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郭公の暮らし
夫婦のかたち
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帝とリーエンは燃えるような猛暑の昼下がり、汗をかきながら昼寝をする2人の幼な子に扇で風を送ってやっていた。
「これで良かったのでしょうか。」
リーエンの不安は帝の不安でもある。
きっとそのままでは皇太子フェイには様々な罪が課されていた。
出自を偽ったのは先帝とアナン様だが、フェイになすりつける事も十分に出来た。
そのまま死罪に。
おそらく兄が望んでいたのはこの道だった。
しかしそれでは国が割れる。
民を騙した皇族を民は赦してはくれないだろう。
あの日、目覚めた時、ディバルとフーシンに説き伏せられた。
「一番守りたいものはなんですか?」と問われて迷う事なく「リーエン」と答えたら、「やっぱり」と笑われた。
「リーエンを国割る不吉な姫に貶めますか?」
と問われると、否とはいえなかった。
「ならば皇太子となり生きて、生き抜きなさい。」
と諭された。
死んだジンシには戻れぬ。どこから現れたホンでは国は治めてはいけない。
「皇太子」として生きる事を決めた時、「兄」をどうするかで意見は分かれた。
「手折ってしまっては後戻りが出来ません。」
「ジンシの命までは取らなかったお人です。」
「死を願う者に死を与えるのは褒美を授けるのと同じ事です。」
結局通ったのはリーエンの言葉だった。
今朝方、ソニア様はひっそりと宮を出られた。
明日から「皇后ソニア様」は病に臥せられる。
皇后としてソニア様は「皇太子フェイ」によく仕えてくれた。
その姿が、ほかの臣下たちを黙らせた。
こんな茶番がまかり通ったのは、紛れもなくソニア様の姿があったからだった。
それは「新帝フェイ」となっても変わらなかった。
ソニア様には感謝しないとならない。
そのソニア様のたったひとつの願いが鳥だった。
3年半という時の長さも絶妙だ。
3年もあれば基礎固めが出来る。
不信の者を排除するのには充分だった。
「ユエ、と呼んでいたと言われた時は肝が冷えました。」
「ああ、そんな事もあったな。」
とっくにバレていた。騙し通せるとは思ってはいなかったが、それでも口を黙んでひたすら尽くしてくれた。
だからこその、今日のお滑りだ。
初めソニアが持ち出そうとしたものは長持ひとつだった。中は「夫」から贈られた物ばかり。
それではあんまりだと、いくつか見繕って山荘へと送ったのはリーエンだ。
その話を聞いて、それならばと男物を見繕って送ったのは「帝」だった。
しかし兄所縁の品は入れられない。
それはティバルとフーシンに止められた。
何かひとつくらい…。
その気持ちを汲んでくれたのもリーエンだった。
「琴はどうでしょう?」
…そうだな。
母の琴と笛は同じところにあるのもまた良いのかもしれない。
「これで良かったのだろうか?」
つい溢れてしまった言葉をリーエンが拾い上げた。
「政治的な事はわかりませんが、私は今幸せですよ。」
愛する人がそばにいて、可愛い子供たちがいる。
…ただ。
「フフフ、取られてしまいましたね。あの穏やかだった山荘での暮らし。」
「ホン」として共に剣を交えて、馬を駆け回らせ、2人で音を奏でていたあの日々。
多分一番幸せだったあの暮らし。
「ああ、取られてしまったな。」
結局兄は何もかも俺から奪うのだな。
新たな名前さえも取られてしまった。
それでも俺は大嘘つきの帝となり、嘘で固められたこの国を守る道を選んだ。
だけれど、本当に守りたい物はこの掌にある。愛する者、良き盟友、平穏な国、次代への希望…。
贅沢は言えない。
今度は奪った物を大切にして欲しいと願っている。
終
「これで良かったのでしょうか。」
リーエンの不安は帝の不安でもある。
きっとそのままでは皇太子フェイには様々な罪が課されていた。
出自を偽ったのは先帝とアナン様だが、フェイになすりつける事も十分に出来た。
そのまま死罪に。
おそらく兄が望んでいたのはこの道だった。
しかしそれでは国が割れる。
民を騙した皇族を民は赦してはくれないだろう。
あの日、目覚めた時、ディバルとフーシンに説き伏せられた。
「一番守りたいものはなんですか?」と問われて迷う事なく「リーエン」と答えたら、「やっぱり」と笑われた。
「リーエンを国割る不吉な姫に貶めますか?」
と問われると、否とはいえなかった。
「ならば皇太子となり生きて、生き抜きなさい。」
と諭された。
死んだジンシには戻れぬ。どこから現れたホンでは国は治めてはいけない。
「皇太子」として生きる事を決めた時、「兄」をどうするかで意見は分かれた。
「手折ってしまっては後戻りが出来ません。」
「ジンシの命までは取らなかったお人です。」
「死を願う者に死を与えるのは褒美を授けるのと同じ事です。」
結局通ったのはリーエンの言葉だった。
今朝方、ソニア様はひっそりと宮を出られた。
明日から「皇后ソニア様」は病に臥せられる。
皇后としてソニア様は「皇太子フェイ」によく仕えてくれた。
その姿が、ほかの臣下たちを黙らせた。
こんな茶番がまかり通ったのは、紛れもなくソニア様の姿があったからだった。
それは「新帝フェイ」となっても変わらなかった。
ソニア様には感謝しないとならない。
そのソニア様のたったひとつの願いが鳥だった。
3年半という時の長さも絶妙だ。
3年もあれば基礎固めが出来る。
不信の者を排除するのには充分だった。
「ユエ、と呼んでいたと言われた時は肝が冷えました。」
「ああ、そんな事もあったな。」
とっくにバレていた。騙し通せるとは思ってはいなかったが、それでも口を黙んでひたすら尽くしてくれた。
だからこその、今日のお滑りだ。
初めソニアが持ち出そうとしたものは長持ひとつだった。中は「夫」から贈られた物ばかり。
それではあんまりだと、いくつか見繕って山荘へと送ったのはリーエンだ。
その話を聞いて、それならばと男物を見繕って送ったのは「帝」だった。
しかし兄所縁の品は入れられない。
それはティバルとフーシンに止められた。
何かひとつくらい…。
その気持ちを汲んでくれたのもリーエンだった。
「琴はどうでしょう?」
…そうだな。
母の琴と笛は同じところにあるのもまた良いのかもしれない。
「これで良かったのだろうか?」
つい溢れてしまった言葉をリーエンが拾い上げた。
「政治的な事はわかりませんが、私は今幸せですよ。」
愛する人がそばにいて、可愛い子供たちがいる。
…ただ。
「フフフ、取られてしまいましたね。あの穏やかだった山荘での暮らし。」
「ホン」として共に剣を交えて、馬を駆け回らせ、2人で音を奏でていたあの日々。
多分一番幸せだったあの暮らし。
「ああ、取られてしまったな。」
結局兄は何もかも俺から奪うのだな。
新たな名前さえも取られてしまった。
それでも俺は大嘘つきの帝となり、嘘で固められたこの国を守る道を選んだ。
だけれど、本当に守りたい物はこの掌にある。愛する者、良き盟友、平穏な国、次代への希望…。
贅沢は言えない。
今度は奪った物を大切にして欲しいと願っている。
終
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