28 / 87
朝
しおりを挟む
目が覚めた時、私はジンシの腕の中に囲われていた。
心地よい温かさと、重たい腹の違和感。
喜びの朝だった、痛みさえも喜びだと思ったら。
「自堕落よね。」
日が高く昇ってから目覚めた私の世話をしてくれるセイにそう言うと、
「いいえ、大切なお勤めと思いますよ。」
と優しい言葉を掛けてくれる。
少しでも滋養を、とセイは沢山のご馳走を私とジンシの膳に並べ立てた。
「こんなに食べられないわ。」
「量ではありません、大切なのは質と数です!少しずつで構いません。」
セイはリーエンに甘いな、とジンシは笑って見ている。
カイの話によると、身籠れるのはひと月の間の僅か数日程なのだそうだ。
「三月もあったならば、このような無茶をお願いせずとも済んだのに、ひと月では予測が立てられません!」
と嘆いていた。
最後の月の道は?と聞かれ、覚えてないというと、それもまた呆れられたのだけれど。
早いうちに月の道が来たならばまた機会は巡ってくるらしいが、その後に来たらもう時間がないのだと教えられた。
「だから励みなされ。」
と謎の言葉を残して、カイは私の診察を終えた。
その日、部屋にいると珍しくハルが私の前に現れた。
1人の少女を連れている。ハルと同じかもう少し若いか。
「リンです。リーエン様の影となります。」
「私に影が付く?」
「はい。」
…なぜ?私は皇族ではないし、おそらく皇族にはならない。
しかし
「…帝の命令です。」
と言われる。
ようやく思い至る。
「私じゃなく、世継ぎの…ね。」
「はい、恐らく。」
まだいるかいないかさえもわからないのに…と思いながらも、逆らっても無意味だ。
少なくても私の命令ではこの少女は私から離れる事は出来ないのだから。
「…わかりました。宜しくお願いします。」
と頭を下げる。
しかし見上げた時にはもう2人の姿はなかった。
父とフーシン殿は朝一番で城に戻ったという。
フーシン殿とはあれから私は話をしていない。
ジンシは盲目的にフーシンという人を信じている。
8年…か。
まだジンシと出会って1年にも満たない私には及びも出来ない、長い時間を掛けて2人は絆を作ったに違いない。
私がセイを頼って信じているように。
でも!
あの日、瀕死で横たわっていたジンシを彼は知らない。
目覚めた時、すぐに迎えが来ると言っていたのはフーシン殿のことだったに違いない。そのジンシに私は冷たい宣告をさせられたのだ。あの落胆した顔をフーシン殿は知らない。
昨日だってそうだ。
せっかく得ていた穏やかな日々をわざわざ壊しにやって来た。
私は彼を許せないでいる。
ただそれでもジンシはまだフーシン殿を信じている。
…それがたまらなく切なかった。
こんな日が来るとは思わなかった。
運命を避けようと逃げていた私の前に突然現れた運命。
私はその運命を受け入れて、あえて「国を割る姫」になろうとしている。
「わからないものね…。」
誰に聞かせるわけでもなく、その言葉をそっと吐き出した。
心地よい温かさと、重たい腹の違和感。
喜びの朝だった、痛みさえも喜びだと思ったら。
「自堕落よね。」
日が高く昇ってから目覚めた私の世話をしてくれるセイにそう言うと、
「いいえ、大切なお勤めと思いますよ。」
と優しい言葉を掛けてくれる。
少しでも滋養を、とセイは沢山のご馳走を私とジンシの膳に並べ立てた。
「こんなに食べられないわ。」
「量ではありません、大切なのは質と数です!少しずつで構いません。」
セイはリーエンに甘いな、とジンシは笑って見ている。
カイの話によると、身籠れるのはひと月の間の僅か数日程なのだそうだ。
「三月もあったならば、このような無茶をお願いせずとも済んだのに、ひと月では予測が立てられません!」
と嘆いていた。
最後の月の道は?と聞かれ、覚えてないというと、それもまた呆れられたのだけれど。
早いうちに月の道が来たならばまた機会は巡ってくるらしいが、その後に来たらもう時間がないのだと教えられた。
