亡国の王子に下賜された神子

枝豆

文字の大きさ
上 下
97 / 152
穢れた国

追う

しおりを挟む
サキカとセドリック王子達がサッカランの教会出発に遅れる事2刻半、セドリック王達の私兵軍は俺達をあっさりと解放した。

「セドリック王子は既に船の上だ。
諦めて俺達について来い。」
という私兵軍の長の言葉を、パジェット司祭は断る。

「我々は坑道を進もうと思います。その方が時間のロスが無いので。」
「…勝手にしろ。俺たちは坑道には行かん。」

引き留める事も、追いかけてくる事もせず、私兵軍はそのまま立ち去っていくのを皆で見送った。

「…どういう事だ?」
そのまま連行されるとばかり思っていたのに、拍子抜けも良いところだ。

「坑道は、処分所に繋がってますので、好んで通るものは少ないのです。
それにどう足掻いても、守護者が神子の元へ参じると思っているのだと思います。
彼らは…神子の怒りに触れたくは無いのです。
同じくらいラグーの王族にも逆らえませんが。
彼らなりの苦渋の選択なのでしょう。」
パジェット司祭は兵士達の心情をそう結論づけた。

ひとりの神官の先導で、列になって暗い坑道を下へと降りていく。
先導している神官の手元には菜種油のカンテラが光っている。

「足元にお気をつけて。かなり見にくいですから。司祭様、やはりコークスランプの方が良かったのでは無いですか?」
冷静だけど、どこか咎めるような神官の声音に、パジェットは少し困ったように口元を歪めた。

「コークスランプの使用は禁じましたよ。
安全には変えられません。」
神官の言葉をパジェットもまた静かに、しかしハッキリと否定する。
「この閉じられた空間で、禍を燃やすなんて愚を許すはずがないでしょう?
便利なのはわかりますが、ハッキリするまでは控えます。もういい加減諦めなさい。」
「…申し訳ありません。」
一言だけ神官は謝罪の言葉を口に乗せると、後はひたすら黙って歩いていく。

「ここからは…トロッコに乗ります。
コークスの方が速いのですが…手漕ぎでも…。」
「待ってくれ!出来れば急ぎたい。」
「しかし…。」

パジェットがコールやコークスを燃やしたく無い気持ちはよくわかる。
わかるが…。

「サキカは…神子はまだ不完全だ。しかも禍に侵された物を見たら決して放ってはおかない性分でもある。…危ういのだ。ひとりで禍を吸収してしまっては…。」
沢山のゴタクを並べてみても、思いはひとつだ。

「…心配なのですね。少しでも離れてはいたくない、と。」
パジェット司祭はお見通しのようだ。
たくさんの人々の情動を見てきたからこそ、今の地位にいるのだから、それも当然。
はい、と素直に答えるしかない。

