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王都ヨーシャー
会食
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皇帝は私の力は世界のために等しく使うべきで、イェオリ国ためだけに使うのは宜しくはない。
そのための協力は惜しまない、とさもそれらしい事を言っている。
ただ、それは嘘だ!と気付いた。
昼食会のテーブルについた側妃様と第一皇女マリー様は控えめにされてほとんどお話にはならない。
たけどこのお二人の顔色が極端に悪く、灰色にくすんでいることがとても気になった。
おそらく禍が器にいっぱい溜まっているのだろう。
それなのにこのお二人は近付いてくる顔色の悪い侍従さん達にそれとなく触れて、侍従さん達の穢れを祓っていく。
祓ってもらった人はそっとお二人の目を見つめて会釈して離れていく。
おそらく侍従や侍女の間でローテーションが組まれて、調子の良くない人が近付いて、元気になっているのだと思った。
皇后やベル様はそれをしていない。
キャッキャと楽しそうにお喋りをしているだけだ。
ドュシエが出来るのはこのお二人のはずなのに…。
だから、
「皇后様のお力を見せて貰いたいのです。」とお願いしてみた。
穢れを祓うお手本見せて、と。
「皇后様にあまりに格下の人を治させるのは心苦しいので、是非側妃様でお願いしたいです。」と付け加えた。
一瞬いやそうな顔をした皇后様だったけれど、
「神子の御心のままに。」
と答えた。
神子…結構、権力持ってるのかも?
と思った瞬間でもあった。
そして、なんと皇后は側妃様の穢れを祓う「フリ」だけをした。
もう大丈夫よ、なんてニッコリ笑いかけるけれど、顔色変わってないのがその証拠だ。
ついレオを見た。
レオは何かを感じてくれたのだと思う。
小さく横に首を振る。
…黙れ、と言う事なのだろう。
それなのに側妃様は
「ありがとうございます。皇后陛下の御慈悲に感謝致します。」とお礼を述べた。
これに私の心が悲鳴をあげた。
皇后が側妃様にしたのは嫌がらせだと思う。
なぜ側妃様がそれを甘んじて受けるのかはわからないけれど、その場面を作り出してしまったのは間違いなく私だった。
居た堪れなくなった私は、泣きそうになって気分が悪いと言って席を離れた。
レオが慌てて寄り添ってくれて、ベル様が、マリー様に別室へ案内するようにまるで侍女にでもいうかのように命令をされてしまった。
ああ。
今度はお姫様同士のイジメに加担してしまっている。
ごめんなさい、本当にごめんなさい。
それでもマリー様は私達を近くの小部屋に連れていってくれて、椅子に優しく私を座らせてくれた。
レオが心配そうに
「大丈夫か?」と覗き込むけれど、ただ横に首を振りながら、ごめんなさいと言い続けた。
その時、ふと思った。
もし私がマリー様の穢れを祓うことが出来たなら。
出来るだろうか?一度しかやったことがないのに、こんなに顔色の悪い人を助けることが出来るだろうか。
レオとロイドさんは能力を知られるのはダメだといっていた。
けれど見てしまっておいて、見えていないフリをすることは私には出来ない。それはあの下品な皇帝家族と同じになってしまう。
お水を差し出してくれたマリー様の手をそっと握りしめた。
集中して何かを感じ取ろうと努めた。
すると、皇女様の手から熱い塊が私の中に入ってきた。
(良かった、出来る…。)
そう思った瞬間、皇女様は私の手を振り払った。
「何をなさられるのです!」
皇女様は怒ったのでない。労るような声だった。
ご気分が優れないのでしょう?無理はしなくていいから、と。
「続けさせてください。せめて…せめて貴女に。」
それだけで皇女様に、私が悔やんでいることが伝わったのだと思う。
でも返ってきたのは拒否だった。
「私ではなく、どうか母を。」
レオは状況がわからず戸惑っていた。
キュイエされたばかりの側妃様を浄化して欲しいと頼まれることの意味は?
「先程キュイエされたのでは無かったのか?」
と聞いてきたので、私は頷いた。
「何か理由があるのでしょうが、今、側妃様をキュイエすることは難しいでしょう?
