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今夜行われる宴は将軍の娘リーエンの奥の宮入りを祝う、有り体に言えばお披露目の宴だった。
会場の正殿の大広間に主だった臣下と奥の宮にいる華達が宴の席に招かれた。

席順がとにかく凄かった。
私のための宴なのに、笑えるほどあからさまで面白い。

中央にフェイ殿下。フェイ殿下の右に皇太子妃その横にチェンという側女、フェイ殿下の左にスーチーという側女が座り、その隣には奥宮大夫。
一段下げられて、奥宮大夫の隣に私がいる。

…誰の歓迎をしてるの?
歓迎されるとは思っていないけれど流石に呆れて言葉が出ない。

ただフェイ殿下だけが
「将軍がいるのだ、リーエンを上げてスーチーを下げろ。」
と奥宮大夫に申し付けた。
「…しきたり故に。」
と拒む奥宮大夫に
「リーエンは手付きだ!上げろ!」
と食い下がった。

皆の前で手付きだなんだと揉めないで欲しい。

何か言おうとしたら私に控えていたフーシンに止められた。
「放っておきなさいませ。いつもの事です。」
「いつもの事なの?」
奥の宮で席順で揉めるとか有り得ない事に驚きを隠せない。
「スーチー様は奥宮大夫の娘御です。」
…はい、察しました、と答えた。

おそらくまだ手付かずなのだろう、さっきのやり取りだとそうだ。
そして奥宮大夫はその権限を活かして、スーチー様をとかく推して推して推しまくっているに違いない。

酒宴が始まり、場は喧騒に包まれた。
とうとうスーチー様はフェイ殿下の真横にピッタリとくっついて酌をし始めた。
その様子を皇太子妃が冷ややかに睨んでいる。

フーシンが小さな声で色々教えてくれた。
聞こえるかもしれないとこちらが焦る。

「奥だけではございません。正殿も鳳の宮でも。皆がやりたい放題です。」

帝が表に出られなくなり、ジンシを抹殺して、皇太子を差し置いて、臣下達が暴走し始めている。

チラリ、父を見た。
父は涼しい顔をしてただ座っている。

「父は…見限ったのね。」
父ならきっと諌めたはずだ。その父がただ座っているのが答えだ。
「ええ。ティバル殿の忠誠はまだ帝にございます。」
「帝は?やはり今日は来れない?」
「ええ。今帝にお目通り出来るのは皇太子だけです。」
「…宰相は?」
「あちらにおります。」

フーシンの視線の先には6人の男の人達が一段高くなった高砂に並んで座っている。
「皇后陛下は?」
「もう幾年もご自身の宮を離れません。」

「あの6人と大夫が今リュウジュを動かしております。
影は皇族の争いには手を出しません。助けてもくれません。影同士で戦う事を影は望まないのです。
城内では皇族にはお気をつけなさいませ。」

「わかりました。」

「将軍が皇太子にリーエン様の琴の演奏を余興とするように進言なさいましたが、宜しいですか。」
「はい、大丈夫です。」
「それではお支度を。」

私はそっと席から立ち上がった。
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