50 / 87
新帝フェイ
しおりを挟む
ティバル将軍の娘御のリーエン様のお輿入れの際のお披露目が正殿で行われた日、酒に酔った痴れ者が灯りに酒を取り落とした事で起きた大きな火災は、正殿を燃やし尽くし、沢山の者が焼け死んだ。
皇太子殿下フェイ様の顔にも酷い火傷の痕を残した。
それ以来フェイ殿下は常に頭巾を深く被り、口元も覆い隠し、目元しか見せなくなられた。
長く朱病を患われていた帝は崩御され、沢山の臣下が後を追った。
皇太子フェイ様は「これ以上の後追いを堅く禁じる。」とお触れを出さなければならないほどだった。
新しい帝となったフェイ様と宰相になったフーシン様は、様々な改革を行なっている。
古い臣下を罷免し、新しい臣下たちをたくさん取り入れた。
そして国師による祭祀を取りやめる事を決めた。
お側女のチェン様は病のためにお郷へ帰された。
同じくお側女のスーチー様は髪を落とされ、火事で亡くなられた母を弔いながら慰霊の宮でひっそりと暮らしている。
正妃ソニア様は変わらず奥の宮でお暮らしになり、たまにリーエン様と小さな茶会をお開きになっている。
側女だったリーエン様が皇子をお産みになられて100日のお披露目の日。
以前なら国師による先読みの儀式が行われる日だったけれど、それはもう行われない。
その日、その代わりかどうかはわからないが、帝とリーエン様は元は龍の宮、今は帝の宮から霊廟へと皇子を連れて出掛けられた。
先の帝の宮は火災で亡くなった者と前帝の後を追った臣下や兵士を弔う慰霊の宮へと在り方を変えている。
「帝に。」と声を掛けて一輪の花を手向ける。
「ハンジュ様に。」
「アナン様に。」
「弟…。ジンシに。」
穏やかに1人ずつ名を呼び一輪ずつ花を手向けていく。
「我が子と共に平和なリュウジュ国とすることを改めてお誓い申し上げます。」
と頭を下げて膝をつく。
新しい皇子には父と同じ鳳の印が入れられる事になった。
霊廟を出るとそこに1人の女が立っていた。
白装束に緋色の袴。
「…フキか。」
女の姿を見て帝の声が怖いものに変わる。
「ええ、リーエン様とお約束しましたので。」
「先読みは要らん。」
「ええ、わかっております。」
帝は涼しげな顔でそこに立つ女にどうしても一言物申したくなった。
皇子を抱いたリーエン様は口を開くことなく、一歩後ろへ控えられた。
「お前の所為で国が割れた。」
帝の威厳をまざまざと見せつけるかのような、重い言葉の響きにも関わらず、フキは飄々とそれを受け流した。
「郭公を見る価値はありませんでしたもの。」
涼しく言ってのけるフキの言葉に、帝の声はさらに低く冷たいものに変わった。
「…違う!例え帝の血では無くても、清らかな新しい民の先読みは国師の義務であった。」
「ほお、そう来ますか。」
心外だと言わんばかりのフキの返答に帝はさらに言葉を重ねる。
「お前が国を割った。親の咎は子には要らん。」
「…そうですね。その皇子にも親の咎を受け継がせる訳には参りませんものね。
口を塞ぎましょう、鳳の皇子の為に。」
嘲笑さえ浮かぶフキの口元を見て、帝の忍耐は切れた。
「国賊よ、この国より去れよ!