私が傷付けてしまった側妃様の為に、貴女をキュイエさせて下さい。
そして貴女と側妃様が穢れを分け合えば、少しはお体がラクになるのではないでしょうか?」
そう言って私は手を伸ばして皇女様の手を取った。
今度は振り払われなかった。
再び熱の塊が私の中に流れ込んでくる。
この間の時の比ではない。
熱い熱が大きな畝りになって私の中に流れ込んでくる。
身体中が熱くて、汗が大量に吹き出した。
マリー様は私の様子を見て、止めてと言ったけれど、私は止めたくなかったから、ギュッと手を握る力を強めた。
再びマリー様は私の手を振り払った。
「一度には無理です。休みましょう。ドュシエは出来ますか?」
「出来ない。」
と私が横に首を振ると、マリー様はレオに
「神子様のお身体に触れて差し上げて。」と言った。
レオは言われるままに私の背中に触れた。
「直接の方がいいです。」
とマリー様が言うので、レオの手は私の服を少しはだけさせて首の下に当てられた。
高熱で寝込んでいる時に当てられた氷のように触られているところが冷んやりする。
「あぁ冷たくて気持ちいい…。」
と思わず声が漏れた。
その言葉を聞いたマリー様は、満足気に頷いて、熱の塊をひんやりするところにぶつけなさい、とアドバイスをくれる。
グルングルンと熱の塊が私の身体を巡っていく。
意識が遠のきそうになるのを、冷んやりとした首筋が引きとどめてくれる。
一瞬グアーっと熱くなって、今度はゆっくりゆっくりと引いていく。
ふう、と一息ついた。身体の中に入ってきた塊は消えた。
「どうやら身体の中に溶け込ませることが出来たようですね。
出し方は分かりますか?」
わからない…と首を振る。
「まだ幼かった時のベルに皇妃はイメージが大事、と言ってました。」
マリー様が壺を用意してくれた。
「鉛の入れ物は皇后達が管理していて持って来られないの。」
そう言われてはここに出すしかない。
イメージ、イメージかぁ。
大神殿で見た黒砂を想像する。
私の身体の中にあの砂があって…それを探して…。
砂…じゃない。
真っ赤に燃えたぎる鉄鋼炉。飛び散る火花。溶けた鉄が水のように流れていく。
ゴトッ!
私の手からこぼれ落ちたのは砂ではなく、鶏卵ほどの大きさの黒く輝く石だった。
そのための協力は惜しまない、とさもそれらしい事を言っている。
ただ、それは嘘だ!と気付いた。
昼食会のテーブルについた側妃様と第一皇女マリー様は控えめにされてほとんどお話にはならない。
たけどこのお二人の顔色が極端に悪く、灰色にくすんでいることがとても気になった。
おそらく禍が器にいっぱい溜まっているのだろう。
それなのにこのお二人は近付いてくる顔色の悪い侍従さん達にそれとなく触れて、侍従さん達の穢れを祓っていく。
祓ってもらった人はそっとお二人の目を見つめて会釈して離れていく。
おそらく侍従や侍女の間でローテーションが組まれて、調子の良くない人が近付いて、元気になっているのだと思った。
皇后やベル様はそれをしていない。
キャッキャと楽しそうにお喋りをしているだけだ。
ドュシエが出来るのはこのお二人のはずなのに…。
だから、
「皇后様のお力を見せて貰いたいのです。」とお願いしてみた。
穢れを祓うお手本見せて、と。
「皇后様にあまりに格下の人を治させるのは心苦しいので、是非側妃様でお願いしたいです。」と付け加えた。
一瞬いやそうな顔をした皇后様だったけれど、
「神子の御心のままに。」
と答えた。
神子…結構、権力持ってるのかも?
