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不審者
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次の日も快晴で、昨日よりも人出が多い。
今日は初めから3人体制でもフル稼働でコーヒーを売りまくった。
だから忙しさに気付けなかった。
気付いたのは安野さんの一言だった。
「優希ちゃん、あの人ちょっと怖くない?」
「えっ?どの人ですか?」
「ほら、あそこ。花壇の石垣に座ってる女の人。」
ふと見上げた瞬間、目に飛び込んできたのは、拓郎の彼女の恵美さんだった。
ふんわりとしたロングのスカートにサンザル姿の恵美さんは日傘を差している。
普段は中央分離帯の花壇なのだけれど、イベント中は車両通行止めになっているため、30センチほどの高さのある花壇の石垣はちょっとした休憩ベンチ代わりに使われている。
そこに座って日傘を少しだけ傾けて、じっとこっちを恵美さんは睨むように見つめていた。
あー、やっぱりか。
来そうな気はしてた。拓郎が呼んだのかな?ううん、恵美さんはこういったことを敏感に察してしまうから。
「朝からずっとあそこに座ったままなんです。なんか見られてるの、気持ち悪いなって。」
「とりあえずそっとしときましょう。待ち合わせか何かですよ、きっと。ホラお客様。いらっしゃいませー。」
とりあえず仕事、仕事!
隣のテントにいる拓郎も恵美さんを気にする素振りは見せないで、お客様の対応に余念が無さそうだ。
なるべく見ないようにして私は仕事を続けた。
異変は直ぐだった。
私達のテントの前にスッと制服警官が立った。
「あ、あのー。何かありましたか?」
「いえ、通常の警備ですよ。お気になさらず、って気になりますよね。こんな格好じゃ。
不審者目撃通報があったので、警備場所を見直しました。しばらくここにいさせて下さい。」
「そうですか、お疲れ様です。差し支えなければコーヒーお入れしますし、よかったらテントの中に。」
「勤務時間なのでお気持ちだけ。ありがとうございます。」
和かに笑っていたおまわりさんは、キツい視線に変わり姿勢を正した。
(…不審者って恵美さんじゃないよ…ね。)
まさかとは思うけれど、楽しそうにそぞろ歩きをする集団の中でひとり座っている恵美さんは異質といえば異質で…。
でもまさかただ座っているだけで不審者扱いはされたりはしないだろう。
そのまま時間だけが過ぎて、拓郎達の店の方が早仕舞いをし始める。
聞いた話によると、公園の人手はこの頃から帰り支度をする人が多いらしく、それ以降は店を開けてても売り上げにはならないと店長さんの判断らしい。
今日は拓郎じゃなくて、違う人が残った。
拓郎が消えると共に恵美さんも消えて、おまわりさんも消えた。
「どうぞ。」
とアイスコーヒーを差し入れる。
「あ、すみません。ありがたいです。」
「大盛況でしたね。」
「ええ、最初はどうなるかと思ったけれど、意外に売れましたね。
あっ、撤収手伝いますよ。」
拓郎が言い含めたのか、電源を借りているからなのか、スタッフみんながウチの店に優しい。あっ、飲み物をサービスしてるからかもしれない。
「野村さんって岸野さんの同級生なんですってね。」
「ええ、まあ。」
「じゃあ、彼女さんも知ってたりします?」
「ええ、まあ。」
「溺愛してますよね。岸野さん、彼女さんのこと。」
「…みたいですね。」
今日も岸野さんが残るはずだったのに、彼女さんが来てるから早く上がるって。それを許す店長もどうかと思いますけど、まあいつも岸野さんは誰よりも店にいるから。残業は店一番なんです。
ペラペラとよく喋る拓郎のところのスタッフだ。
聞きたくなかった話を…こっちの気も知らないで喋り続けてくれる。
…でも、少しは溜飲が下がっただろうか。
今日、拓郎は恵美さんを無視し続けていたけれど、私のことも無視し続けて。もちろん私もだ。
これからきっと恵美さんのごきげんを取るためにどこかに繰り出すか、二人でまったりと過ごすのか…。
