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今の城内

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ハル、という人から今の城内の様子が伝えられた。

「帝はたしかに臥せっておられます。しかし朱病ではなく太刀傷が原因です。」
帝が太刀傷…。謀反が起きたという事だった。

帝は軟禁され、実権は皇太子が握っている。
「…首謀者は?」
「皇太子と奥宮大夫です。」
「影は何故動かなかったのだ。」
「相討ちとなります故。」
申し訳ありません、とハルは頭を下げる。
「影」同士の討ち合いとなれば双方に被害が出る。よって皇族同士の争いは手を出さない。

殿下によると、皇太子に側女として侍っている者が奥宮大夫の娘だ。
「…わからない」
殿下が呻いた。
「兄はただ黙って待っていたら良かっただけの話なのに…。」

帝が皇太子を疎んじていた訳でも軽んじていた訳でもない…のに。
急がなくても待てば全てを手に入れていたのに、と。

「それは違います。」
ハルが補足し始めた。
「…おそらく、皇太子はお子が見込めません。」
皇太子となったものの、世継ぎが産まれなければ、ジンシの継承権放棄はない。
いつジンシにその地位を奪われるか、と弟の影に怯える暮らしが延々と続く。

「…なるほど。」
父が唸る。

私だけがポカンと阿呆面を晒している。

「お父さん、なおさらジンシ殿下を害するのがわからないわ。
血脈が途絶えても構わないという事なの?」

「…違う。ジンシ殿下は生きている。居場所もわかっている。」

つまり…。
「ハッキリと言う、皇太子はジンシ殿下の存在を無くし、そのまま種馬のように使い続けるつもりなのだろう。」
表向きジンシは死んだ。奥の宮にいる女が孕めば、それは皇太子のお子とされる。
そうしなければ産まれた子は皇族ではいられなくなるからだ。

「なぜそれを今、ここで告げるのだ。」
ハルを責める殿下の声が怖い。
「…自死されては困ります。それから子を為して貰わなければ…。
帝の…命令です。」

兄の意向に関わらず、皇族を維持する為にはジンシ殿下は子を為さなければならない。
それを帝は命じた。
「飲み込め、耐えろ。」と。
そう言う事だ。

「そんな!酷い!あんまりだわ!」

皇太子の身体的な事を責めても仕方がない、出来ないものは出来ない。
だったらせめて全てを曝け出して、ジンシに請わねばならない筈だ。
最大限の尊厳を与えて、「国の為に、子を作ってくれ。」と、頭を下げるべきだ。

「そんなに簡単な事ではない。」
リーエンを諌めたのは他ならない殿下だった。

「そんな事をすれば、臣下が割れる。」
「確かに…。」
父が納得して首を振っている。

「なんで!なんで!私にはわからないわ!」

もう2人の皇子が決裂しているのに!臣下が割れる心配なんてしている場合じゃないのに!

これ以上ここに居るのには耐えられない、
病み明けの殿下にこんな非情な話をされて溜まるか!
リーエンは部屋を飛び出した。
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