亡国の王子に下賜された神子

枝豆

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穢れた国

昇降機

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細い細い道を一列になって歩いた。
緩やかな上り坂に息が上がり始めた。

私は逃さないかのように、前を歩くセドリック王子と手を繋ぎ、私の後ろには兵士が少し間を開けて付いて来ている。
教授は更にその後ろにいる。

…逃げるのはもう諦めている。
教授がそう言ったんだもん。
「湖を見てから」逃げる事を考えると決めたから。

「あそこだ。」
セドリック王子が指差したのは、サッカランの教会のような山肌にピッタリ張り付くように建てられた白い建物。

そのすぐ脇に滝が流れている。
滝と聞いて想像していたのは日光の華厳の滝みたいな細くて縦に長い滝。

「…凄い。」
目の前にある滝は幅は100メートル以上はありそうで、高さはもっとある。

えっ、ちょっと待って!
一度に落ちてくる水の量はきっと半端ないに違いない。
それだけの水が落ちてくる、その上にある湖の大きさってどんだけ?

斜面に建てられたすり鉢状の教会とは違い、細長いビルがポツンと一棟、木々に隠れるように崖に張り付いていた。

(…禍だ。)
ビルの周りを薄らと灰色の霧が覆っている。
さっきまでは綺麗に澄んだ空気で、水も木々も輝いて見えていたのに、急に灰色の霧が現れた事に驚いた。

「あれに…乗るの?」
ビルの屋上にあたる部分から真っ直ぐ鉄の棒が2本伸びている。
エレベーターと聞いて、箱形のものを想像していたけれど、違った。

ビルメンテナンス、高層階の窓拭きをする人が乗るようなゴンドラが見えた。
腰くらいまでの柵しかない、剥き出しのゴンドラに、乗れ!?って!!
しかも灰色の霧の中に埋もれているから、先が見えない。

「怖いか?」
「…怖い…かも。」

こんな体験をした事はない。
遊園地のジェットコースターよりも怖そうだ。

あはは、とセドリック王子が笑い飛ばす。
「大丈夫、時間はそんなに掛からない。」

ひぇー!
あの距離をどれくらいのスピードで登っていくんだ!?
速いのも怖い。だけどゆっくり時間を掛けて上がるのも…怖そう。
しかも禍の霧の中をだ。

「…無理。」
「乗ってもらわないとならない。」

ボンッと肩に手が置かれた。
「サキカ、どうしました?」
「昇降機、乗りたくない…の。」
「なぜ?らしくない。」

教授は私がこの世界に来たきっかけが10メートルの高さからプールに飛び込んだ事を知ってるから、らしくないと言う。

…気付かれるかな?と迷ったけれど、伝えるしか無い。

「…見えるから。」

目を見開いた教授の顔色から伝わったことが分かる。
何が?とは聞かれなかった。
そもそも禍に塗れているからと連れて来られているんだから、それもそうか。

「えっ!?そ、そんな。」
教授が慌てはじめた。
「穢れているのは湖ではないのですか?」
とセドリックに尋ねる。
「そうだ、セブール湖が汚れている。」

…セブール湖だけじゃない。
もうあの崖の途中から穢れている。

「サキカ…、すみません。
私の読みが甘かったようです。
確かめるしか無いのだと割り切れますか?」
「…確かめる?」

うん、と教授が頷く。
「…ひとりで?」
うん、と教授が頷く。

「でも…もし…。」
でももし本当にレオしか私を癒せないのだとすれば、あの熱が私の身体を巡り続ける。

「…私はサキカなら出来ると思います。放出バラッシュなら。」

それって。

「右にあるものを左に動かす、その程度の事ですよ。今のサキカでこの場所でなら。」

…ああ、そうか。
他の場所から持って来たんじゃ無い。
セブール湖にあるものを受け取ってセブール湖に返すだけ、そう割り切ればいい。

教授はそう言いたいんだ。

「…わかりました。やってみます。」

うん、と教授が頷く。

「私はずっと側にいます。」
「…はい。よろしくお願いします。」

「直ぐに行きましょう。」
またわたしが尻込みしないように、そんな事をさせないと、教授がセドリック王子に告げた。


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