亡国の王子に下賜された神子

枝豆

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穢れた国

奇跡

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主に言われた通りに神子にコールとなった因子持ちを見せた。
もっと狂うかと思ったが、予想に反して神子はそれをあっさりと受け止め、因子持ちを助けるからと他の者に会いたいとまで言い出した。

よほどの自信があるらしい。
因子持ち同士のふれあいは死と隣り合わせ。
いつ相手の禍が自身に戻ってくるかわからないというのに…。

…変な奴。それがロキの神子への印象だった。死を目の前に差し出されて大抵のものは帰してくれ、と泣き叫ぶ。
ここで生き抜くためには、その願いさえも命取りだ。
俺がその思いを捨てたのは…いつだっただろうか。

それなのに神子は「浄化をしたい」と願う、それは長くここで暮らすしかなかったロキにとって、ここを出ても帰る場所があるかどうかすら怪しいロキには理解出来ない。

その時、ふとした思いが湧きあがった。

見たい。
神子が浄化をするところを見てみたい、と思ってしまった。
何かしたいと願うのは久しぶりだ。

この坑道のこの自分の部屋だけは銀の板で周囲を覆い、扉は全て鉛で出来ている。唯一の安全地帯だ。
この部屋を得るために、何も犠牲にしたのかすらもう思い出せない。

「…そろそろか。」
神子に浄化をさせるためにひとり連れていかなくては。

どっちにしよう…。
比較的動ける者をたくさん浄化させるか、既に完成しつつある者を浄化させてみるか。
ロキは神子の器の大きさを知らなくてはならない。
しかし因子持ちにとって希望と絶望はいつだって隣り合わせだ。

…酷いのをひとり、だな。

気持ちが揺れれば質の悪いコールになってしまうかもしれない。大勢がパニックになるのは避けなければ。

「アリスを牢に連れて来い。」
部下に指示を出して、自身も牢に向かうことにした。



…なんだ?

牢に入ると随分と騒がしい。
見張りの者達が入れ替わり立ち替わり水を汲んでは走っていく。

…何事だ、火事か?
いや、火鉢は消した。ここに火の気は無かった筈だ。

騒ぎの中心はやはり神子のいた場所だった。
「鎮れ。」
大声でそう言うだけで、見張りの動きがピタリ止まる。

「整列!」

よく飼い慣らされた見張り達は壁に背を向けて直立不動になる。

「何事だ。」
「奇跡です。」

ロキの問いに簡素に答える見張り達。
その表情は驚きと喜びに満ち溢れていた。

「…奇跡?」

牢の中には信じられない光景が広がっていた。
牢の中は水浸しだ。繰り返し繰り返し牢に水を撒いたらしい。
水浸しになっているのは、神子と守護者。…ともうひとり。

虚な瞳ではあるが、しっかりと身体を起こし、その者を司祭が支えている。
その傍らには身体を喘がせている神子とそれを支えている守護者。

…なんだこれは。

目の前の光景が信じられなかった。
ここにいたのは既に出来上がった者だったはずだ。

…神子は完全にコールになった者をあそこまで浄化出来るというのか!?
まさか!
コールとなったはずの者は身体を起こせる程、つまりは腰より上は元に戻ったという事だ。

まさか!まさか!

慌てて駆け寄った。
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