上 下
73 / 79

トラウマ

しおりを挟む
「西上の鉄の掟で、部員は女子マネとは恋愛禁止なんですよね。だからどう見てもお互い思いあっているのに、2人はそういう関係にはならなかった。まあ、卒業したらそうなるんだろうなって、優希や拓郎を知っているヤツはそう思ってました。」

しかし、高卒で就職した拓郎くんと、大学生になった優希は少しずつ物理的に距離が離れてしまった。
その隙間で、2人はそれぞれ別の人と付き合い始めた。
しかし優希の方が先に別れてフリーになった。
恋愛とか何かを少しだけ齧った2人はお互いの思いに気付いてしまった。

それが仲間たちの分析だった。

拓郎くんは優希と向き合うために恋人との別れを決めて、そう告げた。
彼女は
「拓郎と別れるくらいなら死にたい。」
と拓郎くんに泣いて頼んだ。
幾度も「死にたい」を連呼されていた拓郎くんはそれを重くは受け止めず、側にいた優希も「行かないで。」と拓郎を引き留めたそうだ。
拓郎くんは優希の側を離れないと決めて、彼女のところには行かないと決めた。
ずっと鳴り続けていた彼女からの着信を拓郎くんと優希は無視し続けた。
とうとう彼女は最初の自殺未遂を実行してしまう。
脅しが脅しじゃなくなった。

「よりによって優希の20歳の誕生日にですよ。何もそんな日に…。」
と慎介くんが悔しそうな顔で呟いた。

ああ、そうか。だからユキは自分の誕生日を祝わなくなったのか、と妙に納得してしてしまった。

それを見つけた恵美の母親は拓郎の実家の居酒屋に駆けつけ、拓郎に突きつけ、病院に来るように迫った。
その時も拓郎は優希といた。と言ってもここは優希の居場所でもある。
ただ、優希に与えた影響は大きかった。

それから拓郎と一緒にいる時、拓郎のスマホが鳴ると優希は怯えるようになった。
だから、拓郎は、自分の予定を全て彼女にさらけ出し、スマホを片時も離さず、彼女の様子見をしながら時には通話までするようになる。

「俺らはその一連の流れを知ってるから耐えられますけれど、何も知らないヤツは拓郎を詰りまくりでしたよ。」

もし、2人がいるときに拓郎のスマホが鳴ったら、優希が直ぐに出るように促し、少しでもヤバい気配を感じたら恵美の元へと送り出すだろう。

「きっと今も怯えてると思いますよ。
あー、やっぱりもうダメなんだなぁと拓郎と優希が再確認するまでが一連の流れなんです。
大体5年変わらなかったんだから、今更どう変われるかって話なんですよ。」

と、重たい話はそこまでだった。

「だからさぁ、野上さん。FAしてメジャー目指したりしません?」
「はっ!?」
「おー、それいい!さすがにアメリカに行っちまえば、きっと諦めも付く筈ですよ。」
「メジャーとは言わないけど、北海道とか九州とか。そっちの方が現実的じゃないですか?トレードになんねぇかなぁ。」

コイツら一体何を言い出した!?
「お前ら、俺の野球人生舐めてんのか?」
「いや、舐めてないっすよ、優希が側につけばきっと三冠王だって取れますって。」

そうだ、そうだ、と周りが囃し立てる。

「えっと、英文科だから英語はペラペラだし。モデルになってからフード系の資格取ったはずです。」
「あっ、それから高校の時マッサージの講習受けてたり。上手いですよ、優希のマッサージ。あっ、エロくないのだから、気にしないで下さいよ。
野球のルールも戦術も完璧に理解してますし。
何よりその気にさせるのは上手ですしね。」
「優希、キャッチボールもノックも出来ますよ。」
「えっ?キャッチボールにノック?」
「あれ?知りませんでした?」
涼しい顔で小梨は言って退ける。
「ブルペンキャッチャーとは言わないですけど、軽めの投球練習にも付き合えます。」
と慎介くんが言う。

「先輩、ブルペンキャッチャーはさすがに要らないでしょう?」
「うん、要らない…。けど、西上のマネージャーってそこまでしてくれるの?」

するとみんながゲラゲラと笑う。
「優希だからですよ、って前もこんな話ししませんでした?
でも、試しに練習に連れていってみたらどうですか?」

ここでコイツらがやっぱり俺の野球人生を舐めてるって事を確信した。

「どこの世の中に彼女を練習に連れていくプロ野球選手がいるんだ!?
お前ら遊んでるんだろ。」
と凄んで見せると、
「うわっーバレた!」
と笑うヤツがいて。
「野上さんがそんな選手1号になればいいじゃないですか?」
とまだ言ってるヤツがいる。

