上 下
63 / 87
鳳の羽を纏う龍

望むもの

しおりを挟む
ソニア様とのお茶会を終えて、直ぐにジンシがいる帝の宮に使いを出して会いたいと伝えた。

やってきたジンシに、
「ソニア様のことをフェイ殿下はユエと呼んでいらしたそうです。」
と伝えた。

ジンシはしばらく無言でいて、
「そうか…。では最初からバレていたという事だな。」
とゆっくりとため息をついた。

フェイとなってから、ジンシとソニア様が会話をしたのはただ一度きりだ。
あの時「ソニア」と呼んだはずだ。

2人の間の空気が重い。
ソニア様の振る舞い次第では、この隠し事はすぐにでも天下に晒されるに違いない。

「異国人だと蔑まれていらしたそうです、せめて名前だけでもリュウジュの民のようにしてあげると。本当にお優しい方です、とも。

それから…まるでお人が変わってしまったかのようだ、と。」

「…知らなかっただけで、兄なりに交流を持ち大切にしていたという事なんだろう。」
「ええ、そのようですね。」

隠し続けてもらう為に、せめて消息だけでも知らせた方が良いのかもしれない。
そう言うと、それは出来ない、と言い切られた。

「兄が生かされている事は誰人にも伝える事は出来ない。ソニア様の後ろにはソニア様の生まれ国が付いている。
ソニア様が兄を慕うのならば余計にだ。
…消息を伝えるならば、死んだと伝える他は無くなる。
それに…兄の望みと合致するのかもわからない。」

…悲しい。引き裂かれる悲しみはいつだって…。
憂いたのをジンシには気付かれたようだ。

「…大丈夫か?」
「…大丈夫です。」

そう言うしか出来ない。
始めた嘘は最後まで貫き通さなくてはならない、と決めたじゃないか。

心が悲鳴をあげそうな時、ジンシが優しく寄り添ってくれる。
そしてジンシの心が砕けそうな時は、私が支えなければならない。

「…ユエと呼ぶのは今更か…。」
「ええ、ソニア様は帝にも忘れろ、と。」
「…帝、か。」

薄々気付いているのではなく、確信を持ってフェイと帝を使い分けているようにしか見えない。

「たが、晒すならばもっと前にも出来たはずだ。」
「そうですよね、今更…。それがソニア様のお覚悟ということなのでしょうか。」

聞きながら、そうあって欲しいと願う。
そう思うしか出来なかった。


以来、なるべく避けたかったソニア様だったが、こちらの気などお構いなしに幾度となく呼び出される。

琴を教えて欲しい。
今帝が関心を持っているものは何か…。

もう要らないと言われてはいるけれど、万が一心が変わる日が来るならば、それに備えたい、と健気な様子さえ見せる。

…断れなかった。遠ざけられなかった。
宮にいて寂しいのはよくわかる。
そしてまたリーエンも同じだ。

2人でお茶を飲み、たわいのない話をする。
琴を弾いて、また話す。
いつしか私達は友になった気さえする。

決して明かせない胸の内、つい曝け出したくなる時も度々あった。
そんなとき、ソニア様は知ってか知らずにか、リーエンの痩せた心を解してくれる存在にもなった。

元より戦地で暮らし、山荘へと移ったリーエンには「伴」はいても、「友」は少ない。
ましてやここは帝の奥の宮だ。
心を割って話せる「友」はいないというのに。


ソニア様の宮の庭には見事な梅林がある。
ある日そこで鶯が鳴いた。

「鶯ですね。」
「ええ、優雅な事です。」

その時初め見た鳳の宮の一室に描かれた天井画を思い出して、その話をソニア様にした。

「フェイ様は夜は来てはくれませんでしたが、昼はよく来てくれていたんですよ。」
と懐かしげに、寂しそうに話すソニア様から目が離せなかった。

「天井の絵の話をされて、ここに梅を植えてくださったのはフェイ様なんです。
同じ物を見ていると思えば心が少しは晴れるのではないか、と。
でも今は鳳の宮は無人ですわね。
それだけでお心が離れた事を感じます。

