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トラウマ
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「西上の鉄の掟で、部員は女子マネとは恋愛禁止なんですよね。だからどう見てもお互い思いあっているのに、2人はそういう関係にはならなかった。まあ、卒業したらそうなるんだろうなって、優希や拓郎を知っているヤツはそう思ってました。」
しかし、高卒で就職した拓郎くんと、大学生になった優希は少しずつ物理的に距離が離れてしまった。
その隙間で、2人はそれぞれ別の人と付き合い始めた。
しかし優希の方が先に別れてフリーになった。
恋愛とか何かを少しだけ齧った2人はお互いの思いに気付いてしまった。
それが仲間たちの分析だった。
拓郎くんは優希と向き合うために恋人との別れを決めて、そう告げた。
彼女は
「拓郎と別れるくらいなら死にたい。」
と拓郎くんに泣いて頼んだ。
幾度も「死にたい」を連呼されていた拓郎くんはそれを重くは受け止めず、側にいた優希も「行かないで。」と拓郎を引き留めたそうだ。
拓郎くんは優希の側を離れないと決めて、彼女のところには行かないと決めた。
ずっと鳴り続けていた彼女からの着信を拓郎くんと優希は無視し続けた。
とうとう彼女は最初の自殺未遂を実行してしまう。
脅しが脅しじゃなくなった。
「よりによって優希の20歳の誕生日にですよ。何もそんな日に…。」
と慎介くんが悔しそうな顔で呟いた。
ああ、そうか。だからユキは自分の誕生日を祝わなくなったのか、と妙に納得してしてしまった。
それを見つけた恵美の母親は拓郎の実家の居酒屋に駆けつけ、拓郎に突きつけ、病院に来るように迫った。
その時も拓郎は優希といた。と言ってもここは優希の居場所でもある。
ただ、優希に与えた影響は大きかった。
それから拓郎と一緒にいる時、拓郎のスマホが鳴ると優希は怯えるようになった。
だから、拓郎は、自分の予定を全て彼女にさらけ出し、スマホを片時も離さず、彼女の様子見をしながら時には通話までするようになる。
「俺らはその一連の流れを知ってるから耐えられますけれど、何も知らないヤツは拓郎を詰りまくりでしたよ。」
もし、2人がいるときに拓郎のスマホが鳴ったら、優希が直ぐに出るように促し、少しでもヤバい気配を感じたら恵美の元へと送り出すだろう。
「きっと今も怯えてると思いますよ。
あー、やっぱりもうダメなんだなぁと拓郎と優希が再確認するまでが一連の流れなんです。
大体5年変わらなかったんだから、今更どう変われるかって話なんですよ。」
と、重たい話はそこまでだった。
「だからさぁ、野上さん。FAしてメジャー目指したりしません?」
「はっ!?」
「おー、それいい!さすがにアメリカに行っちまえば、きっと諦めも付く筈ですよ。」
「メジャーとは言わないけど、北海道とか九州とか。そっちの方が現実的じゃないですか?トレードになんねぇかなぁ。」
コイツら一体何を言い出した!?
「お前ら、俺の野球人生舐めてんのか?」
「いや、舐めてないっすよ、優希が側につけばきっと三冠王だって取れますって。」
そうだ、そうだ、と周りが囃し立てる。
「えっと、英文科だから英語はペラペラだし。モデルになってからフード系の資格取ったはずです。」
「あっ、それから高校の時マッサージの講習受けてたり。上手いですよ、優希のマッサージ。あっ、エロくないのだから、気にしないで下さいよ。
野球のルールも戦術も完璧に理解してますし。
何よりその気にさせるのは上手ですしね。」
「優希、キャッチボールもノックも出来ますよ。」
「えっ?キャッチボールにノック?」
「あれ?知りませんでした?」
涼しい顔で小梨は言って退ける。
「ブルペンキャッチャーとは言わないですけど、軽めの投球練習にも付き合えます。」
と慎介くんが言う。
「先輩、ブルペンキャッチャーはさすがに要らないでしょう?」
「うん、要らない…。けど、西上のマネージャーってそこまでしてくれるの?」
するとみんながゲラゲラと笑う。
「優希だからですよ、って前もこんな話ししませんでした?
でも、試しに練習に連れていってみたらどうですか?」
ここでコイツらがやっぱり俺の野球人生を舐めてるって事を確信した。
「どこの世の中に彼女を練習に連れていくプロ野球選手がいるんだ!?
