亡国の王子に下賜された神子

枝豆

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歴史のない国

通貨が使えない

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「どなたかに案内を頼む事はできませんか?もちろん報酬は支払います。」

これくらいでどうか?とレオは銀貨を数枚見せた。
それを見た女性の顔はまるで汚いものでも見るかのように歪んだ。

「…馬鹿にするのも大概にしてくれよ。硬貨なんかこの辺りじゃ重石にもならない。金で買えるモンなんかこの辺りじゃ何もない。」

…やっぱりな。この辺りに店なんかないんだ。

「じゃあ何か別の形でも…。」
そう言ったレオの提案に女性が食い気味に、
「…あんた、良いもの持ってんね。それくれるなら息子を貸してあげるよ。」
と答える。

女性の目は真っ直ぐに私に向けらていて。

…えっ?私は何も持ってない…けど?
今の私は手ブラ。何ひとつ物は持ってない。

「それだよ、それ。胸に付いてるやつ。」
女性は私をしっかり見て、人差し指を突きつけた。

…胸に付いてる?
今、私の胸にアクセサリーの類は付いていない。

「…どれですか?」

はあ、と女性はため息をついて立ち上がった。

「これだよ、コレ!」
女性がツンツンと人差し指で突いたのは、木でできた丸いボタンだった。

「コレ!?」

今私が着ているのは綿のワンピースだ。
旅路に楽なようにとリマが選んでくれた。

被りのウエスト接ぎのワンピースで、襟からウエストの切り替えまでは合わせになってい
てそこをボタンで留める。ウエストから下はふんわりとしたタックが細かく入ったスカートで。

「この服をあげたら、道案内してもらえるんですか?」
「いや、その飾りだけで良いよ。そんなけったいな服は要らない。」

可愛いワンピースなのに、けったいなって酷いと思う。
だけど、この辺りで着ている人がいるか?と聞かれたら、いない。

「…良いですよ。」
迷うまでもない。ボタンくらい安い物だ。またどこかで買って付け替えればいい。
着なくなった服から外したっていいし。
少し時間を貰って着替えて、付けられているボタンの糸を切った。
4つ付いてるボタンを全て外して、手渡そうとすると、
「ひ、ひとつで十分だよ。」
と驚かれる。

どのみちひとつだけ付け替えれば悪目立ちしてしまうだろう。
銀貨1枚どころか銅貨1枚ほどの価値もないボタンの方がここの暮らしには価値があるらしい…。

「構いません。どうぞ。」
とボタンを握った手を差し出した。

「…強欲な女だとか思ってやしないかい?」
「…いいえ、ちっとも。」
レオが差し出そうとした銀貨の枚数を上乗せしろとか言われた方がよほど強欲に見えるだろうけれど…。
ボタンと銀貨なら…きっと迷わず銀貨を選ぶ私にとって、この人は無欲にさえ見えるというのに…。
それに四つ揃ってるからこそ役目を果たすボタンだと思うのに…。

この辺りで暮らす人と私達との価値観の相違を如実に物語っている気がしちゃう。
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