亡国の王子に下賜された神子

枝豆

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祠の村

フロー村

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サンギュットの街を出発して、咲香達を乗せた馬車はどこまでも続く田園地帯を走っていた。
もう随分と走っているが、面白いくらいに景色は変わらない。
遠くに見える山に囲まれた盆地というのだろうか、そこを埋め尽くすようにあるものはパッチワークのような畑とたまに小さな可愛らしい家がポツンと見えるだけ。
育てられている作物が変わるだけの単調な風景だ。

早々に教授は読書を始めてしまい、レオは目を閉じてうつらうつらと居眠りをし始めた。
ただ自分だけが目を輝かせながら、初めて見る異世界の景色を楽しんでいた。

どうやらこの辺りはトウモロコシの栽培地のようで、咲香には見慣れたトウモロコシが収穫を待っている。

(おじいちゃん…。)
サキカの家は割と都会にあったが、母の郷里はキャベツとトウモロコシを栽培している農家だった。

サキカにとってトウモロコシの畑は夏休みと祖父を連想させる。
仕事で忙しい父母にとって長い子供の夏休みは憂鬱のひとつ。
小学生の頃の咲香は宿題を持って田舎の祖父母の家に預けられるのが常。
中学生になり、部活や塾で夏休みにもそれなりに予定が埋まり始めても、お盆前後は田舎に行って…。

農村地帯の祖父母の家での楽しみは祖父と一緒に畑に出て、祖母と一緒に家事をして。
いとこ達と山に登り川で泳ぎ…。
おやつと言われて出されたのは、トマト、きゅうり、そしてとうもろこし。

…そういえば夏休みになる頃だったなぁ。
遊園地のプールは期末試験が明けて、結果が出る前の週末だった。
そのまま夏休みになれば、受験に向けての講習が始まる。
「その前に最後の息抜きしない?」
と誰ともなく言い出して…。

戻れない現実が胸を突く。
…あっ、やばい。泣きそう。

咲香は慌てて視線をとうもろこし畑から遠くの景気へと移した。

その時、広大な畑の真ん中に築山が見えた。
まるでそこだけ人の手が入るのを拒んでいるかのように、鬱蒼と大きな木が幾本も固まっている。
その森の光景にサキカは目を見開いた。

「何アレ!」
つい出した大きな声でレオは目を覚まし、教授は読んでいた本から視線を上げた。
「どうした?」
「あの森、真っ黒…。」
「「えっ!」」

もちろんレオにも教授にもそこにあるのはただの鬱蒼と生い茂る小さな築山にしか見えない。
「見えない?あれよ!」
咲香は真っ黒の霧に覆われた築山へと指を伸ばした。
「…あれか。」
「行ってみるか?」
「もちろん!」

旅をするために受け入れた「浄化」なのだから、見つけた以上は最善を尽くそう、そう咲香は決めていた。

レオの言葉を受けて、馬車は街道を離れ、築山を目指した。

近づくてみると、築山だと思っていた森の中に小さな建物が見える。

…神社みたい。
流石に鳥居はないけれど、作りは日本のそれに近いと咲香は思った。

奥にある建物に向かって真っ直ぐと伸びた道、それを覆い隠すように木々が茂っている。あまり手入れされてはいないのだろう、雑草も繁々と生えていた。

「入れそうも無いですね。」
鉄柵の門扉をガチャガチャと鳴らして、施錠を確認したのは教授。
私は立ち込める黒い霧で、気分が悪くなってきた。
もうふらふらで立っているのもやっとな程になり、崩れかけた私をレオが支えてくれた。

「とりあえずここから離れよう。」
レオに言われて仕方なく引き返す。
「吸収してしまったか?」
「…多分出来てない…と思う…。」
ピリピリと肌を刺す刺激はあったけれど、中に入った様子はあまり感じない。
ただ気分が悪いだけ。

「今、浄化するのは危険ですね。このままだとサキカ様がお倒れになってしまう。」
教授はそう言って、まず拠点となる場所を探す事になった。



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