「だから励みなされ。」
と謎の言葉を残して、カイは私の診察を終えた。
その日、部屋にいると珍しくハルが私の前に現れた。
1人の少女を連れている。ハルと同じかもう少し若いか。
「リンです。リーエン様の影となります。」
「私に影が付く?」
「はい。」
…なぜ?私は皇族ではないし、おそらく皇族にはならない。
しかし
「…帝の命令です。」
と言われる。
ようやく思い至る。
「私じゃなく、世継ぎの…ね。」
「はい、恐らく。」
まだいるかいないかさえもわからないのに…と思いながらも、逆らっても無意味だ。
少なくても私の命令ではこの少女は私から離れる事は出来ないのだから。
「…わかりました。宜しくお願いします。」
と頭を下げる。
しかし見上げた時にはもう2人の姿はなかった。
父とフーシン殿は朝一番で城に戻ったという。
フーシン殿とはあれから私は話をしていない。
ジンシは盲目的にフーシンという人を信じている。
8年…か。
まだジンシと出会って1年にも満たない私には及びも出来ない、長い時間を掛けて2人は絆を作ったに違いない。
私がセイを頼って信じているように。
でも!
あの日、瀕死で横たわっていたジンシを彼は知らない。
目覚めた時、すぐに迎えが来ると言っていたのはフーシン殿のことだったに違いない。そのジンシに私は冷たい宣告をさせられたのだ。あの落胆した顔をフーシン殿は知らない。
昨日だってそうだ。
せっかく得ていた穏やかな日々をわざわざ壊しにやって来た。
私は彼を許せないでいる。
ただそれでもジンシはまだフーシン殿を信じている。
…それがたまらなく切なかった。
こんな日が来るとは思わなかった。
運命を避けようと逃げていた私の前に突然現れた運命。
私はその運命を受け入れて、あえて「国を割る姫」になろうとしている。
「わからないものね…。」
誰に聞かせるわけでもなく、その言葉をそっと吐き出した。
0
お気に入りに追加
23
あなたにおすすめの小説
実家に帰ったら平民の子供に家を乗っ取られていた!両親も言いなりで欲しい物を何でも買い与える。
window
恋愛
リディア・ウィナードは上品で気高い公爵令嬢。現在16歳で学園で寮生活している。
そんな中、学園が夏休みに入り、久しぶりに生まれ育った故郷に帰ることに。リディアは尊敬する大好きな両親に会うのを楽しみにしていた。
しかし実家に帰ると家の様子がおかしい……?いつものように使用人達の出迎えがない。家に入ると正面に飾ってあったはずの大切な家族の肖像画がなくなっている。
不安な顔でリビングに入って行くと、知らない少女が高級なお菓子を行儀悪くガツガツ食べていた。
「私が好んで食べているスイーツをあんなに下品に……」
リディアの大好物でよく召し上がっているケーキにシュークリームにチョコレート。
幼く見えるので、おそらく年齢はリディアよりも少し年下だろう。驚いて思わず目を丸くしているとメイドに名前を呼ばれる。
平民に好き放題に家を引っかき回されて、遂にはリディアが変わり果てた姿で花と散る。
【魅了の令嬢】婚約者を簒奪された私。父も兄も激怒し徹底抗戦。我が家は連戦連敗。でも大逆転。王太子殿下は土下座いたしました。そして私は……。
川嶋マサヒロ
恋愛
「僕たちの婚約を破棄しよう」
愛しき婚約者は無情にも、予測していた言葉を口にした。
伯爵令嬢のバシュラール・ディアーヌは婚約破棄を宣告されてしまう。
「あの女のせいです」
兄は怒り――。
「それほどの話であったのか……」
――父は呆れた。
そして始まる貴族同士の駆け引き。
「ディアーヌの執務室だけど、引き払うように通達を出してくれ。彼女も今は、身の置き所がないだろうしね」
「我が家との取引を中止する? いつでも再開できるように、受け入れ体勢は維持するように」
「決闘か……、子供のころ以来だよ。ワクワクするなあ」
令嬢ディアーヌは、残酷な現実を覆せるのか?
