亡国の王子に下賜された神子

枝豆

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穢れた国

禍に倒れる

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一足先に上に上がったベネットはゴンドラの中から素早く周囲の様子を確認した。

おそらくサキカは混濁した状態で上に上がってくる。
それをコントロールして、結晶キュイエ放出バラッシュさせなければならない。

…きっとあのセドリックには、サキカが敵認定してしまっているセドリックには、サキカを癒す事は出来ない。
させなければいけないのに、出来ないだろうという矛盾がベネットを不安にさせている。

ラグマイトの白く床と壁に囲まれて、大きくくり抜かれた窓からの景色に言葉を失う。
はるか遠くにキラキラ輝く湖が見えたからだ。

…遠い。思ったよりも遠い…。

ガタンと大きく揺れてゴンドラは止まり、閉められていた柵の扉が開く。
勢いよくゴンドラから抜け出したベネットの身体が何かに引っ張られて戻された。

「おい、どこへも逃げられはしないぞ。」
存在を忘れていた腰につけられたロープを持った兵士が、走りだそうとしたベネットを引き戻したのだった。

そんな事は今はどうでもいい。

「急いで湖に行かねば。舟はどこです!?」
人力ではなく、あの蒸気機関とやらの船ならば、直ぐにセブール湖に行けるかもしれない、あわよくばレオと早く合流が果たされるかもしれない。

兵士に尋ねると、返ってきた答えは非情にも
「セブール湖畔に行くのは陸路だ。半日掛かる。」だった。

…そんな!

「ダメです。直ぐにでも。湖じゃなくてもいい、せめて水を、ネサンス川でも構わない。」

とりあえず水にサキカを浸ければ、あのツインズの温泉のように禍を洗い流してくれるかもしれない!

そう、思うのに、それが伝わらない。
もどかしい!!全くもってもどかしい!!

「何を訳わからない事を言っている。
捕われているということを忘れるな。」
緩んでいたロープは兵士に巻き取られ、ベネットの身体は兵士にしっかりと拘束された。
腕が後ろ手に縛られる。

…忘れているのはそっちだ!
神子と守護者を引き離した報いをうけるのはいつだって愚か者達だ!
そして自分もその一人。
禍はセブール湖にあると思っていた、愚かな者達…。

ベネットは久しぶりに怒りの感情が昂るのを感じた。
「そんな事は今はどうでもいい!サキカが神子が禍を吸ってる。このまま放っておいたらダメだ!
早く!一刻も早く!!」

「禍?何を言っている。穢れているのは湖だ。そんな戯言を並べて、逃げようとしてもムダだ。」
「違う!!」

ベネットが真剣になればなるほど、熱く問いかければ問いかけるほど兵士の気持ちは冷めていく。

言い争いをしていると、次のゴンドラが上に上がってきた。

「サキカ!!」

グッタリと力が抜けたサキカが見えた。セドリック王子の胸にもたれて、セドリック王子がサキカの背中に手を回して、自身に寄りかからせている。
狭いゴンドラの中で抱え上げるのは危険と判断したのだろう。

どうしたのか尋ねる兵士にセドリック王子達は、わからない、いきなり倒れた、と慌てふためいている。

「急げ、早く水浴びを!!」
どうやらサキカは全く事情を説明しなかったらしい。

私の声を聞いたセドリック王子が、睨みながら尋ねる。
「どういうことだ?お前は何を知っている?」

「ずっと旅を共にしてきたんです。禍ですよ、禍。サキカは禍を吸収キュイエした。
レオが守護者が共にいなければ、サキカは結晶キュイエ出来ない!」

「…俺がいる。」
「あなたじゃ無理だ!だったらサキカはこんなにはなってない!」
「出来る!」

ああ、もう!
押し問答している時間が惜しい。

「とにかく禊をさせましょう。レオが来るまで時間を稼がないと!」

身を捩って兵士を振り切り、サキカに向かって走り出した。今度は止められなかった。
セドリック王子からサキカを引ったくるように抱え上げて、
「川はどこだ!」
と叫んだ。








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