「…わかりました。そもそも愚を行ったのは我々です。仰るように先を急ぎましょう。」

着いた先には鉄を格子状に組んだ道の上に小さな箱が並んでいる。
その先頭に坑夫がひとり待っていた。

「予定変更です。セドリック王子に早く追いつかねばなりません。なるべく急ぎなさい。
…頼みますよ。」

坑夫に声を掛けて、パジェットはその箱に乗り込んだ。
「レオボルトはこちらへ。話をしながら行きたいので。他の方は後ろへ。間は開けずに。」

なるべく身軽な方が速く走れるとのことで、ファッジとリマ、神官がひとり乗り込むと、坑夫が残りの箱を繋いでいた鎖を外した。

「さあ、行きましょう。急いで。」
パジェットの掛け声で、先頭のひとつだけ形が違う箱に坑夫が乗り込んだ。

「捕まっていてくだせぇよ。」

ガクンっ、と一度大きく揺れると、トロッコが動き出した。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

わたくし、今から義妹の婚約者を奪いにいきますの。

みこと。
恋愛
義妹レジーナの策略によって顔に大火傷を負い、王太子との婚約が成らなかったクリスティナの元に、一匹の黒ヘビが訪れる。 「オレと契約したら、アンタの姿を元に戻してやる。その代わり、アンタの魂はオレのものだ」 クリスティナはヘビの言葉に頷いた。 いま、王太子の婚約相手は義妹のレジーナ。しかしクリスティナには、どうしても王太子妃になりたい理由があった。 ヘビとの契約で肌が治ったクリスティナは、義妹の婚約相手を誘惑するため、完璧に装いを整えて夜会に乗り込む。 「わたくし、今から義妹の婚約者を奪いにいきますわ!!」 クリスティナの思惑は成功するのか。凡愚と噂の王太子は、一体誰に味方するのか。レジーナの罪は裁かれるのか。 そしてクリスティナの魂は、どうなるの? 全7話完結、ちょっぴりダークなファンタジーをお楽しみください。 ※同タイトルを他サイトにも掲載しています。

冴えない私の周りは主役級ばかり~雫の恋愛行進曲〜

B B B
恋愛
 主人公である少し馬鹿でマヌケな女子高生、宮橋 雫(みやはし しずく)の周りには才能溢れた主役級の同級生たちが存在する。  彼らはロックバンドを結成し、投稿動画を利用して中学時代には既に世界的な評価を集めいていた。  雫の幼馴染であるボーカルの月島 蓮(つきしま れん)はその中でも最たる才能の持ち主であり、物心ついた頃からの片思い相手でもあった。  個性豊かなバンドメンバーと、恋敵の幼馴染に振り回される高校生活。  スターダムを駆け上っていく彼らとの、友情と恋愛、それぞれの葛藤を描いたコミカル重視の学園ラブコメディー。    

信州観劇日記

ことい
エッセイ・ノンフィクション
長野県内の演劇やイベントの鑑賞記録です。以前より別のプラットフォームで書いていた文章をこちらに残していきます。

自由&復讐

(TAT)
ファンタジー
どんでん返し

あなたの妻はもう辞めます

hana
恋愛
感情希薄な公爵令嬢レイは、同じ公爵家であるアーサーと結婚をした。しかしアーサーは男爵令嬢ロザーナを家に連れ込み、堂々と不倫をする。

歪な現実の怖い話

長月天
ホラー
幽霊や心霊現象は一切出てきません。 三分程度で読める作品です。暇つぶしにどうぞ。 「何故ここにこんなものが置いてあるのだろう」「何故あの人はそんな言い方をしたのだろう」 始まりはそんな小さな違和感から。 その違和感を突き詰めていくと、やがて恐ろしい歪な形をした現実と結びついていくことがあります。

悪の皇帝候補に転生したぼくは、ワルワルおにいちゃまとスイーツに囲まれたい!

野良猫のらん
BL
極道の跡継ぎだった男は、金髪碧眼の第二王子リュカに転生した。御年四歳の幼児だ。幼児に転生したならばすることなんて一つしかない、それは好きなだけスイーツを食べること! しかし、転生先はスイーツのない世界だった。そこでリュカは兄のシルヴェストルやイケオジなオベロン先生、商人のカミーユやクーデレ騎士のアランをたぶらかして……もとい可愛くお願いして、あの手この手でスイーツを作ってもらうことにした! スイーツ大好きショタの甘々な総愛されライフ!

フランチェスカ王女の婿取り

わらびもち
恋愛
王女フランチェスカは近い将来、臣籍降下し女公爵となることが決まっている。 その婿として選ばれたのがヨーク公爵家子息のセレスタン。だがこの男、よりにもよってフランチェスカの侍女と不貞を働き、結婚後もその関係を続けようとする屑だった。 あることがきっかけでセレスタンの悍ましい計画を知ったフランチェスカは、不出来な婚約者と自分を裏切った侍女に鉄槌を下すべく動き出す……。

処理中です...