【完結】私の婚約者の、自称健康な幼なじみ。
❄️冬は つとめて
恋愛
「ルミナス、済まない。カノンが……。」
「大丈夫ですの? カノン様は。」
「本当に済まない。、ルミナス。」
ルミナスの婚約者のオスカー伯爵令息は、何時ものように済まなそうな顔をして彼女に謝った。
「お兄様、ゴホッゴホッ。ルミナス様、ゴホッ。さあ、遊園地に行きましょ、ゴボッ!! 」
カノンは血を吐いた。
殿下!婚姻を無かった事にして下さい
ねむ太朗
恋愛
ミレリアが第一王子クロヴィスと結婚をして半年が経った。
最後に会ったのは二月前。今だに白い結婚のまま。
とうとうミレリアは婚姻の無効が成立するように奮闘することにした。
しかし、婚姻の無効が成立してから真実が明らかになり、ミレリアは後悔するのだった。
英雄の平凡な妻
矢野りと
恋愛
キャサリンは伯爵であるエドワードと結婚し、子供にも恵まれ仲睦まじく暮らしていた。その生活はおとぎ話の主人公みたいではないが、平凡で幸せに溢れた毎日であった。だがある日エドワードが『英雄』になってしまったことで事態は一変し二人は周りに翻弄されていく…。
※設定はゆるいです。
※作者の他作品『立派な王太子妃』の話も出ていますが、読まなくても大丈夫です。
白い結婚の王妃は離縁後に愉快そうに笑う。
三月べに
恋愛
事実ではない噂に惑わされた新国王と、二年だけの白い結婚が決まってしまい、王妃を務めた令嬢。
離縁を署名する神殿にて、別れられた瞬間。
「やったぁー!!!」
儚げな美しき元王妃は、喜びを爆発させて、両手を上げてクルクルと回った。
元夫となった国王と、嘲笑いに来た貴族達は唖然。
耐え忍んできた元王妃は、全てはただの噂だと、ネタバラシをした。
迎えに来たのは、隣国の魔法使い様。小さなダイアモンドが散りばめられた紺色のバラの花束を差し出して、彼は傅く。
(なろうにも、投稿)
どうやら断罪対象はわたくしのようです 〜わたくしを下級貴族と勘違いされているようですが、お覚悟はよろしくて?〜
水都 ミナト
恋愛
「ヴァネッサ・ユータカリア! お前をこの学園から追放する! そして数々の罪を償うため、牢に入ってもらう!」
わたくしが通うヒンスリー王国の王立学園の創立パーティにて、第一王子のオーマン様が高らかに宣言されました。
ヴァネッサとは、どうやらわたくしのことのようです。
なんということでしょう。
このおバカな王子様はわたくしが誰なのかご存知ないのですね。
せっかくなので何の証拠も確証もない彼のお話を聞いてみようと思います。
◇8000字程度の短編です
◇小説家になろうでも公開予定です
殿下には既に奥様がいらっしゃる様なので私は消える事にします
Karamimi
恋愛
公爵令嬢のアナスタシアは、毒を盛られて3年間眠り続けていた。そして3年後目を覚ますと、婚約者で王太子のルイスは親友のマルモットと結婚していた。さらに自分を毒殺した犯人は、家族以上に信頼していた、専属メイドのリーナだと聞かされる。
真実を知ったアナスタシアは、深いショックを受ける。追い打ちをかける様に、家族からは役立たずと罵られ、ルイスからは側室として迎える準備をしていると告げられた。
そして輿入れ前日、マルモットから恐ろしい真実を聞かされたアナスタシアは、生きる希望を失い、着の身着のまま屋敷から逃げ出したのだが…
7万文字くらいのお話です。
よろしくお願いいたしますm(__)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる