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双子の街
ブランの祖父 ファッジ
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サイラス司祭がつけてくれた教会に住む者は、モースという見習い神官だった。
モースがいうには、最初教会は街の決定に異議を申立てた。
禍を招きかねない状況に陥ることを良しとはしなかったそうだ。
「そしたらですね、教会も分断すると、街の人々が教会に赴く事を禁止するとまで言い出しましてね。分けられないものは要らないとでも言いたいんですかね。しかも街の反対側にもうひとつ教会を建てちまったんですよ。」
何も知らずに街に入った人が次々と逮捕される現状では、教会が何もしない訳にもいかないのだと、モースは嘆いた。
元からいた司祭は現実を受け入れられず街を離れた。
何も知らないで派遣されたサイラス様と反対側の教会にいる司祭様はいいとばっちりを受けているのだ。
「北のブランさんは建築業と不動産業をしている街の名士のひとりです。とても立派な方だそうですよ。」
…立派が聞いて呆れる。
口にこそ出せないがファッジはそう思ってしまう。
ある程度街に影響力がありそうなのに、ただ漫然と現状を放置している。
ブランらしくない所業のようにファッジはどうしても思ってしまう。
歩いて街へ入る人の列に並んだファッジは門番に、
「希望はあるか?」
と聞かれて、
「北」
と答え、北へと向かう道へ進んだ。
綺麗な新しい街並みのようだ。ファッジが歩いた道は広い馬車道の脇に石で歩道が作られている、この街のメインとなる道だった。
異様なのは南側には建物がびっしりと隙間なく並んでいること。
…南に行く道を全て建物で塞いでしまったのか…。
ここまで徹底して南北を分ける意味が、ただ領主の双子の息子が満足するためだけ、というのがなんとも言えない苦い思いを引き出してくる。
…急ごう、この街にいてもどうすることもできない自分に苛々するだけ…。
もし自身の旅の途中でこの街を訪れていたら何か意義を見いだせたのかもしれないが、今は違う。レオとサキカ様のための旅なのだから。
案内されたブランの家は、どうやら仕事場を兼ねているようだ。
立派な大きな建物の1階に事務所、2階から上が居室のようだ。
ファッジを出迎えたブランは祖父と呼ぶにふさわしい年齢だった。
「ようこそ、孫よ。」
軽く抱擁を交わして、ソファーへと導かれる。
この街に住むブランはジョージアと名乗った。
「随分と長く旅を続けているようだな。まだ在るべき場所は見つからないのか?」
18歳から旅を始めるブラン、ファッジはもう見た目にも新成人には見えなかったのだろう。
「いや、私は既に見つけております。
イェオリ国のブランを頼り、男爵の元でお手伝いをさせております。」
「ほう、イェオリの、ブラン男爵。なるほど。」
ジョージアはにこやかに微笑む。
「お噂は聞いております。またブランの網でも知らされておりますよ。
とうとうブランにもハマの慈悲が掛けられたと嬉しかったのです。
なるほど、わかりました。ちと困った事に陥ったと思われておりますな。」
良かった、察してくれた、ファッジはそう思った。
「何か策はないかと。」
困り顔を隠しもせずにそう伝えたのだけれど、ジョージアは顔色ひとつ変えず、
「策など無用ですよ、ファッジ。どちらの街でも好きなようにお進みなさい。」
とあっさりと答えた。
「本当にそれでも構わないのでしょうか。神子と神子の守護者が通った街という栄誉を使わないという事ですか?」
「いいえ、おそらく思う存分に触れ回るでしょう。しかし構わないのです。どちらの街を訪れても、それは自由なのです。
どうぞそのようにレオとやらにお伝えなさい。」
ジョージアは手紙を一筆書いてモースに持たせて教会へと帰してしまった。
「さて、ファッジ。我が家自慢の庭へとご案内致しましょう。」
にこやかにジョージアは立ち上がった。
モースがいうには、最初教会は街の決定に異議を申立てた。
禍を招きかねない状況に陥ることを良しとはしなかったそうだ。
「そしたらですね、教会も分断すると、街の人々が教会に赴く事を禁止するとまで言い出しましてね。分けられないものは要らないとでも言いたいんですかね。しかも街の反対側にもうひとつ教会を建てちまったんですよ。」
何も知らずに街に入った人が次々と逮捕される現状では、教会が何もしない訳にもいかないのだと、モースは嘆いた。
元からいた司祭は現実を受け入れられず街を離れた。
何も知らないで派遣されたサイラス様と反対側の教会にいる司祭様はいいとばっちりを受けているのだ。
「北のブランさんは建築業と不動産業をしている街の名士のひとりです。とても立派な方だそうですよ。」
…立派が聞いて呆れる。
口にこそ出せないがファッジはそう思ってしまう。
ある程度街に影響力がありそうなのに、ただ漫然と現状を放置している。
ブランらしくない所業のようにファッジはどうしても思ってしまう。
歩いて街へ入る人の列に並んだファッジは門番に、
「希望はあるか?」
と聞かれて、
「北」
と答え、北へと向かう道へ進んだ。
綺麗な新しい街並みのようだ。ファッジが歩いた道は広い馬車道の脇に石で歩道が作られている、この街のメインとなる道だった。
異様なのは南側には建物がびっしりと隙間なく並んでいること。
…南に行く道を全て建物で塞いでしまったのか…。
ここまで徹底して南北を分ける意味が、ただ領主の双子の息子が満足するためだけ、というのがなんとも言えない苦い思いを引き出してくる。
…急ごう、この街にいてもどうすることもできない自分に苛々するだけ…。
もし自身の旅の途中でこの街を訪れていたら何か意義を見いだせたのかもしれないが、今は違う。レオとサキカ様のための旅なのだから。
案内されたブランの家は、どうやら仕事場を兼ねているようだ。
立派な大きな建物の1階に事務所、2階から上が居室のようだ。
ファッジを出迎えたブランは祖父と呼ぶにふさわしい年齢だった。
「ようこそ、孫よ。」
軽く抱擁を交わして、ソファーへと導かれる。
この街に住むブランはジョージアと名乗った。
「随分と長く旅を続けているようだな。まだ在るべき場所は見つからないのか?」
18歳から旅を始めるブラン、ファッジはもう見た目にも新成人には見えなかったのだろう。
「いや、私は既に見つけております。
イェオリ国のブランを頼り、男爵の元でお手伝いをさせております。」
「ほう、イェオリの、ブラン男爵。なるほど。」
ジョージアはにこやかに微笑む。
「お噂は聞いております。またブランの網でも知らされておりますよ。
とうとうブランにもハマの慈悲が掛けられたと嬉しかったのです。
なるほど、わかりました。ちと困った事に陥ったと思われておりますな。」
良かった、察してくれた、ファッジはそう思った。
「何か策はないかと。」
困り顔を隠しもせずにそう伝えたのだけれど、ジョージアは顔色ひとつ変えず、
「策など無用ですよ、ファッジ。どちらの街でも好きなようにお進みなさい。」
とあっさりと答えた。
「本当にそれでも構わないのでしょうか。神子と神子の守護者が通った街という栄誉を使わないという事ですか?」
「いいえ、おそらく思う存分に触れ回るでしょう。しかし構わないのです。どちらの街を訪れても、それは自由なのです。
どうぞそのようにレオとやらにお伝えなさい。」
ジョージアは手紙を一筆書いてモースに持たせて教会へと帰してしまった。
「さて、ファッジ。我が家自慢の庭へとご案内致しましょう。」
にこやかにジョージアは立ち上がった。
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