の主が未希である事が判明している。
愛が殺害される前に、未希が近くのホームセンターで同じナイフを購入している事も証明されている。
帽子を深くかぶった未希が愛に近づき刺殺したとされているが、未希は容疑を否認している。
しかし愛が殺害された時刻に、未希が外出していた事が家族の証言からも明らかになっている。
いくら未希が否認しても証拠がそろっている限り逃げる事はできない。
未希の両親は宗田ホールディングから契約を打ち切られ、損害賠償を請求されることになった。
婚約に関してはまだ成立していない為、何も請求はされなかった。
警察は参考人として北斗にも事情徴収を行ったが、北斗は全く何も知らず、ただ記憶を無くしていて、未希が助けたのは自分で婚約者だと言ったのを信じていただけだと話した。
未希の逮捕から3週間過ぎた日。
北斗が幸弥に依頼していた調査の結果が届いてきた。
北斗と幸弥は金奈ホテルのカフェで待ち合わせした。
ここには個室があり、密会もできるようになっている。
「頼まれていた野山さんについて調べた結果だよ」
幸弥は一冊のファイルを北斗に渡した。
北斗はファイルの中を見た。
ファイルの中にはあの写真のままのトワが写っている。
「説明しておくね。野山トワさん。その人は警察官」
「警察官だったのか。それで、あんなに生真面目だったんだ」
「ああ、そうだろうね。お父さんは警察署長だった人だけど、3年前に事件に巻き込まれて刺殺されているんだ」
「え? 」
「警察官にはよくある事かも知れない。何かの事件で逆恨みされて、殺されてしまう事も。僕も弁護士だから、依頼人に逆恨みされることもあるから。良く分るよ」
北斗は思いだした。
トワはどうしても、距離を置きたがっていた。
付き合ってほしいと北斗が言っても、承諾はしてくれたものの、いつもどこか人目を気にして距離を置いていた。
何かに怖がっているようにも感じていたのは、父親が殺されているからなのか。
そう聞くと納得できる事ばかりだった。
「それから、現在のトワさんについては全く分からなかった。何かに守られているというか、既に彼女の家は誰もいなくなっているから」
「どうゆう事? 」
幸弥は一息つき、珈琲を飲んだ。
「園田未希さんが逮捕されたろ? 殺人容疑で」
「ああ」
「園田未希さんが殺害したのは、野山愛。その人は、トワさんの双子のお姉さんだよ」
「え?! 」
北斗は真っ青になった。
「北斗が事故にあって間もなくだった。愛さんは、トワさんの双子のお姉さんで、検察官になっていた。トワさんより、ちょっとだけ格が上の人だね。でも、すごく優しくて、いつもトワさんを護っていたようだよ。明るい場所で見ると、違いは分かるんだけど。暗い場所だとそっくりで、間違えられやすかったらしい」
「ちょっと待って! それって、もしかして愛さんが殺されたのは…」
真っ青な顔で驚く北斗を見て、幸弥は辛そうに目を伏せた。
「もしかすると、愛さんはトワさんと間違えられて刺殺された可能性もある。園田未希は、北斗とトワさんが交際しているのを知っていたんだ」
「どうして、トワが殺されなくちゃならないんだ? 」
幸弥は身を乗り出す北斗をそっと宥めた。
「北斗、落ち着いて聞いてほしい。これは、推測でしかすぎない事だが。状況から見ての事だが。お前を事故で庇ったのは、トワさんに間違いないと思われる」
「それは、俺もなんとなく覚えている。まだはっきり思出せていないけど、あの時きっとトワと一緒にいたんだ。いつも俺は、トワに危ないから右側を歩かせていたけど。車が突っ込んできたのに気付いたトワは、俺を庇ってくれた。少し遠い記憶だけど、そう覚えている」
「恐らく、その通りだ。未希が運転していた車が、修理に出されたとき、タイヤに血痕がついていた。そのタイヤは今でも保管してあったらしく、警察で調べているそうだ。事故現場では、車は一旦進んでバックしている形跡が残されていたそうだ。状況から見て、明らかに殺意を感じる。だが、その事故でトワさんは、怪我をしても無事だった。それを知って、園田未希は殺害に走ったとみられる」
北斗は呼吸を整えた。
そしてファイルをもう一度見た。
次のページに、トワとそっくりなショートカットの女性の写真がある。
野山愛と書いてある。
その写真を見て、北斗は未希を逮捕しに来た刑事とよく似ていると思った。
「この人が、愛さん? 」