よくわからないけれど、そうしてくれないと困る事になっちゃう。
今日は初めから3人体制でもフル稼働でコーヒーを売りまくった。
だから忙しさに気付けなかった。
気付いたのは安野さんの一言だった。
「優希ちゃん、あの人ちょっと怖くない?」
「えっ?どの人ですか?」
「ほら、あそこ。花壇の石垣に座ってる女の人。」
ふと見上げた瞬間、目に飛び込んできたのは、拓郎の彼女の恵美さんだった。
ふんわりとしたロングのスカートにサンザル姿の恵美さんは日傘を差している。
普段は中央分離帯の花壇なのだけれど、イベント中は車両通行止めになっているため、30センチほどの高さのある花壇の石垣はちょっとした休憩ベンチ代わりに使われている。
そこに座って日傘を少しだけ傾けて、じっとこっちを恵美さんは睨むように見つめていた。
あー、やっぱりか。
来そうな気はしてた。拓郎が呼んだのかな?ううん、恵美さんはこういったことを敏感に察してしまうから。
「朝からずっとあそこに座ったままなんです。なんか見られてるの、気持ち悪いなって。」
「とりあえずそっとしときましょう。待ち合わせか何かですよ、きっと。ホラお客様。いらっしゃいませー。」
とりあえず仕事、仕事!
隣のテントにいる拓郎も恵美さんを気にする素振りは見せないで、お客様の対応に余念が無さそうだ。
なるべく見ないようにして私は仕事を続けた。
異変は直ぐだった。
私達のテントの前にスッと制服警官が立った。
「あ、あのー。何かありましたか?」
「いえ、通常の警備ですよ。お気になさらず、って気になりますよね。こんな格好じゃ。
不審者目撃通報があったので、警備場所を見直しました。しばらくここにいさせて下さい。」
「そうですか、お疲れ様です。差し支えなければコーヒーお入れしますし、よかったらテントの中に。」
「勤務時間なのでお気持ちだけ。ありがとうございます。」
和かに笑っていたおまわりさんは、キツい視線に変わり姿勢を正した。
(…不審者って恵美さんじゃないよ…ね。)
まさかとは思うけれど、楽しそうにそぞろ歩きをする集団の中でひとり座っている恵美さんは異質といえば異質で…。
でもまさかただ座っているだけで不審者扱いはされたりはしないだろう。
そのまま時間だけが過ぎて、拓郎達の店の方が早仕舞いをし始める。
聞いた話によると、公園の人手はこの頃から帰り支度をする人が多いらしく、それ以降は店を開けてても売り上げにはならないと店長さんの判断らしい。
今日は拓郎じゃなくて、違う人が残った。
拓郎が消えると共に恵美さんも消えて、おまわりさんも消えた。
「どうぞ。」
とアイスコーヒーを差し入れる。
「あ、すみません。ありがたいです。」
「大盛況でしたね。」
「ええ、最初はどうなるかと思ったけれど、意外に売れましたね。
あっ、撤収手伝いますよ。」
拓郎が言い含めたのか、電源を借りているからなのか、スタッフみんながウチの店に優しい。あっ、飲み物をサービスしてるからかもしれない。
「野村さんって岸野さんの同級生なんですってね。」
「ええ、まあ。」
「じゃあ、彼女さんも知ってたりします?」
「ええ、まあ。」
「溺愛してますよね。岸野さん、彼女さんのこと。」
「…みたいですね。」
今日も岸野さんが残るはずだったのに、彼女さんが来てるから早く上がるって。それを許す店長もどうかと思いますけど、まあいつも岸野さんは誰よりも店にいるから。残業は店一番なんです。
ペラペラとよく喋る拓郎のところのスタッフだ。
聞きたくなかった話を…こっちの気も知らないで喋り続けてくれる。
…でも、少しは溜飲が下がっただろうか。
今日、拓郎は恵美さんを無視し続けていたけれど、私のことも無視し続けて。もちろん私もだ。
これからきっと恵美さんのごきげんを取るためにどこかに繰り出すか、二人でまったりと過ごすのか…。
よくわからないけれど、そうしてくれないと困る事になっちゃう。
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