バカ話で深刻さを覆い隠してる。
それくらい、俺にだってわかる。
コイツら、俺に大切なマネージャーを託そうとしてくれている。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

生贄にされた先は、エロエロ神世界

雑煮
恋愛
村の習慣で50年に一度の生贄にされた少女。だが、少女を待っていたのはしではなくどエロい使命だった。

夫の幼馴染が毎晩のように遊びにくる

ヘロディア
恋愛
数年前、主人公は結婚した。夫とは大学時代から知り合いで、五年ほど付き合った後に結婚を決めた。 正直結構ラブラブな方だと思っている。喧嘩の一つや二つはあるけれど、仲直りも早いし、お互いの嫌なところも受け入れられるくらいには愛しているつもりだ。 そう、あの女が私の前に立ちはだかるまでは…

お兄ちゃんはお医者さん!?

すず。
恋愛
持病持ちの高校1年生の女の子。 如月 陽菜(きさらぎ ひな) 病院が苦手。 如月 陽菜の主治医。25歳。 高橋 翔平(たかはし しょうへい) 内科医の医師。 ※このお話に出てくるものは 現実とは何の関係もございません。 ※治療法、病名など ほぼ知識なしで書かせて頂きました。 お楽しみください♪♪

口は禍の元・・・後悔する王様は王妃様を口説く

ひとみん
恋愛
王命で王太子アルヴィンとの結婚が決まってしまった美しいフィオナ。 逃走すら許さない周囲の鉄壁の護りに諦めた彼女は、偶然王太子の会話を聞いてしまう。 「跡継ぎができれば離縁してもかまわないだろう」「互いの不貞でも理由にすればいい」 誰がこんな奴とやってけるかっ!と怒り炸裂のフィオナ。子供が出来たら即離婚を胸に王太子に言い放った。 「必要最低限の夫婦生活で済ませたいと思います」 だが一目見てフィオナに惚れてしまったアルヴィン。 妻が初恋で絶対に別れたくない夫と、こんなクズ夫とすぐに別れたい妻とのすれ違いラブストーリー。 ご都合主義満載です!

【R18】エリートビジネスマンの裏の顔

白波瀬 綾音
恋愛
御社のエース、危険人物すぎます​─​──​。 私、高瀬緋莉(27)は、思いを寄せていた業界最大手の同業他社勤務のエリート営業マン檜垣瑤太(30)に執着され、軟禁されてしまう。 同じチームの後輩、石橋蓮(25)が異変に気付くが…… この生活に果たして救いはあるのか。 ※完結済み、手直ししながら随時upしていきます ※サムネにAI生成画像を使用しています

結局夫を元カノに奪われるんだったら、結婚なんてしなければよかった

ヘロディア
恋愛
夫には元カノがいる… 更に彼女はまだ夫のことを諦めていないため、ストーカー行為をやめない。 そんな悩みを抱えて不安になっていた主人公だったが、ある日、元カノから電話がかかってきた…

【魅了の令嬢】婚約者を簒奪された私。父も兄も激怒し徹底抗戦。我が家は連戦連敗。でも大逆転。王太子殿下は土下座いたしました。そして私は……。

川嶋マサヒロ
恋愛
「僕たちの婚約を破棄しよう」 愛しき婚約者は無情にも、予測していた言葉を口にした。 伯爵令嬢のバシュラール・ディアーヌは婚約破棄を宣告されてしまう。 「あの女のせいです」 兄は怒り――。 「それほどの話であったのか……」 ――父は呆れた。 そして始まる貴族同士の駆け引き。 「ディアーヌの執務室だけど、引き払うように通達を出してくれ。彼女も今は、身の置き所がないだろうしね」 「我が家との取引を中止する? いつでも再開できるように、受け入れ体勢は維持するように」 「決闘か……、子供のころ以来だよ。ワクワクするなあ」 令嬢ディアーヌは、残酷な現実を覆せるのか?

[恥辱]りみの強制おむつ生活

rei
大衆娯楽
中学三年生になる主人公倉持りみが集会中にお漏らしをしてしまい、おむつを当てられる。 保健室の先生におむつを当ててもらうようにお願い、クラスメイトの前でおむつ着用宣言、お漏らしで小学一年生へ落第など恥辱にあふれた作品です。

処理中です...