「ああ、2人共真逆に見えるだろう? でも中身は同じなんだ。トワさんは、ちょっと生真面目で臆病なところもあったと聞いている。でも、正義感が強くて、どんな人にも助ける手を差し伸べる事には躊躇しない人だったと聞いているよ」
「うん、それは俺にも判る。よく、町で困っている人を見かけると声をかけて助けていたから。…でも…どうして、今のトワの事は判らないんだ? 誰もいなくなっているってどうゆう事なんだ? 」
「愛さんが殺された同じ日の夜。不審火で、トワさんの家は火事になったんだ。家に一人いたお母さんはぐっすり眠っていて、そのまま焼死してしまった。家は全焼して跡形も残らなかった。出火原因は、残っていた瓶からガソリンらしき反応がでたらしく、誰かが放火したと判断されていたが、目撃者も少なく手掛かりがなく、判らなくなっていたんだ」
「トワはその時いなかったのか? 」
「ちょうど宿直でいなかったらしい。その晩は、町で窃盗犯を逮捕したり、バタバタしていて火事の事を知ったのは翌日の朝だったようだよ」
「お姉さんとお母さんを、同時に亡くして。トワは…大丈夫だったのか? 」
思いが溢れ北斗の声が上ずっていた。
「一人で…全部抱えて…。俺は何もできなかった…」
俯いてしまった北斗が涙ぐんでいた。
「北斗。そんなに自分を責めなくていい」
「でも、俺だけ助かって。トワがどんな思いでいたかと思うと…」
ズキン!
北斗は頭に痛みが走って押さえた。
キーッと、車の急ブレーキ音が聞こえて、車がバックしてきた。
「うっ…」
呻き声が聞こえて痛みをこらえる女性が居る。
ぼんやりとしていた視界がハッキリすると、その女性がトワだったのかが北斗の目に見えた。
「トワ…」
倒れそうな足取りで北斗はトワに歩み寄って行き、力尽きる寸前でトワを抱きしめた。
重い瞼を開いてトワを見た北斗は、何か酷い出血を感じた。
地面に広がる血痕を見て、トワの右手から酷い出血が滴り落ちているのが目に入った。
「トワ…大丈夫…? 」
息も絶え絶えに北斗が尋ねると、トワはニコっと笑った。
そして左手で携帯電話を取り出し電話をかけ、救急車を呼んだ。
「すぐに救急車が来ますから、心配しないで下さい」
言いながらトワはハンカチを北斗の額にあててくれた。
額に当てられたトワの手からは、とても暖かい温もりが伝わって来る…。
その温もりに安心した北斗は、そのまま意識を失った…。
頭の痛みが治まり、北斗はゆっくりと目を開けた。
「あの事故で、俺を助けてくれたのはトワだ。間違いない…」
「思い出せたのか? 事故の事」
「ああ…今思い出した…」
「そうか」
「酷い怪我をしていたけど…トワは、あの後どうしたんだろう? …」
「トワさんの事は、もう少し調べてみるよ。ちょっと気になる事があるんだ」
「気になる事って? 」
「羽弥斗が言っていたんだ。4月から移動になった金奈警察署の刑事課に、トワという名前の刑事が居るって言っていたから。同じ名前の人なのかもしれないが、何となく愛さんに似ている感じだって言っていた。だからもう少し、調べてみる。もしかしたら、僕が園田未希さんの弁護を頼まれるかもしれないんだ」
「え? なんで? 」
「親御さんから依頼が来ている。ものすごい大金を積んできているよ。でも、犯した罪は免れない、少しでも軽くする弁護はできても。それ以上の事はできないからね」
「引き受けるの? 」
「迷ったけど、引き受けようと思う。彼女の事件は、金奈警察署の管轄だから。殺人事件は刑事課の担当だ。だから、トワさんの事が判ると思うんだ」
「そっか。分かったよ、でもあまり無理をしないで」
「ああ、わかっているよ。でも、お前の幸せの為じゃないか。トワさんの事、よっぽど好きなんだって判るからさっ」
まいったなぁ…。
北斗はちょっと照れたように笑った。
思い出せていなかった記憶が戻って来た北斗。
しかしそのきっかけは未希が逮捕された事だった。
本音を言うと北斗は未希との結婚に心から喜びを感じていなかった。
何も判らないから、そうなんだと思っていたが、心のどこかでなんか違うと感じていた。
未希を紹介した時、秋斗も茜も表面では笑っていても内心は納得できない顔をしていた。
羽弥斗もなんとなく受け入れがたい顔をしていた。
両家の顔合わせの日も、北斗はあまり体調が優れなかった。
話が始まってもなんとなく頭が重くて。
正直、未希が逮捕されてほっとしてたのだ。
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