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父娘の会話

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「…ったく。大人しくしておけと言っただろうに!」
「…私は悪くないわ!」

苦虫を完全に噛み潰したとしか思えない父の謂れのない叱責に、リーエンは唇を尖らせた。

「そうではない、お前が戦いに出る必要は無かった、そう言っている。」
「…だって。」

侵入者がリュウやシーフォンに向かって爆弾を投げたのだと思ったのだから、仕方がないじゃないの!

「…全く。少しは大人しくしてろ!戦うために武芸を教えたんじゃない!」
間もなく成人しようかという娘が、剣を片手に侵入者と対峙するなんて!と、ディバルは溜息をつく。

「…それで?あの人は?」
「カイに診させている。命は繋げそうだ。」
「…良かったです。」

…幸いだった。
まさか第二皇子を敷地内で死なせるような事になっては、さすがの父でさえも首が胴から離れただろう。
可哀想だが、あの馬はその場で安楽死させた。

とりあえず手当てを、と屋敷に運び入れて、濡れた服を脱がせた時、皆に衝撃が走った。
「…龍の印!」
背中にくっきりと残る焼印を見て、駆けつけた医師のカイが叫んだ。

神獣の印は皇族の証、皇子は背に、皇女は腰に焼印を施される。

龍は第二皇子ジンシ殿下の印。
なぜここに第二皇子がいて、手練に襲われたのか見当もつかない。

まずは治療、それから父に連絡を。

慌てて駆けつけてきた父にリーエンは叱り飛ばされたところである。

「何のためにここに居を構えたと言うのか!全く持って忌々しい!
いいか!リーエンは殿下の前に姿を見せるな!」
「…誰が看るのですか!」
憮然と答える。
高貴なる人の世話を童のセイに任せる訳にも、リュウやシーフォンら武人にさせる訳にもいかないのに。
この山荘には後は下働きの女しかいない。

「…仕方ない、とりあえずジャンに任せよ。」
父はため息をつく。
ジャンとはリーエンの仮の男姿である。
「…かしこまりました。」

「…直ぐに屋敷から誰か寄越す。
とりあえず城へ戻り、龍の宮へ伝えねばなるまい、後は頼む。」

ディバルはそう言い残して一旦山荘から離れた。

「…そんなこと言ったって、向こうから勝手に来たんじゃない!」
リーエンの愚痴は止まらなかった。

そもそも、フキ様の先読みでリーエンは「国を割る姫」と言われたのだ。

「殺されなかっただけマシだ。」
と両親は都落ちを受け入れた。
手折れ!とまで言われたリーエンの命を救ったのは帝だと聞いている。

女1人に何が出来ようものか、と帝は仰ったそうだけれど…。
もし先読みが当たるとすれば…。
様々な道筋を想像してきた。
そしてそれは2人の皇子による内乱である、と父母は予測した。

どういう理由かはわからないが、リーエンがその2人の導火線に火をつけるとすれば、「国を割る姫」となり得るのかもしれない。

「決して皇子に出会わせてはならない。」
運命に逆らえる策があるのだすれば、これしかない。

だからディバルはリーエンを連れて城に入る事を迷ったし、宰相もそれを認め、異例の別居に至ったのだ。

「…でも向こうから来ちゃうなんて!」

…これが運命の環の始まりでない事を祈るしかない。

ジャンとして接し、傷が癒えたらさっさと城にお引き取り願うしかない。
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