と思った瞬間でもあった。
そして、なんと皇后は側妃様の穢れを祓う「フリ」だけをした。
もう大丈夫よ、なんてニッコリ笑いかけるけれど、顔色変わってないのがその証拠だ。
ついレオを見た。
レオは何かを感じてくれたのだと思う。
小さく横に首を振る。
…黙れ、と言う事なのだろう。
それなのに側妃様は
「ありがとうございます。皇后陛下の御慈悲に感謝致します。」とお礼を述べた。
これに私の心が悲鳴をあげた。
皇后が側妃様にしたのは嫌がらせだと思う。
なぜ側妃様がそれを甘んじて受けるのかはわからないけれど、その場面を作り出してしまったのは間違いなく私だった。
居た堪れなくなった私は、泣きそうになって気分が悪いと言って席を離れた。
レオが慌てて寄り添ってくれて、ベル様が、マリー様に別室へ案内するようにまるで侍女にでもいうかのように命令をされてしまった。
ああ。
今度はお姫様同士のイジメに加担してしまっている。
ごめんなさい、本当にごめんなさい。
それでもマリー様は私達を近くの小部屋に連れていってくれて、椅子に優しく私を座らせてくれた。
レオが心配そうに
「大丈夫か?」と覗き込むけれど、ただ横に首を振りながら、ごめんなさいと言い続けた。
その時、ふと思った。
もし私がマリー様の穢れを祓うことが出来たなら。
出来るだろうか?一度しかやったことがないのに、こんなに顔色の悪い人を助けることが出来るだろうか。
レオとロイドさんは能力を知られるのはダメだといっていた。
けれど見てしまっておいて、見えていないフリをすることは私には出来ない。それはあの下品な皇帝家族と同じになってしまう。
お水を差し出してくれたマリー様の手をそっと握りしめた。
集中して何かを感じ取ろうと努めた。
すると、皇女様の手から熱い塊が私の中に入ってきた。
(良かった、出来る…。)
そう思った瞬間、皇女様は私の手を振り払った。
「何をなさられるのです!」
皇女様は怒ったのでない。労るような声だった。
ご気分が優れないのでしょう?無理はしなくていいから、と。
「続けさせてください。せめて…せめて貴女に。」
それだけで皇女様に、私が悔やんでいることが伝わったのだと思う。
でも返ってきたのは拒否だった。
「私ではなく、どうか母を。」
レオは状況がわからず戸惑っていた。
キュイエされたばかりの側妃様を浄化して欲しいと頼まれることの意味は?
「先程キュイエされたのでは無かったのか?」
と聞いてきたので、私は頷いた。
「何か理由があるのでしょうが、今、側妃様をキュイエすることは難しいでしょう?
私が傷付けてしまった側妃様の為に、貴女をキュイエさせて下さい。
そして貴女と側妃様が穢れを分け合えば、少しはお体がラクになるのではないでしょうか?」
そう言って私は手を伸ばして皇女様の手を取った。
今度は振り払われなかった。
再び熱の塊が私の中に流れ込んでくる。
この間の時の比ではない。
熱い熱が大きな畝りになって私の中に流れ込んでくる。
身体中が熱くて、汗が大量に吹き出した。
マリー様は私の様子を見て、止めてと言ったけれど、私は止めたくなかったから、ギュッと手を握る力を強めた。
再びマリー様は私の手を振り払った。
「一度には無理です。休みましょう。ドュシエは出来ますか?」
「出来ない。」
と私が横に首を振ると、マリー様はレオに
「神子様のお身体に触れて差し上げて。」と言った。
レオは言われるままに私の背中に触れた。
「直接の方がいいです。」
とマリー様が言うので、レオの手は私の服を少しはだけさせて首の下に当てられた。
高熱で寝込んでいる時に当てられた氷のように触られているところが冷んやりする。
「あぁ冷たくて気持ちいい…。」
と思わず声が漏れた。
その言葉を聞いたマリー様は、満足気に頷いて、熱の塊をひんやりするところにぶつけなさい、とアドバイスをくれる。
グルングルンと熱の塊が私の身体を巡っていく。
意識が遠のきそうになるのを、冷んやりとした首筋が引きとどめてくれる。
一瞬グアーっと熱くなって、今度はゆっくりゆっくりと引いていく。
ふう、と一息ついた。身体の中に入ってきた塊は消えた。
「どうやら身体の中に溶け込ませることが出来たようですね。
出し方は分かりますか?」
わからない…と首を振る。
「まだ幼かった時のベルに皇妃はイメージが大事、と言ってました。」
マリー様が壺を用意してくれた。
「鉛の入れ物は皇后達が管理していて持って来られないの。」
そう言われてはここに出すしかない。
イメージ、イメージかぁ。
大神殿で見た黒砂を想像する。
私の身体の中にあの砂があって…それを探して…。
砂…じゃない。
真っ赤に燃えたぎる鉄鋼炉。飛び散る火花。溶けた鉄が水のように流れていく。
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