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日本シリーズの手伝い
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野上さんが出れなかった日本シリーズの日、その時間、私は拓郎の家にいた。
昼間カフェのバイトをし夕方に上がらせて貰って、居酒屋の手伝いに駆り出される。
ここ数年のお約束になっていた。
野球が好きな拓郎の兄、芳朗こと芳ニイ。
この芳ニイが店を切り盛りするようになってから、日本シリーズ、WBC等は拓郎の実家の居酒屋はまるでスポーツバーのように野球好きが集まり、観戦しながらお酒を飲むようになった。
「とりあえず生中、えっと4つ。」
「はーい、生4つね、ニイ、生4つ!」
「あいよー!」
突き出しを並べてテーブルを離れる。
「これ、2番。」
「あ、はい!」
出来上がっていた唐揚げのお皿を取ってテーブル席に運ぶ。
「お待たせー。唐揚げね。」
おー、とそそくさとお皿を受け取るのは、高校の同級生でもあった慎介だ。キャッチャーで、拓郎と中学から6年間バッテリーを組んでいた。
ある意味コイツも腐れ縁の幼馴染。
熊のようにデカい芳ニイにも負けない、180センチ越えのデカ男だ。
「優希、絶対いると思ったんだ。」
「コキ使われてて可哀想でしょう?」
あはは、とお互いに笑い、慎介はチラリと芳ニイを見る。
「拓郎は…」
「いる訳ないじゃん。だから私が駆り出されてんの!野球に友達にアルコールなんて恵美さんが許すはずがない。」
「あと、お前もいるしな。」
…関係ない。私のせいじゃない!
ぶすっとしたのを慎介は見逃さなかった。
「…すまん、でも。」
「うん、先に振ったのは私。」
恵美さんの話題を出さなければ良かった。
慎介とはあまり会わないのに。こんな沈んだ話はしたくない。
気を取り直そう。そうだ、それが良い。
「後、誰が来るの?」
「わからん、約束はしてない。」
「そっ、でも、きっと来るんじゃない?」
毎年、日本シリーズの日にここで手伝いに駆り出されるけれど、同級生に会わなかった時はあまりない。
…来るとしたら…、ふと思い出した顔と名前。
「「健太とか。」」
慎介と声が揃って2人であははと笑う。
「アイツは来る!今年ベアーズ優勝してないからな。」
否定は出来ない。ベアーズだったら間違いなく大学の時の仲間と球場に駆けつけていただろう。
健太がベアーズのファンになったのはきっと野上さんの影響だ。
ガラっとお店の引き戸が開かれて、来客を知らせるチャイムが鳴る。
「いらっしゃいませーって、やっぱり健太か!」
「やっぱり?何それ!なんかガッカリしてない!?」
「何名様?」
「ひとり…。」
「相席、宜しいですか?」
それだけで健太には伝わった。
「誰がいるの?」
「さあ、どうでしょう?」
「慎介とかぁ?」
ぷっと笑った。結局この2人は仲が良いんだ。
「慎介いるよ、彼女と。」
「えっ!?ウソ!!」
「う、そ。」
慎介は面倒見はとてもいい。とても良いけれど、見た目は熊かゴリラだ。
「っていうか、優希何してんの?先輩は?」
「仕事。解説。」
あー、そうかと健太は納得した。ってか、待て!
「健太に会ったら言いたい事たくさんあったんだ。」
「うーん?礼なら別に…。」
「違う!アンタ、野上さんに何を吹き込んだ!!」
ヤバって顔を今更するのか。
というかそんな顔をするようなことを吹き込んだの!?
