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第二話 命の代償

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 中学二年になった時は、両親も先生も進路のことは僕に何も言わなくなった。腫れ物に触るように僕に気を遣っているのがわかる。僕は申し訳ない気持ちでいっぱいだったけど、あの夜の女の人のスカートの中が脳裏に鮮明に焼きついていて、僕自身もどうして良いかわからない状態だった。
 勉強できる仲間から付き合う友だちも変わってしまって、クラスでも僕を持て余している感じがしていた。
 その頃の僕は女の人の胸はどのくらい柔らかいのか、どのくらい張っているのかとか、写真では股間をぼかしてあるけど本当はどうなっているのかとかが気になっていた。でも、確かめる勇気が出ないでモンモンとした日常を送っていた。
 そんな時、理科の授業で行なった実験を観察するためにグループのみんなが机の周りに集まった時、僕の後ろから女子が覗いてきた。同じグループの山本順子だ。ちょっとポッチャリしていて、胸の大きな女子だ。僕は思わず肘を曲げて順子の胸に肘先が触れるようにした。柔らかさを無意識に確かめようとしたんだと思うけど、
「痛い・・・」
と言って順子はその場にうずくまってしまった。みんなも観察するどころではなくなって、僕と順子の周りに集まってくる。
「ちょっと葉山くん、あんた!ワザとに突き倒したんじゃないでしょうね!」
親友の橘ゆかりが僕に向かって声を荒げた。
「女の子の身体はデリケートなんだからね!何かあったらごめんじゃすまないんだから!」
「ご、ごめん・・・。後ろにいるって知らなかったんだ・・・」
 ゆかりは僕の言葉も聞かずに、うずくまっている山本順子に優しく声をかけている。彼女は目に涙を溜めながら、起き上がろうとゆかりの肩をつかんだ。
「ごめん・・・、本当にごめんね・・・」
僕は『ごめん』を繰り返すことしかできなかった。興味本位でとった行動に対する後悔とみんなの目に晒されている恥ずかしさとで心臓の鼓動が早くなっていく。
 順子はゆかりに支えられて立ち上がりながら、僕の方を見て微笑んだ。
「ううん、葉山くん、わざとにやったんじゃないのは知ってるから」
そう言ってくれたけど、顔色は真っ蒼で涙ぐんでいるようすは全然大丈夫そうには見えなかった。順子は先生の指示でゆかりに連れられて保健室で休むことになった。
 そんなに力を入れて肘を曲げた訳じゃなかったけど、僕は胸が女性の急所のひとつだって言うことがわかっていなかった。スッゴク後悔したけれど、順子の胸が柔らかかった感覚ははっきりと覚えている。でも、順子のことを心配しながらそんなことを同時に考えている自分がとっても嫌だったのも事実。
「おまえ、ホントはワザとやったんだろ?」
隣にいた佐藤大吾が耳元でささやいた。
「な、ナニ言ってんの?そんな訳ないだろ」
僕も小声で返した。
「誰にも言わないからホントのこと教えろ。確かめたかったんだろ?で、どんなだった?柔らかかったか?」
ニヤニヤしながら聞いてくる。
「俺もやろうと思ってたんだけどよ、お前に先越されちまったよ。マジメくん、なかなか隅に置けないね、へへへ・・・」
と肩を抱いてくる。
「やめろよ、そんなんじゃないったら」
小声で大吾の腕を振りほどいたけど、あいつはニヤニヤしながら僕の方をいつまでも見ていた。
 幸い順子はその時間休んでいれば大丈夫だったようで、次の時間からは教室に戻って授業を受けていたので僕はホッとした。怪我なんかさせていたら、ただでさえ両親に心配かけているのにこれ以上迷惑かけれないからね。特にお母さんは寝込んでしまうかもしれないし。
 ただ、それから大吾とは目が合うようになり、そのたびにニヤニヤと嫌な笑いを見せるようになった。彼はクラスでは面白いことを言ってみんなを笑わせているヤツだったから、男女を問わず人気がある。だから、別に気にしなくても良かったんだろうけど、その頃の僕は誰にも言えない『秘密』を知られてしまったような感覚で、そいつに心の中を見透かされているような気がしていた。だから、大吾が他の人と笑っているところを見かけると僕の秘密をバラされているような感覚に陥っていた。
 こうやって話していると、妄想がだんだん膨らんでいっただけなんじゃないかって思うけど、その時はあいつと目が合うたびに生きた心地がしなかった。皮肉にもあいつだけが僕の心の中を覗くことができたんだ。両親や先生たちも心配してくれていたけど、それは僕の成績が落ちたからだった。親身になってくれてはいたけど、それは元の成績に戻そうとするためだって僕にはわかっていた。だから、誰にも打ち明けられなかったし、誰も信用できなかった。決していじめられていた訳じゃないんだけど、そうやって僕の心はだんだん追い詰められていった。
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