種の期限

ながい としゆき

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二日目

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 総理大臣に呼ばれて五分後に執務室に現れた官房長官も、神武天皇を名乗る男を見て驚きの表情を隠せないでいた。目と口が大きく開かれており、言葉がなかなか出てこない。対面に座っている男と見比べてみても器の大きさは歴然としていた。
「セキュリティーで守られているここに、ど、どうやって入ってきたのですか?」
官房長官が来たことによって少し落ち着きを取り戻した総理が尋ねた。
「余は天の御心によってここにおる。であるから何人(なんびと)も余を妨げることはできぬ」
男は深々とソファに身を沈めながら落ち着いた口調で答えた。
「扉も窓も閉まっていたはずだ。入ってこられるはずがない。どこから来て、どんなトリックを使ったんだ?」
「余がここにいるのは天の御心である」
男は天を指差しながら答えた。
「天・・・?」
「さよう。天だ」
今度は目線も上に向けた。総理も官房長官もつられて上を見たが、そこには傷ひとつない天井があるだけだった。
「ありえない・・・」
官房長官がようやく口を動かした。
「現に余はそなた達の前にこうして居るではないか」
総理も官房長官も汗だくになりながら、拭ききれない汗をほとんどびしょ濡れで役に立たないハンカチで顔を拭っている。
「突然目の前に現れて、あなたが神武天皇だと信じられると思うか?も、もし神武天皇本人だとして、伝説上の人物で実在しないと言われている人間を本物だという証拠があるだろうか?」
「何をもって証明すれば良い?父の名を言えば良いか?それとも妻の名か?東に都を移した時に案内した八咫烏を連れてくれば良いか?」
「どれを証拠だといって見せられたとしても、我々にとっては遥か昔のことだしどれも見たことがないので信じることができない」
「だとしたら、余がここに居ることが何よりの証拠にはならぬのか?」
言葉でのやり取りが官房長官に余裕を与えたようだ。総理に目配せした後、スッと席を立ち、執務室の机にあるセキュリティーボタンを押した。
「まもなく警備員達が来ます。我々は神武天皇を騙るような不届き者と話をする時間はない。政務に忙しいんだ。早く出て行きたまえ」
男の方を向き、勝ち誇った声で扉を指差した。
 ところが十分経っても二十分経っても警備員が来ることはなかった。官房長官はその間何度もボタンを押し続けたが、何の反応もない。官房長官の顔から大粒の汗が執務机の上にしたたり落ちている。
「余がここにいるのは天の御心だと先程も申したではないか。無駄な試みなどせずに座ったらどうかね」
男はいよいよ冷静な声で官房長官に語りかける。
「その方が政務にかかるそなた達の貴重な時間を無駄に費やさずにすむと思うがね」
官房長官は蒼ざめた顔をうなだれながら男の前に腰を下ろした。
 男は総理と官房長官を交互に見つめながら落ち着いた口調で口を開いた。
「そろそろ本題に入っても良いかな?」
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