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穢れた国
公爵邸に
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2日間トロッコに乗り続けて、セブール湖にたどり着いた俺達はパジェットに連れられてミレペダ公爵邸に身を寄せた。
ミレペダ公爵はラグー王族の外戚となる一族で、セブール湖の湖畔から湖に突き出すように建てられた大きな屋敷を持っている。
「ミレペダ公爵ならきっと王族でも諌めることが出来ると思います。というか他には考えられません。それだけの権力を持っている方です。」
とパジェットは絶大な信頼を寄せていた。
僕達を迎え入れたミレペダ公爵は、俺の父よりも幾分か年上かと思われる、鍛え上げられた体躯を持つ壮年の男だった。
「神子賜りおめでとう、イェオリのブラン。
ラグーに来る事は噂では聞いていたが、ひとりか?神子はどうした?」
親しげに、でも戸惑った様子を隠さずに問い掛けてきたミレペダ公爵に、パジェット司祭はセドリックの行動と、コールが禍の結晶らしいことを聞かせた。
セドリック王子が神子を迎えに出たまま城へ戻らない事は既に聞き及んでいたらしく、国王陛下による捜索が始まったばかりだとミレペダ公爵は教えてくれた。
しかしコールが禍の結晶だったということには酷く驚いた様子を見せた。
「いえ公爵、事実のようです。」とパジェットは伝える。
それでもミレペダ公爵はまだ疑いの眼差しのままだった。
「…確かめようがない。」
「確かめる手立てはあります、旅に同行していたベネットというアカデミーの教授がサキカが結晶にした石を持っていますので、比べてみて下さい。
それから、私を神子の側に。
セブール湖でサキカが結晶をすれば、それが本当だと理解していただけるはずです。」
「…そうですか。このことを知っている者は?…わかりました、とりあえずここにいる者だけですね。
とりあえずセドリックの捜索を待ちましょう。
その間に旅の疲れを癒やしておいでなさい。
必ず神子を探して、そこにお連れいたしましょう。」
ミレペダ公爵はそのまま城へ出掛けてしまい、翌朝になっても帰って来なかった。
それからしばらくの間、俺達はミレペダ公爵には会えず、時折りパジェットが様子伺いにやってくる。
サキカは今どうしているのだろう。
教授は上手くサキカを導いていてくれるのだろうか…。
あのヨーシャーのベルのように、サキカがセドリックを侍らせているのだとすれば…。
いや、それは無い。
本能でそれは無いと感じていられる。
サキカは違う。
「もしセドリック王子がサキカ様の守護者や伴侶になれたとしたら、行方知れずのままでいられるとは思いません。
だからまだそうなってはいない。私はそう思いますよ。」
とファッジが慰めてくれている。
そうなのだろうか…。そうだったらいいな。
いや、違う。
そうなんだ。
強く気持ちを奮い立たせておかないと、すぐに不安の闇が胸を覆い尽くしてしまうから。
信じよう。
教授を、サキカを、自分自身を。
ミレペダ公爵はラグー王族の外戚となる一族で、セブール湖の湖畔から湖に突き出すように建てられた大きな屋敷を持っている。
「ミレペダ公爵ならきっと王族でも諌めることが出来ると思います。というか他には考えられません。それだけの権力を持っている方です。」
とパジェットは絶大な信頼を寄せていた。
僕達を迎え入れたミレペダ公爵は、俺の父よりも幾分か年上かと思われる、鍛え上げられた体躯を持つ壮年の男だった。
「神子賜りおめでとう、イェオリのブラン。
ラグーに来る事は噂では聞いていたが、ひとりか?神子はどうした?」
親しげに、でも戸惑った様子を隠さずに問い掛けてきたミレペダ公爵に、パジェット司祭はセドリックの行動と、コールが禍の結晶らしいことを聞かせた。
セドリック王子が神子を迎えに出たまま城へ戻らない事は既に聞き及んでいたらしく、国王陛下による捜索が始まったばかりだとミレペダ公爵は教えてくれた。
しかしコールが禍の結晶だったということには酷く驚いた様子を見せた。
「いえ公爵、事実のようです。」とパジェットは伝える。
それでもミレペダ公爵はまだ疑いの眼差しのままだった。
「…確かめようがない。」
「確かめる手立てはあります、旅に同行していたベネットというアカデミーの教授がサキカが結晶にした石を持っていますので、比べてみて下さい。
それから、私を神子の側に。
セブール湖でサキカが結晶をすれば、それが本当だと理解していただけるはずです。」
「…そうですか。このことを知っている者は?…わかりました、とりあえずここにいる者だけですね。
とりあえずセドリックの捜索を待ちましょう。
その間に旅の疲れを癒やしておいでなさい。
必ず神子を探して、そこにお連れいたしましょう。」
ミレペダ公爵はそのまま城へ出掛けてしまい、翌朝になっても帰って来なかった。
それからしばらくの間、俺達はミレペダ公爵には会えず、時折りパジェットが様子伺いにやってくる。
サキカは今どうしているのだろう。
教授は上手くサキカを導いていてくれるのだろうか…。
あのヨーシャーのベルのように、サキカがセドリックを侍らせているのだとすれば…。
いや、それは無い。
本能でそれは無いと感じていられる。
サキカは違う。
「もしセドリック王子がサキカ様の守護者や伴侶になれたとしたら、行方知れずのままでいられるとは思いません。
だからまだそうなってはいない。私はそう思いますよ。」
とファッジが慰めてくれている。
そうなのだろうか…。そうだったらいいな。
いや、違う。
そうなんだ。
強く気持ちを奮い立たせておかないと、すぐに不安の闇が胸を覆い尽くしてしまうから。
信じよう。
教授を、サキカを、自分自身を。
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