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球技大会
テーピング
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「テープ巻くから。」
香川くんはそう言って、私の後ろに立った。
「いつも自分で巻いてるから、対面だとやりにくい。少し我慢してて。」
背面から抱え込まれるように長くて大きな手が伸びてきた。
手を取られて白いテープが巻かれている。
香川くんの手はゴツゴツした豆だらけの凄く大きな手だった。
「…手、小せえな。」
「香川くんが大きいんだよ。」
「ハンドボール、片手で掴めないとダメだからな。」
ほらね、もう手から違うんだよ。
私達と香川くんは違う。
ハンドボールに向ける情熱?愛情?傾ける思いが違う。
「香川くんもケガするの?」
「しょっちゅう。」
「あんなに上手いのに、あんなに好きなのにケガしちゃうんだね。
私、下手クソだからケガしたの?」
「…違う、と思う。」
「あのね、やっぱりキーパーは基本はパーだよね。」
「ああ、基本、な。」
…そっか。やっぱりそうだ。
「言われた通りグーでいたらケガしなかったよね、きっと。」
「…ああ。」
「…でもゴールは決まってた。」
「…うん。」
きっと香川くんはわかってくれる。
私が言いたい事をわかってくれる。
「優ちゃんはね、私をちゃんと戦力として見てくれたんだよ。
グーならそのままゴールが決まる。でもパーにしたら止められるかもしれないって。
それでね、開いてって言ってくれた。
私も自分でその方が良いと思ってパーにした。開いた指にボールが当たったって事は、あと少しで止められたって思っていい?」
「うん、そうなのかも…しれない。だけど、」
「ケガしたのは私の努力が足りなかったから?」
「…違う。」
「凄いシュートだったもんね。ビックリしちゃった。」
どんなに練習を重ねて来ても、止められないシュートもある。
どんなに気を付けていても、スポーツにケガはつきもの。
する時はする。しない時はしない…。
「ねっ、これ、頑張ったご褒美の、名誉の負傷だと思っていい?」
「…お前お人好し過ぎ。だけど好きにすればいい。どう思うかは俺には決められなさそうだ。
…アイツに謝らないと。」
良かった、わかってもらえて良かった。
「これも思い出になる。ありがとう。」
テープはとっくに巻き終わってるのに、香川くんの手は離れていかない。
「ありがとう。」
少し手を動かすと香川くんの手はスルッと離れた。
そのとき、ドアがガラガラっと開かれた。
「翠いる?」
疾風くんが入ってくる。
「翠?」
心配そうにこちらを覗き込んだ疾風くんに、
「大丈夫だよ。」
と笑ってみせた。
「王子様登場だな。後は任せた。」
香川くんは疾風くんの肩をポンポンっと軽く叩いて、そのまま保健室を出て行った。
香川くんはそう言って、私の後ろに立った。
「いつも自分で巻いてるから、対面だとやりにくい。少し我慢してて。」
背面から抱え込まれるように長くて大きな手が伸びてきた。
手を取られて白いテープが巻かれている。
香川くんの手はゴツゴツした豆だらけの凄く大きな手だった。
「…手、小せえな。」
「香川くんが大きいんだよ。」
「ハンドボール、片手で掴めないとダメだからな。」
ほらね、もう手から違うんだよ。
私達と香川くんは違う。
ハンドボールに向ける情熱?愛情?傾ける思いが違う。
「香川くんもケガするの?」
「しょっちゅう。」
「あんなに上手いのに、あんなに好きなのにケガしちゃうんだね。
私、下手クソだからケガしたの?」
「…違う、と思う。」
「あのね、やっぱりキーパーは基本はパーだよね。」
「ああ、基本、な。」
…そっか。やっぱりそうだ。
「言われた通りグーでいたらケガしなかったよね、きっと。」
「…ああ。」
「…でもゴールは決まってた。」
「…うん。」
きっと香川くんはわかってくれる。
私が言いたい事をわかってくれる。
「優ちゃんはね、私をちゃんと戦力として見てくれたんだよ。
グーならそのままゴールが決まる。でもパーにしたら止められるかもしれないって。
それでね、開いてって言ってくれた。
私も自分でその方が良いと思ってパーにした。開いた指にボールが当たったって事は、あと少しで止められたって思っていい?」
「うん、そうなのかも…しれない。だけど、」
「ケガしたのは私の努力が足りなかったから?」
「…違う。」
「凄いシュートだったもんね。ビックリしちゃった。」
どんなに練習を重ねて来ても、止められないシュートもある。
どんなに気を付けていても、スポーツにケガはつきもの。
する時はする。しない時はしない…。
「ねっ、これ、頑張ったご褒美の、名誉の負傷だと思っていい?」
「…お前お人好し過ぎ。だけど好きにすればいい。どう思うかは俺には決められなさそうだ。
…アイツに謝らないと。」
良かった、わかってもらえて良かった。
「これも思い出になる。ありがとう。」
テープはとっくに巻き終わってるのに、香川くんの手は離れていかない。
「ありがとう。」
少し手を動かすと香川くんの手はスルッと離れた。
そのとき、ドアがガラガラっと開かれた。
「翠いる?」
疾風くんが入ってくる。
「翠?」
心配そうにこちらを覗き込んだ疾風くんに、
「大丈夫だよ。」
と笑ってみせた。
「王子様登場だな。後は任せた。」
香川くんは疾風くんの肩をポンポンっと軽く叩いて、そのまま保健室を出て行った。
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