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余興

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奥宮大夫から、父からお披露目の宴での余興の申し出があったと聞かされた。
「リーエンはこう見えて琴の扱いが上手です。宜しければ皇太子殿下に一曲披露させたいのですが。」
そう言ったらしい。

それは良い、とフェイ殿下は喜んで受けてくれたそうだ。

「せいぜい恥は書かないように。」
と奥宮大夫は私に琴を爪弾く事を命じた。

父が私の琴を持参して、セイが舞台に琴を運び入れている。
私が琴の前に座り、セイが後ろに控えた。

…大丈夫。うまく弾ける。弾かなくちゃならない。
震えそうになる指を握っては開き、開いては握りながら、爪を付けていく。

「お助け致します。」
隣に笛を持った女性が横に並んだ。
「…宜しくお頼み致します。」
…私の声は震えてはいないだろうか…。
…見てはいけない。
…縋り付いてはいけない。

そうしたいのをグッと堪える。

この為に、私はこの奥の宮に入ったのだから。
失敗は許されない。

そう思えば思うほどに、手が、身体が震える。

そっと笛吹きが私の背に手を乗せた。
「大丈夫。きっと出来る。」

「はい…。」
触れられた場所から、温かい何かが流れてくる。

大きく息を吸って、吐いた。
弦に爪を当てる。

ビィーーーン。
ひとつの音が響いて、ゆっくりと消えた。

そのまま曲を紡ぎ始める。
一番得意な、あの曲を。
ピィーーー。
と笛の音が重なる。

もしかしたら最後になるかもしれないのだ。
今この時を噛み締めておかなければならない。
忘れないように、忘れられないように。
今このときを、刻み込む。

とうとう、曲が終わる。
私はそのまま少し後ろに下がり、そのまま額を床に付けた。

そのままでいるように、と言われている。
舞台の上で、そのまま伏したまま、決して面をあげるなと言われている。


これから私は「国を割る姫」になる。
自分で決めた。多分初めて自分で人生を選んだ。
これでいい。これしかない。
あの人と共にいられるかもしれない道を、私は選んだ。



隣で笛吹きが服を脱ぎ始めた。
突然の狂行に宴席がざわめき出す声が聞こえる。

その声は大きく力強く、遠くへ響いた。

「これを見よ!我はリュウジュ国第二皇子、ジンシである!我が父、帝であるゼンシを無きものにした、逆臣フェイに裁きを与えに来た!
我に歯向かう者はリュウジュへの謀反とする!変わらずリュウジュ国に、帝へ忠誠を誓う者はその場で伏せよ!」

瞬間私の上に人が覆い被さった。
「リンです。どうかこのまま後ろへお下がりを。」
言われたままずるずると後ろへ這っていく。

ダダダっと足音がして、周りを取り囲む気配がした。
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