亡国の王子に下賜された神子

枝豆

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穢れた国

ロキ

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サキカがキッパリ断言してした事には全く触れず、兵士達はしばらくじっとサキカを見つめていた。
無音の静寂が体感としてはとても長く感じた気もするが、実際はさほどの時間は経ってはいないだろう。

「勝手にすれば良い。」
と真ん中の男は一言だけ言うと、そのまま反転し元来た階段を引き返し始める。
真ん中の男がそう決めたのなら従うようだ、横の2人の若い兵士は一言も喋ろうとはしない。

気が変われても困るし、迷っている暇もない。
俺達は黙って兵士について行くしかない。
さっき震えていたサキカの手をしっかりと握りしめて、歩き始めた。

突然態度を変え、俺達を案内すると言い出した、兵士達のリーダー格らしい男は、ロキと名乗った。

「ハマ神は我々に絶望を与えた。ハマは何もしてはくれない。しかしフェイは別だ。」
ロキは心変わりの理由をそう告げた。

ロキの故郷では古来からセブール湖に眠るとされるフェイを信奉しているのだそうだ。
ハマの神子が与えた絶望から救ってくれるのはフェイだと信じているらしい。

「フェイに会ったのか?」
「ええ。とても可愛らしい男の子だったわ。」
サキカの答えにロキは満足したらしい。

「フェイは不遇の神だ。ペレを諌めたが為に、兄と姉に封印された。」

少し違うけど。
サキカがロキに聞こえないように呟く。

サキカから聞いた話によると、フェイの封印は神にとってはイタズラへのお仕置き程度のことらしい。そしてフェイを閉じ込めたのはラグーの興国の使徒だ。

…黙っておいてやろう。
神への信仰心を悪戯に揶揄ってもいい事なんかないのだから。

ロキはまだ10歳の時に因子検査をされて、ここに連れて来られた。
まだ幼く理論的ではなかった子供に、ここの「主」は洗脳のようにここでのロキの仕事を正当化して教え込んだらしい。
「主」の言うがままここで働き、年嵩が増すに連れて皆を働かせるようになった。

迷いが生まれたのは3年前。ロキが連れて来られた因子検査の次の因子検査でここに送り込まれた人達から聞かされた話はロキの今までの常識を覆した。
そしてダメ押しになったのが、最近ここに入れられた司祭の、
「ハマの神子が現れた。世界が変わる日が近い。」
と言う言葉だった。

「新しく来た人は俺を「物知らず」だと言う。でもここに20数年いるんだ。仕方ないとも言われた。」

…なにそれ。
サキカが呟く。
まだ子供だったロキに大人の悪意を見抜く力も抗う術もなかっただろう。

この坑道の中で人生の三分の一を過ごしたロキには知識が圧倒的に足りなかった。
ただきっと坑道の中のことは誰よりも詳しいに違いない。

「主は何と言ってロキにこの仕事をさせたんだ?」
…単純に興味深かったから聞いただけだった。

「聞いてどうする?」
「わからない。ただ俺達はここを終わりにする為に来た。」

「終わらせられるならとっくに終わっている。」

ロキの言葉が、今のロキを雄弁に語っているように、俺には思えた。
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