若松2D協奏曲

枝豆

文字の大きさ
上 下
98 / 242
皇子くんの一番

搾取

しおりを挟む
「一体いつまで親の人生を搾取するつもりなの?」
風邪で寝込んだ壮に母親がぶつけた一言。
その時壮はまだ幼稚園児だった。

母の仕事が結婚を扱っていることもあって、母の職場は産休と育休が充実している。
俺を産んで、しっかりと育休を取って、職場に復帰したのが俺が4歳の時。
そして壮を産んだのが、俺が小学2年生の時。
その間の4年間で何か思うところがあったのかもしれない、母は壮の時は育休をほとんど取らないで職場に復帰した。

保育園に通い始めた壮は度々熱を出した。
その度に母が職場に電話を掛けて休みを貰っていた。
その度に母は壮を責めていた。

「1年目はみんなそうなんだけどねぇ。」
疾風の母、梓さんはよくそう言って苛立つ母を慰めていたのを思い出す。

顧客にとって一生に一度の結婚式。その仕事で思うように出勤出来ないという状況が母を追い詰めたんだと思う。
母は部下だった後輩のサポートに回された辺りから壮に対しての当たりがキツくなった。

壮の体調が安定し、俺と2人で留守番出来るようになったのが、壮が年長になった時。その頃から母はまた仕事にのめり込んだ。

しかしその時にはもう遅かった。
「自己肯定感が低い。」
「自尊感情の欠如」
保育園からの依頼で検査を受けた壮への診断だった。

正直俺には初めのうちは母が壮に浴びせていた言葉の意味がサッパリ意味がわからなかった。
ただ壮に対してネガティブな事だということだけは分かった。

スマホを与えられてからわからなかった言葉をひとつひとつ確かめていった。
搾取とは?
自己肯定感とは?
自尊感情とは?

そこから発達障害、児童虐待、ネグレクト…と様々な言葉へと拡がって次々に検索していった。
わかっている、ネット検索で調べた事だけを鵜呑みにしちゃダメだということも、壮に当てはまりそうな事だけじゃなく、当てはまらなそうな事も沢山あって…。

そうかな?イヤ違うかも?
怖くて確かめられないままズルズルと3年経った。

多分父や母はもっと詳しいことを知っているはず。違う、知っていて欲しい。
仕事が大切なのはわかっている。
だけど…。

そうかもしれない、イヤ違うかもしれない。
モヤモヤし続ける葛藤の中でひとつだけ確かなことがある。

壮は俺の大切な家族だ。
俺は壮の一番の理解者でありたいと願っている。



しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

井戸端会議所

ほたる
青春
アパートの一階で、隣同士に住んでいる仁志と仁美。二人はアパートの専用庭に出て、柵越しに座り、ただ何の変哲もない会話をするだけという、「井戸端会議」と呼称する交流を、幼い頃からずっと続けていた。幼馴染で親密な関係を築いていくうちに、仁志は段々と仁美を意識するようになる。そんな関係性が続く中、ある日の夜。いつも通りに井戸端会議をしていると、仁美が仁志に対して、こう言ったのだった。 「ねぇ、今から外に出れる?」

ふざけてやがる

むらじ
青春
ふざけた恋愛(?)小説です。短編だったり長編だったりネタだったりシリアスだったり。 傍から見ればそれはふざけた恋愛に見えるのかもしれない。 だが確かにそこに愛の形があるのだ。 恋愛だなんて、してるやつらは馬鹿ばかり。 だが、それが少し、羨ましい。

これからの僕の非日常な生活

喜望の岬
青春
何の変哲もない高校2年生、佐野佑(たすく)。 そんな彼の平凡な生活に終止符を打つかのような出来事が起きる……!

学園のアイドルに、俺の部屋のギャル地縛霊がちょっかいを出すから話がややこしくなる。

たかなしポン太
青春
【第1回ノベルピアWEB小説コンテスト中間選考通過作品】 『み、見えるの?』 「見えるかと言われると……ギリ見えない……」 『ふぇっ? ちょっ、ちょっと! どこ見てんのよ!』  ◆◆◆  仏教系学園の高校に通う霊能者、尚也。  劣悪な環境での寮生活を1年間終えたあと、2年生から念願のアパート暮らしを始めることになった。  ところが入居予定のアパートの部屋に行ってみると……そこにはセーラー服を着たギャル地縛霊、りんが住み着いていた。  後悔の念が強すぎて、この世に魂が残ってしまったりん。  尚也はそんなりんを無事に成仏させるため、りんと共同生活をすることを決意する。    また新学期の学校では、尚也は学園のアイドルこと花宮琴葉と同じクラスで席も近くなった。  尚也は1年生の時、たまたま琴葉が困っていた時に助けてあげたことがあるのだが……    霊能者の尚也、ギャル地縛霊のりん、学園のアイドル琴葉。  3人とその仲間たちが繰り広げる、ちょっと不思議な日常。  愉快で甘くて、ちょっと切ない、ライトファンタジーなラブコメディー! ※本作品はフィクションであり、実在の人物や団体、製品とは一切関係ありません。

女神と共に、相談を!

沢谷 暖日
青春
九月の初め頃。 私──古賀伊奈は、所属している部活動である『相談部』を廃部にすると担任から言い渡された。 部員は私一人、恋愛事の相談ばっかりをする部活、だからだそうだ。 まぁ。四月頃からそのことについて結構、担任とかから触れられていて(ry 重い足取りで部室へ向かうと、部室の前に人影を見つけた私は、その正体に驚愕する。 そこにいたのは、学校中で女神と謳われている少女──天崎心音だった。 『相談部』に何の用かと思えば、彼女は恋愛相談をしに来ていたのだった。 部活の危機と聞いた彼女は、相談部に入部してくれて、様々な恋愛についてのお悩み相談を共にしていくこととなる──

フツリアイな相合傘

月ヶ瀬 杏
青春
幼少期の雨の日のトラウマから、雨が苦手な和紗。 雨の日はなるべく人を避けて早く家に帰りたいのに、あるできごとをキッカケに同じクラスの佐尾が関わってくるようになった。 佐尾が声をかけてくるのは、決まって雨の日の放課後。 初めはそんな佐尾のことが苦手だったけれど……

金色の庭を越えて。

碧野葉菜
青春
大物政治家の娘、才色兼備な岸本あゆら。その輝かしい青春時代は、有名外科医の息子、帝清志郎のショッキングな場面に遭遇したことで砕け散る。 人生の岐路に立たされたあゆらに味方をしたのは、極道の息子、野間口志鬼だった。 親友の無念を晴らすため捜査に乗り出す二人だが、清志郎の背景には恐るべき闇の壁があった——。 軽薄そうに見え一途で逞しい志鬼と、気が強いが品性溢れる優しいあゆら。二人は身分の差を越え強く惹かれ合うが… 親が与える子への影響、思春期の歪み。 汚れた大人に挑む、少年少女の青春サスペンスラブストーリー。

傷者部

ジャンマル
青春
高校二年生に上がった隈潟照史(くまがた あきと)は中学の時の幼なじみとのいざこざを未だに後悔として抱えていた。その時の後悔からあまり人と関わらなくなった照史だったが、二年に進学して最初の出席の時、三年生の緒方由紀(おがた ゆき)に傷者部という部活に入ることとなるーー 後悔を抱えた少年少女が一歩だけ未来にあゆみ出すための物語。

処理中です...