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ハマの儀式
目覚め レオ
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神子が目覚めた。
恥ずかしながらそのとき俺はうたた寝をしていた。
だって…。この館は何も出来ることがない。
一昼夜と聞いていたから、そろそろだとは思っていたけれど。
張り詰めていた緊張が切れた頃、不覚にも眠ってしまったらしい。
ガサゴソと衣擦れの音が聞こえて、パッと目が覚めた。
神子!
慌てて神子の寝ていた甚大へと目を向けると、黒く輝かしい瞳に吸い込まれそうになった。
「…お目覚めですか?どこか辛いところは?」
言葉は…通じるだろうか。
この世界は言語はひとつ、神が与えた言葉だけだけれど、神子がいた世界は神によって無数の言語を与えられたと聞いた。
「あ、ダイジョウブ、デス。」
カタコトのようだけど、意味が通じるとわかってホッとする。
「…熱は…無さそうですね。」
と額に手のひらを重ねた。
なるべく温もりを与えよ、というのは大神官長からのアドバイス。
神子はこの世界に馴染むまで、禍を吸ったり吐いたりするたびに体の熱量が変わるそうだ。
熱はなさそうだけれど、頬が赤らむ。発熱の予兆か?心配になる。
「ミコ様、何か飲めそうですか?」
丸一日何も口にされていないから、まずは何か口にしてもらおうと思ったのに、返された言葉が驚きを運んだ。
「あの…私ミコじゃないです。」
「えっ?」
まさか、そんな事があるはずがない!
「ああ違いませんよ。」
「いえ、違う…と。私は水瀬咲香と言います。」
神子ではなく名前で呼べという事か。
「ああ。そういうことか。俺はレオ、レオ・ブランです、ミコ様。」
「レオ…さん。」
あっ!しまった。神子と呼んでしまった。
サキィカ?サキカ?
名前の発音は少し口に出しにくい、聞きなれない音だ。
「あの、レオさん。私そろそろ帰りたいのですが…。」
…ああ、やはり。
そう言われると思っていた。
帰れない、そう告げるのもまた守護者としての役目だ。
辛い辛い役回りだ。
「ミコ様、いやサキカ様。サキカ様は異世界転移をされました。元の世界に帰ることは出来ません。」
神子は少し驚いて、戸惑って、薄い怒りを滲ませた。
「帰ります!」
とベッドから出た。
まだ無理だろう、フラフラして足に力が入ってはいない。
慌てて神子が転ばないように手を伸ばした。
「あ、すみません。ありがとうございます。」
「光栄です。」
ああ、神子にありがとうと言われた。
錯綜すると聞いていたからどうなることかと思案していたけれど、思ったよりは酷くは無さそう。
そう思ったのに、
「では、失礼します。ご迷惑お掛けしました。」
支えていた俺の手を振り解いて、ふらつきながらも歩いて行く。
そうっと扉を開けた神子は、迷うそぶりもなく廊下を抜けて行く。
マズイ!
この館は浮島にある。
そのまま何も考えずに湖に落ちでもしたら…。
慌てて神子を追いかけた。
神子は扉を開けたところで呆然と立ちすくんでいた。
「ここ、どこ?」
声が震えている。恐れ?怒り?よくわからない。
黙っていても仕方ない。それが守護者の務めと腹を括るしかない。
「だから言ったよ。帰れないって。」
立ちすくむ神子の背に向けて、なるべく深刻に感じさせないように努めて明るい声色で、だけど残酷な言葉を吐き出した。
「サキカ様は異世界転移をされて、この世界にやってきたハマ神の神子様で、もう元の世界には戻れない。」
その瞬間、
「イヤーーーーー!」
神子の叫び声が山間にこだました。
恥ずかしながらそのとき俺はうたた寝をしていた。
だって…。この館は何も出来ることがない。
一昼夜と聞いていたから、そろそろだとは思っていたけれど。
張り詰めていた緊張が切れた頃、不覚にも眠ってしまったらしい。
ガサゴソと衣擦れの音が聞こえて、パッと目が覚めた。
神子!
慌てて神子の寝ていた甚大へと目を向けると、黒く輝かしい瞳に吸い込まれそうになった。
「…お目覚めですか?どこか辛いところは?」
言葉は…通じるだろうか。
この世界は言語はひとつ、神が与えた言葉だけだけれど、神子がいた世界は神によって無数の言語を与えられたと聞いた。
「あ、ダイジョウブ、デス。」
カタコトのようだけど、意味が通じるとわかってホッとする。
「…熱は…無さそうですね。」
と額に手のひらを重ねた。
なるべく温もりを与えよ、というのは大神官長からのアドバイス。
神子はこの世界に馴染むまで、禍を吸ったり吐いたりするたびに体の熱量が変わるそうだ。
熱はなさそうだけれど、頬が赤らむ。発熱の予兆か?心配になる。
「ミコ様、何か飲めそうですか?」
丸一日何も口にされていないから、まずは何か口にしてもらおうと思ったのに、返された言葉が驚きを運んだ。
「あの…私ミコじゃないです。」
「えっ?」
まさか、そんな事があるはずがない!
「ああ違いませんよ。」
「いえ、違う…と。私は水瀬咲香と言います。」
神子ではなく名前で呼べという事か。
「ああ。そういうことか。俺はレオ、レオ・ブランです、ミコ様。」
「レオ…さん。」
あっ!しまった。神子と呼んでしまった。
サキィカ?サキカ?
名前の発音は少し口に出しにくい、聞きなれない音だ。
「あの、レオさん。私そろそろ帰りたいのですが…。」
…ああ、やはり。
そう言われると思っていた。
帰れない、そう告げるのもまた守護者としての役目だ。
辛い辛い役回りだ。
「ミコ様、いやサキカ様。サキカ様は異世界転移をされました。元の世界に帰ることは出来ません。」
神子は少し驚いて、戸惑って、薄い怒りを滲ませた。
「帰ります!」
とベッドから出た。
まだ無理だろう、フラフラして足に力が入ってはいない。
慌てて神子が転ばないように手を伸ばした。
「あ、すみません。ありがとうございます。」
「光栄です。」
ああ、神子にありがとうと言われた。
錯綜すると聞いていたからどうなることかと思案していたけれど、思ったよりは酷くは無さそう。
そう思ったのに、
「では、失礼します。ご迷惑お掛けしました。」
支えていた俺の手を振り解いて、ふらつきながらも歩いて行く。
そうっと扉を開けた神子は、迷うそぶりもなく廊下を抜けて行く。
マズイ!
この館は浮島にある。
そのまま何も考えずに湖に落ちでもしたら…。
慌てて神子を追いかけた。
神子は扉を開けたところで呆然と立ちすくんでいた。
「ここ、どこ?」
声が震えている。恐れ?怒り?よくわからない。
黙っていても仕方ない。それが守護者の務めと腹を括るしかない。
「だから言ったよ。帰れないって。」
立ちすくむ神子の背に向けて、なるべく深刻に感じさせないように努めて明るい声色で、だけど残酷な言葉を吐き出した。
「サキカ様は異世界転移をされて、この世界にやってきたハマ神の神子様で、もう元の世界には戻れない。」
その瞬間、
「イヤーーーーー!」
神子の叫び声が山間にこだました。
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