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浴衣
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「一緒に入る?」
とニヤニヤと笑うからそれが冗談だとわかる。
「イヤでーす。」
とりあえず最初は別で入りたい。
理由はない、なんとなく。準備?一旦身体を綺麗に洗いたい。
「適当に飲んで待ってるよ。」
と野上さんは冷蔵庫を開ける。いわゆる旅館の小さな冷蔵庫ではなく、家庭用でも使えそうな2ドア冷蔵庫だった。
「お、もう飯が入ってるよ。」
「本当だ。」
野上さんの横から扉の中を覗き込んだ。
冷蔵庫の中に漆の箱が置かれ、ラップがされている。綺麗な一口サイズの料理が並べられていた。いわゆる松花堂弁当みたいだ。
もうひとつ串に刺さった肉や肴や野菜が入った箱もあり、こちらは火が入っていない。どうやらこれを囲炉裏で焼いて食べろ、というのだろう。
他に刺身や水菓子の小鉢もある。
グーっとお腹が鳴る音が聞こえた。
くくくっと野上さんが笑う。
「やべ。腹減った。」
「先食べます?」
いいや、お風呂入っておいで。その間に火をつけておくから、と野上さんが言ってくれたから、それに甘えることにした。
2階に上がり、備え付けの浴衣を手に取って脱衣所に入りテキパキと服を脱いだ。
ふと最初の撮影の日を思い出した。
同棲か新婚か…カップルのアフターバスタイム…。
あれから幾度も似たようなシチュエーションはあったけど。
野上さんはお風呂上がりでもきちんと服を着込む。もちろん私もだ。
…浴衣か。
どこに行くかを教えては貰えなかったから、なんの用意もしていない。
教えてくれていたら、少しは色気のある下着を用意したりもできたのに…。
普段使いの下着で替えもない。
…あーあ。
そういうのを求められていないから、準備をさせては貰えないんだろうけど。
考えてもいまさらどうすることも出来ない。
とりあえず清潔であることは心掛けよう、とまずは室内風呂で頭から足先まで丁寧に身体を洗った。
露天風呂に移動して、ピリっと肌を刺す冷たい風に頭を冷やされながら少し熱めのお湯に浸かる。
少し茶色味のあるトロッとしたお湯はこの辺り特有の温泉水なんだろう。硫黄の香りは殆どしない。
あー、気持ちいい。ずっと入っていられそう。
「どう?」
背中から野上さんの声が掛かる。
「気持ち良いですよ。」
と振り返って…。
「野上さん?」
嫌だって言ったのに…。
野上さんはいつの間にか既に服を脱いで、部屋の掃き出し窓からバルコニーへと出てきてた。
タオルだけを手にして堂々と歩く姿は…自信があるんだろうな。
自分にもその身体にも。
「入っていい?」
「…仕方ないですよね。」
服を脱いでここまで来てダメだなんて言えるはずがない。
一応身体は洗ったから、恥ずかしいだけ。
素直にどうぞとは言えなくて、濡れた手で飛沫を飛ばして掛けた。
「あーあ、濡れたじゃん。」
文句を言いつつもうれしそうに笑ってる。釣られて私も笑顔になった。
軽く掛け湯をして野上さんはそっと足をお湯に付けた。
「案外熱湯だ。」
「最初だけ、長く入れるお湯ですよ。」
野上さんは浴槽の中を歩いて私の隣に座ると、フーッと大きく息を吐いた。
「別が良かったのに。」
軽く文句を言うと、この雰囲気で?と笑われる。
ベッドから丸見えの露天風呂だ。もちろん障子で隠す事もできるけれど、私は野上さんは下にいるものだと思い込んでたからそのまま…。
閉めておけば良かった…と少し後悔なんかしてみることにした。
とニヤニヤと笑うからそれが冗談だとわかる。
「イヤでーす。」
とりあえず最初は別で入りたい。
理由はない、なんとなく。準備?一旦身体を綺麗に洗いたい。
「適当に飲んで待ってるよ。」
と野上さんは冷蔵庫を開ける。いわゆる旅館の小さな冷蔵庫ではなく、家庭用でも使えそうな2ドア冷蔵庫だった。
「お、もう飯が入ってるよ。」
「本当だ。」
野上さんの横から扉の中を覗き込んだ。
冷蔵庫の中に漆の箱が置かれ、ラップがされている。綺麗な一口サイズの料理が並べられていた。いわゆる松花堂弁当みたいだ。
もうひとつ串に刺さった肉や肴や野菜が入った箱もあり、こちらは火が入っていない。どうやらこれを囲炉裏で焼いて食べろ、というのだろう。
他に刺身や水菓子の小鉢もある。
グーっとお腹が鳴る音が聞こえた。
くくくっと野上さんが笑う。
「やべ。腹減った。」
「先食べます?」
いいや、お風呂入っておいで。その間に火をつけておくから、と野上さんが言ってくれたから、それに甘えることにした。
2階に上がり、備え付けの浴衣を手に取って脱衣所に入りテキパキと服を脱いだ。
ふと最初の撮影の日を思い出した。
同棲か新婚か…カップルのアフターバスタイム…。
あれから幾度も似たようなシチュエーションはあったけど。
野上さんはお風呂上がりでもきちんと服を着込む。もちろん私もだ。
…浴衣か。
どこに行くかを教えては貰えなかったから、なんの用意もしていない。
教えてくれていたら、少しは色気のある下着を用意したりもできたのに…。
普段使いの下着で替えもない。
…あーあ。
そういうのを求められていないから、準備をさせては貰えないんだろうけど。
考えてもいまさらどうすることも出来ない。
とりあえず清潔であることは心掛けよう、とまずは室内風呂で頭から足先まで丁寧に身体を洗った。
露天風呂に移動して、ピリっと肌を刺す冷たい風に頭を冷やされながら少し熱めのお湯に浸かる。
少し茶色味のあるトロッとしたお湯はこの辺り特有の温泉水なんだろう。硫黄の香りは殆どしない。
あー、気持ちいい。ずっと入っていられそう。
「どう?」
背中から野上さんの声が掛かる。
「気持ち良いですよ。」
と振り返って…。
「野上さん?」
嫌だって言ったのに…。
野上さんはいつの間にか既に服を脱いで、部屋の掃き出し窓からバルコニーへと出てきてた。
タオルだけを手にして堂々と歩く姿は…自信があるんだろうな。
自分にもその身体にも。
「入っていい?」
「…仕方ないですよね。」
服を脱いでここまで来てダメだなんて言えるはずがない。
一応身体は洗ったから、恥ずかしいだけ。
素直にどうぞとは言えなくて、濡れた手で飛沫を飛ばして掛けた。
「あーあ、濡れたじゃん。」
文句を言いつつもうれしそうに笑ってる。釣られて私も笑顔になった。
軽く掛け湯をして野上さんはそっと足をお湯に付けた。
「案外熱湯だ。」
「最初だけ、長く入れるお湯ですよ。」
野上さんは浴槽の中を歩いて私の隣に座ると、フーッと大きく息を吐いた。
「別が良かったのに。」
軽く文句を言うと、この雰囲気で?と笑われる。
ベッドから丸見えの露天風呂だ。もちろん障子で隠す事もできるけれど、私は野上さんは下にいるものだと思い込んでたからそのまま…。
閉めておけば良かった…と少し後悔なんかしてみることにした。
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