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穢れた国
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サキカとセドリック王子達がサッカランの教会出発に遅れる事2刻半、セドリック王達の私兵軍は俺達をあっさりと解放した。
「セドリック王子は既に船の上だ。
諦めて俺達について来い。」
という私兵軍の長の言葉を、パジェット司祭は断る。
「我々は坑道を進もうと思います。その方が時間のロスが無いので。」
「…勝手にしろ。俺たちは坑道には行かん。」
引き留める事も、追いかけてくる事もせず、私兵軍はそのまま立ち去っていくのを皆で見送った。
「…どういう事だ?」
そのまま連行されるとばかり思っていたのに、拍子抜けも良いところだ。
「坑道は、処分所に繋がってますので、好んで通るものは少ないのです。
それにどう足掻いても、守護者が神子の元へ参じると思っているのだと思います。
彼らは…神子の怒りに触れたくは無いのです。
同じくらいラグーの王族にも逆らえませんが。
彼らなりの苦渋の選択なのでしょう。」
パジェット司祭は兵士達の心情をそう結論づけた。
ひとりの神官の先導で、列になって暗い坑道を下へと降りていく。
先導している神官の手元には菜種油のカンテラが光っている。
「足元にお気をつけて。かなり見にくいですから。司祭様、やはりコークスランプの方が良かったのでは無いですか?」
冷静だけど、どこか咎めるような神官の声音に、パジェットは少し困ったように口元を歪めた。
「コークスランプの使用は禁じましたよ。
安全には変えられません。」
神官の言葉をパジェットもまた静かに、しかしハッキリと否定する。
「この閉じられた空間で、禍を燃やすなんて愚を許すはずがないでしょう?
便利なのはわかりますが、ハッキリするまでは控えます。もういい加減諦めなさい。」
「…申し訳ありません。」
一言だけ神官は謝罪の言葉を口に乗せると、後はひたすら黙って歩いていく。
「ここからは…トロッコに乗ります。
コークスの方が速いのですが…手漕ぎでも…。」
「待ってくれ!出来れば急ぎたい。」
「しかし…。」
パジェットがコールやコークスを燃やしたく無い気持ちはよくわかる。
わかるが…。
「サキカは…神子はまだ不完全だ。しかも禍に侵された物を見たら決して放ってはおかない性分でもある。…危ういのだ。ひとりで禍を吸収してしまっては…。」
沢山のゴタクを並べてみても、思いはひとつだ。
「…心配なのですね。少しでも離れてはいたくない、と。」
パジェット司祭はお見通しのようだ。
たくさんの人々の情動を見てきたからこそ、今の地位にいるのだから、それも当然。
はい、と素直に答えるしかない。
「…わかりました。そもそも愚を行ったのは我々です。仰るように先を急ぎましょう。」
着いた先には鉄を格子状に組んだ道の上に小さな箱が並んでいる。
その先頭に坑夫がひとり待っていた。
「予定変更です。セドリック王子に早く追いつかねばなりません。なるべく急ぎなさい。
…頼みますよ。」
坑夫に声を掛けて、パジェットはその箱に乗り込んだ。
「レオボルトはこちらへ。話をしながら行きたいので。他の方は後ろへ。間は開けずに。」
なるべく身軽な方が速く走れるとのことで、ファッジとリマ、神官がひとり乗り込むと、坑夫が残りの箱を繋いでいた鎖を外した。
「さあ、行きましょう。急いで。」
パジェットの掛け声で、先頭のひとつだけ形が違う箱に坑夫が乗り込んだ。
「捕まっていてくだせぇよ。」
ガクンっ、と一度大きく揺れると、トロッコが動き出した。
「セドリック王子は既に船の上だ。
諦めて俺達について来い。」
という私兵軍の長の言葉を、パジェット司祭は断る。
「我々は坑道を進もうと思います。その方が時間のロスが無いので。」
「…勝手にしろ。俺たちは坑道には行かん。」
引き留める事も、追いかけてくる事もせず、私兵軍はそのまま立ち去っていくのを皆で見送った。
「…どういう事だ?」
そのまま連行されるとばかり思っていたのに、拍子抜けも良いところだ。
「坑道は、処分所に繋がってますので、好んで通るものは少ないのです。
それにどう足掻いても、守護者が神子の元へ参じると思っているのだと思います。
彼らは…神子の怒りに触れたくは無いのです。
同じくらいラグーの王族にも逆らえませんが。
彼らなりの苦渋の選択なのでしょう。」
パジェット司祭は兵士達の心情をそう結論づけた。
ひとりの神官の先導で、列になって暗い坑道を下へと降りていく。
先導している神官の手元には菜種油のカンテラが光っている。
「足元にお気をつけて。かなり見にくいですから。司祭様、やはりコークスランプの方が良かったのでは無いですか?」
冷静だけど、どこか咎めるような神官の声音に、パジェットは少し困ったように口元を歪めた。
「コークスランプの使用は禁じましたよ。
安全には変えられません。」
神官の言葉をパジェットもまた静かに、しかしハッキリと否定する。
「この閉じられた空間で、禍を燃やすなんて愚を許すはずがないでしょう?
便利なのはわかりますが、ハッキリするまでは控えます。もういい加減諦めなさい。」
「…申し訳ありません。」
一言だけ神官は謝罪の言葉を口に乗せると、後はひたすら黙って歩いていく。
「ここからは…トロッコに乗ります。
コークスの方が速いのですが…手漕ぎでも…。」
「待ってくれ!出来れば急ぎたい。」
「しかし…。」
パジェットがコールやコークスを燃やしたく無い気持ちはよくわかる。
わかるが…。
「サキカは…神子はまだ不完全だ。しかも禍に侵された物を見たら決して放ってはおかない性分でもある。…危ういのだ。ひとりで禍を吸収してしまっては…。」
沢山のゴタクを並べてみても、思いはひとつだ。
「…心配なのですね。少しでも離れてはいたくない、と。」
パジェット司祭はお見通しのようだ。
たくさんの人々の情動を見てきたからこそ、今の地位にいるのだから、それも当然。
はい、と素直に答えるしかない。
「…わかりました。そもそも愚を行ったのは我々です。仰るように先を急ぎましょう。」
着いた先には鉄を格子状に組んだ道の上に小さな箱が並んでいる。
その先頭に坑夫がひとり待っていた。
「予定変更です。セドリック王子に早く追いつかねばなりません。なるべく急ぎなさい。
…頼みますよ。」
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「レオボルトはこちらへ。話をしながら行きたいので。他の方は後ろへ。間は開けずに。」
なるべく身軽な方が速く走れるとのことで、ファッジとリマ、神官がひとり乗り込むと、坑夫が残りの箱を繋いでいた鎖を外した。
「さあ、行きましょう。急いで。」
パジェットの掛け声で、先頭のひとつだけ形が違う箱に坑夫が乗り込んだ。
「捕まっていてくだせぇよ。」
ガクンっ、と一度大きく揺れると、トロッコが動き出した。
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