「…事実だろ、全部。」
「だから、何を吹き込んだ!?」
その時だった。
ガラッとまた店の扉が開かれた。
「…っと、いっぱい?」
サラリーマン姿の男性の2人連れだった。
「いらっしゃいませ、いえ、座れますよ。どーぞ。」
振り返ると既に健太はいなくて。
あーあ、逃げられたらしい。
昼間カフェのバイトをし夕方に上がらせて貰って、居酒屋の手伝いに駆り出される。
ここ数年のお約束になっていた。
野球が好きな拓郎の兄、芳朗こと芳ニイ。
この芳ニイが店を切り盛りするようになってから、日本シリーズ、WBC等は拓郎の実家の居酒屋はまるでスポーツバーのように野球好きが集まり、観戦しながらお酒を飲むようになった。
「とりあえず生中、えっと4つ。」
「はーい、生4つね、ニイ、生4つ!」
「あいよー!」
突き出しを並べてテーブルを離れる。
「これ、2番。」
「あ、はい!」
出来上がっていた唐揚げのお皿を取ってテーブル席に運ぶ。
「お待たせー。唐揚げね。」
おー、とそそくさとお皿を受け取るのは、高校の同級生でもあった慎介だ。キャッチャーで、拓郎と中学から6年間バッテリーを組んでいた。
ある意味コイツも腐れ縁の幼馴染。
熊のようにデカい芳ニイにも負けない、180センチ越えのデカ男だ。
「優希、絶対いると思ったんだ。」
「コキ使われてて可哀想でしょう?」
あはは、とお互いに笑い、慎介はチラリと芳ニイを見る。
「拓郎は…」
「いる訳ないじゃん。だから私が駆り出されてんの!野球に友達にアルコールなんて恵美さんが許すはずがない。」
「あと、お前もいるしな。」
…関係ない。私のせいじゃない!
ぶすっとしたのを慎介は見逃さなかった。
「…すまん、でも。」
「うん、先に振ったのは私。」
恵美さんの話題を出さなければ良かった。
慎介とはあまり会わないのに。こんな沈んだ話はしたくない。
気を取り直そう。そうだ、それが良い。
「後、誰が来るの?」
「わからん、約束はしてない。」
「そっ、でも、きっと来るんじゃない?」
毎年、日本シリーズの日にここで手伝いに駆り出されるけれど、同級生に会わなかった時はあまりない。
…来るとしたら…、ふと思い出した顔と名前。
「「健太とか。」」
慎介と声が揃って2人であははと笑う。
「アイツは来る!今年ベアーズ優勝してないからな。」
否定は出来ない。ベアーズだったら間違いなく大学の時の仲間と球場に駆けつけていただろう。
健太がベアーズのファンになったのはきっと野上さんの影響だ。
ガラっとお店の引き戸が開かれて、来客を知らせるチャイムが鳴る。
「いらっしゃいませーって、やっぱり健太か!」
「やっぱり?何それ!なんかガッカリしてない!?」
「何名様?」
「ひとり…。」
「相席、宜しいですか?」
それだけで健太には伝わった。
「誰がいるの?」
「さあ、どうでしょう?」
「慎介とかぁ?」
ぷっと笑った。結局この2人は仲が良いんだ。
「慎介いるよ、彼女と。」
「えっ!?ウソ!!」
「う、そ。」
慎介は面倒見はとてもいい。とても良いけれど、見た目は熊かゴリラだ。
「っていうか、優希何してんの?先輩は?」
「仕事。解説。」
あー、そうかと健太は納得した。ってか、待て!
「健太に会ったら言いたい事たくさんあったんだ。」
「うーん?礼なら別に…。」
「違う!アンタ、野上さんに何を吹き込んだ!!」
ヤバって顔を今更するのか。
というかそんな顔をするようなことを吹き込んだの!?
「…事実だろ、全部。」
「だから、何を吹き込んだ!?」
その時だった。
ガラッとまた店の扉が開かれた。
「…っと、いっぱい?」
サラリーマン姿の男性の2人連れだった。
「いらっしゃいませ、いえ、座れますよ。どーぞ。」
振り返ると既に健太はいなくて。
あーあ、逃げられたらしい。
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