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露見

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季節は冬に差し掛かり、クリスマスの予定を立て始めようかという頃合いだった。
年明けになれば野上さんの束の間のオフシーズンは終わり、自主トレに春季キャンブ、野球選手としての大切な時期に突入していく。

「明日、記事が出る。」
事務所のマネージャーから連絡が来たのは当然といえば当然だ。
なるべく外では会わないように、たまに外で会う時はなるべく気をつけてはいたけれど、野上さんは隠すつもりは全く無いみたいだった。
私がどんなに頑張って隠そうとしていても、片方が隠そうとしてないんじゃ、時間の問題だった。

そんな事には全く気付けずに、チームのみんなとパーティーしようとか、どこか近場で旅行をしようとか、色々と誘ってくれたけれど、それを全部押し退けて、2人で過ごしたいと我儘を通し、おうちパーティーの計画を練っていた、そんな夜だった。

野上さんがクリスマスプレゼントと称してデパートでアクセサリーを物色していたところから目をつけられたらしい。
張り込んでいた記者に見つかったらしく、野上さんのマンションに出入りしている半同棲の通い妻状態のモデルがいると記事になるそうだ。

「こうなる前に教えてくれたら良かったのに。」
マネージャーの言葉に、
「こんなに続くとは思ってなかったので。」
と答えると、マネージャーはひどく納得したらしい。
それだけの前歴が私にはある。

「球団は、野上さんの私生活は本人に任せている、とコメントを出す。」
「はい。」
「こっちは?」
「えっ!?」
「ユキはどうする?どうしたい?」

マネージャーは
「テキスト文でもある程度の親密度を演出することが出来る。」
「ユキの顔に目隠しを入れるかどうかはユキが決められる。」
という。

記事は概ね野上さんに好意的で、甲斐甲斐しく部屋に食材を持って通う私の事は、近所の人からプロ彼女として認識されており、今季の野上さんの成績に良い影響があったんじゃないか?この交際は順調にのようで、来季の野上さんのパフォーマンスに良い影響が出る事を願う、という感じに纏められているらしい。
私の男性遍歴や幼馴染の事はカスリもしないと聞いて安心した。

「同じで良いです。事務所はノータッチだった、で。」

うん、わかった。今後のことは2人でよく相談して、とマネージャーは電話を切った。

スマホをテーブルに置いたとき。

「どういう事?」
と隣で会話を聞いていたらしい野上さんが怖い顔をしてこっちを見ていた。
「…どういう事ってどういう事ですか?」
「こんなに続くとは思ってなかった、ユキはそう言った。」

ああ、そこか。

「だって、そう思っていたから。」
野上さんの怒りポイントがイマイチわからない。
ためしに付き合ってみない?そう言ったのは野上さんなのに。

「幼馴染の心配をするのはなんで?」
「無関係な人だからですよ。」
「自分のことよりも?」
「だって、事実ですもん。」

私が野上さんとお付き合いしていること、私の過去の男性遍歴は事実だから、書かれても仕方がない。
私みたいなのと記事になるのは野上さんには申し訳ない気持ちになるけれど。
だけど拓郎の事は別だ。
拓郎との関係を匂わすような事にでもなれば、拓郎に迷惑を掛けてしまう。

「俺が好きだから付き合った?」
「そんな訳あるはずがないじゃないですか。」
気持ちがどうこうなるよりも前に付き合おうと言い出したのは野上さんの方だ。

事実なのになんでそんなに傷付いたような表情で私を見るんだろう?

「じゃあ、今は?」
はっ!?今?

「そんなに驚く事じゃ無いんじゃ無いの普通は。お試しでも半年、もう充分だろ?」
あー、もうそんなに経ったんだ。
新記録だ。前のタクヤはふた月、その前の人は3週間。その前は…もう思い出せないや。

「俺のこと、好きになった?」
と重ねて聞かれた。答えないと駄目かな?と迷って…許されなさそうな視線で見つめられていることに気付いた。
「…好きですよ。申し訳ないですけど。」
「…なんで申し訳ないとか言うの!?」

好きだ、と言ったのに野上さんはちょっぴり苛ついた様子を隠さずに私を見ている。

「記事が出るのは嫌だったんじゃないの?」
「嬉しいとは思ってないですよ。でも仕方ないじゃないですか。野上さんはみんなが知ってる野球選手なんだから。」
「俺は良いお付き合いをしている、結婚も視野に入れている、そうコメント出すけど。」

「私は…構わないですけど。野上さんはそれで良いんですか?」
「本当に?本気でそう思っている?」
構わないって言ったのに、やっぱり野上さんはあまり嬉しくなさそうだ。
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