もう誰の命も取らぬと決めた我が意、二度と後悔させるな。」
「おお、怖い、怖い。
もちろん、喜ばれぬ者は去りましょう。ご機嫌よう、龍の帝。」
女はくるりと背を向けて、堂々と歩き去った。
皇太子殿下フェイ様の顔にも酷い火傷の痕を残した。
それ以来フェイ殿下は常に頭巾を深く被り、口元も覆い隠し、目元しか見せなくなられた。
長く朱病を患われていた帝は崩御され、沢山の臣下が後を追った。
皇太子フェイ様は「これ以上の後追いを堅く禁じる。」とお触れを出さなければならないほどだった。
新しい帝となったフェイ様と宰相になったフーシン様は、様々な改革を行なっている。
古い臣下を罷免し、新しい臣下たちをたくさん取り入れた。
そして国師による祭祀を取りやめる事を決めた。
お側女のチェン様は病のためにお郷へ帰された。
同じくお側女のスーチー様は髪を落とされ、火事で亡くなられた母を弔いながら慰霊の宮でひっそりと暮らしている。
正妃ソニア様は変わらず奥の宮でお暮らしになり、たまにリーエン様と小さな茶会をお開きになっている。
側女だったリーエン様が皇子をお産みになられて100日のお披露目の日。
以前なら国師による先読みの儀式が行われる日だったけれど、それはもう行われない。
その日、その代わりかどうかはわからないが、帝とリーエン様は元は龍の宮、今は帝の宮から霊廟へと皇子を連れて出掛けられた。
先の帝の宮は火災で亡くなった者と前帝の後を追った臣下や兵士を弔う慰霊の宮へと在り方を変えている。
「帝に。」と声を掛けて一輪の花を手向ける。
「ハンジュ様に。」
「アナン様に。」
「弟…。ジンシに。」
穏やかに1人ずつ名を呼び一輪ずつ花を手向けていく。
「我が子と共に平和なリュウジュ国とすることを改めてお誓い申し上げます。」
と頭を下げて膝をつく。
新しい皇子には父と同じ鳳の印が入れられる事になった。
霊廟を出るとそこに1人の女が立っていた。
白装束に緋色の袴。
「…フキか。」
女の姿を見て帝の声が怖いものに変わる。
「ええ、リーエン様とお約束しましたので。」
「先読みは要らん。」
「ええ、わかっております。」
帝は涼しげな顔でそこに立つ女にどうしても一言物申したくなった。
皇子を抱いたリーエン様は口を開くことなく、一歩後ろへ控えられた。
「お前の所為で国が割れた。」
帝の威厳をまざまざと見せつけるかのような、重い言葉の響きにも関わらず、フキは飄々とそれを受け流した。
「郭公を見る価値はありませんでしたもの。」
涼しく言ってのけるフキの言葉に、帝の声はさらに低く冷たいものに変わった。
「…違う!例え帝の血では無くても、清らかな新しい民の先読みは国師の義務であった。」
「ほお、そう来ますか。」
心外だと言わんばかりのフキの返答に帝はさらに言葉を重ねる。
「お前が国を割った。親の咎は子には要らん。」
「…そうですね。その皇子にも親の咎を受け継がせる訳には参りませんものね。
口を塞ぎましょう、鳳の皇子の為に。」
嘲笑さえ浮かぶフキの口元を見て、帝の忍耐は切れた。
「国賊よ、この国より去れよ!
もう誰の命も取らぬと決めた我が意、二度と後悔させるな。」
「おお、怖い、怖い。
もちろん、喜ばれぬ者は去りましょう。ご機嫌よう、龍の帝。」
女はくるりと背を向けて、堂々と歩き去った。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
あなたが「消えてくれたらいいのに」と言ったから
ちくわぶ(まるどらむぎ)
恋愛
「消えてくれたらいいのに」
結婚式を終えたばかりの新郎の呟きに妻となった王女は……
短いお話です。
新郎→のち王女に視点を変えての数話予定。
4/16 一話目訂正しました。『一人娘』→『第一王女』
私がいなくなった部屋を見て、あなた様はその心に何を思われるのでしょうね…?
新野乃花(大舟)
恋愛
貴族であるファーラ伯爵との婚約を結んでいたセイラ。しかし伯爵はセイラの事をほったらかしにして、幼馴染であるレリアの方にばかり愛情をかけていた。それは溺愛と呼んでもいいほどのもので、そんな行動の果てにファーラ伯爵は婚約破棄まで持ち出してしまう。しかしそれと時を同じくして、セイラはその姿を伯爵の前からこつぜんと消してしまう。弱気なセイラが自分に逆らう事など絶対に無いと思い上がっていた伯爵は、誰もいなくなってしまったセイラの部屋を見て…。
※カクヨム、小説家になろうにも投稿しています!
いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と
鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。
令嬢から。子息から。婚約者の王子から。
それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。
そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。
「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」
その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。
「ああ、気持ち悪い」
「お黙りなさい! この泥棒猫が!」
「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」
飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。
謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。
――出てくる令嬢、全員悪人。
※小説家になろう様でも掲載しております。
婚約解消したら後悔しました
せいめ
恋愛
別に好きな人ができた私は、幼い頃からの婚約者と婚約解消した。
婚約解消したことで、ずっと後悔し続ける令息の話。
ご都合主義です。ゆるい設定です。
誤字脱字お許しください。
記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。
せいめ
恋愛
メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。
頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。
ご都合主義です。誤字脱字お許しください。
恋より友情!〜婚約者に話しかけるなと言われました〜
k
恋愛
「学園内では、俺に話しかけないで欲しい」
そう婚約者のグレイに言われたエミリア。
はじめは怒り悲しむが、だんだんどうでもよくなってしまったエミリア。
「恋より友情よね!」
そうエミリアが前を向き歩き出した頃、グレイは………。
本編完結です!その後のふたりの話を番外編として書き直してますのでしばらくお待ちください。
もう死んでしまった私へ
ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。
幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか?
今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!!
ゆるゆる設定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる