亡国の王子に下賜された神子

枝豆

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双子の街

南の街

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「どうやら振り分けられてしまったようですね。失敗した、サキカと馬車を分けるべきではなかった。」

追従してくるはずのサキカとリマの乗った馬車がついて来ない事に教授が気付いた時にはもう手遅れだった。
レオと教授を乗せた場所は南の街へと入ってしまっていた。

「間違えたのか?あれほど南と言ったのに。」
窓を開けて後ろを見るが、サキカを乗せた紺の馬車はどこにも無かった。

列に並んで門番に、
「南へ。」
と告げた時、少し間があったのが気にはなった。
しかし門番は何も言わずに南へ行く道へ馬車を通した。

「信じられない。あり得ない。」
既に身バレしていると思われる紺の馬車、その行き先を変えた!?
誰が?何のために!?

「仕方ありません。先を急ぎましょう。」
教授が気持ちを切り替えたようだ。
同感だ。
ブランの家族には申し訳ないが、挨拶だけして街を抜けるしかない。
その辺り、ファッジが上手く采配してくれる事をただ願うしかない。

門番から聞いた南のブランもまた不動産を営んでいると言う。
笑いたくなるほど、「双子」の街だった。

「この通りでしょうか。」
南の街の通りを馬車で進む。
東西に伸びた大きな街道がどうやらメイン通りと思われた。
左側、南へと伸びる道はあるものの、北側に伸びる道はなく、建物がぎっしりと並んでいる。

「道を潰すことで行き来出来なくなったのでしょうね。」
「ここまでして街を分断したのか。」

正直レオには理解に苦しむ。
この街をこのような形にしたのは、領主のエゴでしかない。
街の造りだけではなく、人の行動さえもあやつろうとしている。

何よりも、どのような理由があろうとも神子と神子の守護者を引き離したのだ。

「…こんな事がいつまでも許される訳がない。そんなこともわからないなんて。」

この街の在り方に全く大義が見出せない。振り回される住人や旅人が気の毒でしかない。

…サキカは大丈夫だろうか…。
リマやファッジがいるとはいえ、心細い思いをしてはいないだろうか。

…違うな。僕の方がきっとだめだ。心配で堪らない。
サキカは結構度胸は座ってはいるだろう。この世界を受け入れるのもすぐだった。

サキカがこの世界に来てからずっと一緒にいて、一緒にいる事でどこか安心していたのは自分の方だ。
早く合流しないと。

街道を進むレオ達の目に、不動産屋の看板が見えてきた。
「あそこのようですね。」

見つけた建物は大きく、1階が仕事場、2階から上が居室のようだ。

レオとベネット教授はノックをしてみたが、反応は無い。

…留守か。出直すかな。

諦め掛けた時、ドアが開かれた。
柔和な笑みを浮かべた老人が立っている。

「すみません、来客中でしたので。
さあどうぞ中へ。」



案内してくれた老人が、ジョージア・ブランその人だった。
「すみません、お待たせして。
いつもは息子がいるのですが、あいにくと今、仕事でラグーへと行っているもので。」

レオが自己紹介をして、北の街のブランの家に同行者がいる事を伝えて、長居出来ない事を詫びた。
「そのような無粋な事は言わずに、是非この街を堪能していただきたいものです。
それに先触れにきたファッジとは、先程お会いしました。なかなか良き青年でしたな。」
という。

…あれ?
教授と顔を見合わせた。
ファッジが向かったのは北側の街の筈だ。

「…ファッジに会った、と?」
「ええ、会いました。」
「…どうやって?」

北と南の街は分断されていて、人の行き来は出来ないはずなのに?

「庭をご覧になりませんか?我が街を知っていただくためにも。」
ジョージアはどこかイタズラを仕掛けているように微笑んだ。

「…見せて頂こう。」
何があるのかはわからないが、中庭を見る事が、この街を知る事なのならば、見るしか無い。
しかし、一体どういう事なのだろうか。

ジョージアに案内されるまま家の中を奥へ奥へと進んでいく。
間口に対して随分と奥行きがある家の作りのようだ。

行き止まりの壁に扉がある。
そこを開くと外の光が一気に部屋の中を明るくする。

…なんだこれは?
庭の向こうにもうひとつ建物がある。
ここは中庭だった。
しかも両隣の家にも中庭があり、その中庭は延々とどこまでも続いている。

「おわかりいただけましたか?偉大なる孫よ。」

ああ、よくわかった。
どちらのブランの家に行っても良い、という意味が。

「抜け道、ですね。」
「はい、そうです。この街は建物を通れば、いつでも誰でも南北の街を行き来することが出来ます。」

ジョージアの顔は得意げなものに変わっていた。
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