時々こうやって鳥を呼んでみたくなります。」

そういいながら、ソニア様は手にしていた菓子を砕いて庭へとばら撒いた。

「私が鶯なら、どこでも好きなところに飛んでいけるのに。
それかこの菓子を食べに来てはくれないものかしらね。

願うならもう一度、あの優しい鳥を愛でたいものですわ。」

ああ、わかった。
ソニア様が頑なにここに残った意味がわかった。
ソニア様は鳳の皇子フェイを心から慕っておられた。

そしてきっとまだ諦めてはいないに違いない。

「ソニア様の心を捉えて離さない、優しい鳥とはどんな鳥なのでしょうね。」

わたしが掛けた言葉に驚いて私を見直したソニア様は、
「もう幻かもしれません。」
と嘯いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

【完結】そんなに側妃を愛しているなら邪魔者のわたしは消えることにします。

たろ
恋愛
わたしの愛する人の隣には、わたしではない人がいる。………彼の横で彼を見て微笑んでいた。 わたしはそれを遠くからそっと見て、視線を逸らした。 ううん、もう見るのも嫌だった。 結婚して1年を過ぎた。 政略結婚でも、結婚してしまえばお互い寄り添い大事にして暮らしていけるだろうと思っていた。 なのに彼は婚約してからも結婚してからもわたしを見ない。 見ようとしない。 わたしたち夫婦には子どもが出来なかった。 義両親からの期待というプレッシャーにわたしは心が折れそうになった。 わたしは彼の姿を見るのも嫌で彼との時間を拒否するようになってしまった。 そして彼は側室を迎えた。 拗れた殿下が妻のオリエを愛する話です。 ただそれがオリエに伝わることは…… とても設定はゆるいお話です。 短編から長編へ変更しました。 すみません

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

【完結】いてもいなくてもいい妻のようですので 妻の座を返上いたします!

ユユ
恋愛
夫とは卒業と同時に婚姻、 1年以内に妊娠そして出産。 跡継ぎを産んで女主人以上の 役割を果たしていたし、 円満だと思っていた。 夫の本音を聞くまでは。 そして息子が他人に思えた。 いてもいなくてもいい存在?萎んだ花? 分かりました。どうぞ若い妻をお迎えください。 * 作り話です * 完結保証付き * 暇つぶしにどうぞ

6年後に戦地から帰ってきた夫が連れてきたのは妻という女だった

白雲八鈴
恋愛
 私はウォルス侯爵家に15歳の時に嫁ぎ婚姻後、直ぐに夫は魔王討伐隊に出兵しました。6年後、戦地から夫が帰って来ました、妻という女を連れて。  もういいですか。私はただ好きな物を作って生きていいですか。この国になんて出ていってやる。  ただ、皆に喜ばれる物を作って生きたいと願う女性がその才能に目を付けられ周りに翻弄されていく。彼女は自由に物を作れる道を歩むことが出来るのでしょうか。 番外編 謎の少女強襲編  彼女が作り出した物は意外な形で人々を苦しめていた事を知り、彼女は再び帝国の地を踏むこととなる。  私が成した事への清算に行きましょう。 炎国への旅路編  望んでいた炎国への旅行に行く事が出来ない日々を送っていたが、色々な人々の手を借りながら炎国のにたどり着くも、そこにも帝国の影が・・・。  え?なんで私に誰も教えてくれなかったの?そこ大事ー! *本編は完結済みです。 *誤字脱字は程々にあります。 *なろう様にも投稿させていただいております。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

あなたが「消えてくれたらいいのに」と言ったから

ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
「消えてくれたらいいのに」 結婚式を終えたばかりの新郎の呟きに妻となった王女は…… 短いお話です。 新郎→のち王女に視点を変えての数話予定。 4/16 一話目訂正しました。『一人娘』→『第一王女』

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

処理中です...