お前ら遊んでるんだろ。」
と凄んで見せると、
「うわっーバレた!」
と笑うヤツがいて。
「野上さんがそんな選手1号になればいいじゃないですか?」
とまだ言ってるヤツがいる。
バカ話で深刻さを覆い隠してる。
それくらい、俺にだってわかる。
コイツら、俺に大切なマネージャーを託そうとしてくれている。
しかし、高卒で就職した拓郎くんと、大学生になった優希は少しずつ物理的に距離が離れてしまった。
その隙間で、2人はそれぞれ別の人と付き合い始めた。
しかし優希の方が先に別れてフリーになった。
恋愛とか何かを少しだけ齧った2人はお互いの思いに気付いてしまった。
それが仲間たちの分析だった。
拓郎くんは優希と向き合うために恋人との別れを決めて、そう告げた。
彼女は
「拓郎と別れるくらいなら死にたい。」
と拓郎くんに泣いて頼んだ。
幾度も「死にたい」を連呼されていた拓郎くんはそれを重くは受け止めず、側にいた優希も「行かないで。」と拓郎を引き留めたそうだ。
拓郎くんは優希の側を離れないと決めて、彼女のところには行かないと決めた。
ずっと鳴り続けていた彼女からの着信を拓郎くんと優希は無視し続けた。
とうとう彼女は最初の自殺未遂を実行してしまう。
脅しが脅しじゃなくなった。
「よりによって優希の20歳の誕生日にですよ。何もそんな日に…。」
と慎介くんが悔しそうな顔で呟いた。
ああ、そうか。だからユキは自分の誕生日を祝わなくなったのか、と妙に納得してしてしまった。
それを見つけた恵美の母親は拓郎の実家の居酒屋に駆けつけ、拓郎に突きつけ、病院に来るように迫った。
その時も拓郎は優希といた。と言ってもここは優希の居場所でもある。
ただ、優希に与えた影響は大きかった。
それから拓郎と一緒にいる時、拓郎のスマホが鳴ると優希は怯えるようになった。
だから、拓郎は、自分の予定を全て彼女にさらけ出し、スマホを片時も離さず、彼女の様子見をしながら時には通話までするようになる。
「俺らはその一連の流れを知ってるから耐えられますけれど、何も知らないヤツは拓郎を詰りまくりでしたよ。」
もし、2人がいるときに拓郎のスマホが鳴ったら、優希が直ぐに出るように促し、少しでもヤバい気配を感じたら恵美の元へと送り出すだろう。
「きっと今も怯えてると思いますよ。
あー、やっぱりもうダメなんだなぁと拓郎と優希が再確認するまでが一連の流れなんです。
大体5年変わらなかったんだから、今更どう変われるかって話なんですよ。」
と、重たい話はそこまでだった。
「だからさぁ、野上さん。FAしてメジャー目指したりしません?」
「はっ!?」
「おー、それいい!さすがにアメリカに行っちまえば、きっと諦めも付く筈ですよ。」
「メジャーとは言わないけど、北海道とか九州とか。そっちの方が現実的じゃないですか?トレードになんねぇかなぁ。」
コイツら一体何を言い出した!?
「お前ら、俺の野球人生舐めてんのか?」
「いや、舐めてないっすよ、優希が側につけばきっと三冠王だって取れますって。」
そうだ、そうだ、と周りが囃し立てる。
「えっと、英文科だから英語はペラペラだし。モデルになってからフード系の資格取ったはずです。」
「あっ、それから高校の時マッサージの講習受けてたり。上手いですよ、優希のマッサージ。あっ、エロくないのだから、気にしないで下さいよ。
野球のルールも戦術も完璧に理解してますし。
何よりその気にさせるのは上手ですしね。」
「優希、キャッチボールもノックも出来ますよ。」
「えっ?キャッチボールにノック?」
「あれ?知りませんでした?」
涼しい顔で小梨は言って退ける。
「ブルペンキャッチャーとは言わないですけど、軽めの投球練習にも付き合えます。」
と慎介くんが言う。
「先輩、ブルペンキャッチャーはさすがに要らないでしょう?」
「うん、要らない…。けど、西上のマネージャーってそこまでしてくれるの?」
するとみんながゲラゲラと笑う。
「優希だからですよ、って前もこんな話ししませんでした?
でも、試しに練習に連れていってみたらどうですか?」
ここでコイツらがやっぱり俺の野球人生を舐めてるって事を確信した。
「どこの世の中に彼女を練習に連れていくプロ野球選手がいるんだ!?
お前ら遊んでるんだろ。」
と凄んで見せると、
「うわっーバレた!」
と笑うヤツがいて。
「野上さんがそんな選手1号になればいいじゃないですか?」
とまだ言ってるヤツがいる。
バカ話で深刻さを覆い隠してる。
それくらい、俺にだってわかる。
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