上 下
303 / 344
第四十二話「自衛官の反撃について」

増援への対抗策

しおりを挟む
 救出される側であるはずの年少組が、テロリストを殲滅していた頃。市街地やホテル近辺で敵AMWを処理し終えたTk-7小隊が、念のため、周囲を警戒しながら次の指示を待っていた。

「あとは部隊長からの連絡を待つだけだな」

『だが、AMWの数だけは揃えてた連中だ。苦戦しているかもしれんな』

『いっそ、自分たちで直接援護に向かいますか? 榴弾を叩き込めば一発で終わりますよ』

『アホ、部隊長たちが巻き添え食うだろうが』

 隊員たちがそのように軽口を叩きながら雑談に興じていると、通信を受信したことを告げる表示がスクリーンに映った。しかし、それは部隊長からではなく、駐屯地からの通信であった。
 何故駐屯地から、そう陸尉が怪訝に思っていると「小隊各位へ」と、通信士が切り出した。

『先程、レーダーサイトから情報が入りました。海上を高速で移動する飛行物体を三機確認。全てこちらに向かってきているとのことです。到着予定は約十二分後と予測されました』

『おいおい、それってまさか……あれじゃないだろうな?』

 隊長機、Rallidae1が言った“あれ”の予想がついたのか、他の隊員たちの顔が強ばり、通信を聞いていた陸尉は「マジか」と呟く。そして、通信士が無情にもその予想が当たっていることを告げた。

『お察しの通り、照合データや挙動から、これらはOFMだと断定されました。目的は不明ですが、そちらに向かっている以上、今回のテロ事件に何らかの形で関わっている。というのが、陸佐らの総意見です』

 そんなの、駐屯地の佐官連中でなくとも思い浮かぶ。その場にいた全員が同じことを思った。

『……ともかく、連中がテロリストに加担していると想定すると、目的は日比野三曹の身柄という可能性が高いと、そういうことなんだな?』

『陸佐たちはそうだろうと見ています』

 小隊長に通信士が同意する。あいつは本当にどこまでヒロイン体質なんだ。またしても、その場にいた全員が同じことを思った。
 そんな現場の気持ちを知ってか知らでか、通信機から流れたため息をスルーして、通信士が伝言を述べる。

『それでは指示を示します。“対抗策を特急便で送るので、それが届くまで現状の装備で抑え、用意が出来次第敵勢力を殲滅せよ”とのこと。よろしいですか』

 つまりは、現状の装備で敵の増援を叩けということだった。これがただのAMWが相手ならば、何の問題もないが、OFMとなれば話は別である。通常装備で相手をするのは、かなり難しい。
 いっそのこと、対象と周辺住民を避難させてしまえば、と陸尉が一瞬考えた。だが、それは不可能だとすぐに思い直す。残り僅か十分で、住民や観光客の避難を完了させるのは不可能に近い。それもこんな夜更けである。その上、比乃を隠れさせたからと言って、相手がはいそうですかと帰るわけがないのだ。

 そのことを十分にわかっている小隊長は、具申もせずにその指示を了承した。

『よろしいも何も、やらなければならないだろう。Rallidae1了解。Komadori隊、聞いてたよな?』

 ホテル周辺で話を聞いていたであろうもう一つの小隊が『当然だ』と返事をした。

『あまりよくないニュースだが、やるしかないだろうな。我々はこのままホテル周辺で待ち伏せる。こちらは近接戦用の装備しかないのでな』

『了解、こちらが表立って受ける役回りでいこう』

『戦闘規程は、住民に被害を出さない限りはオールフリーとします。それでは装備の射出準備に入ります。到着は――』

 そこまでの会話を黙って聞いていた陸尉としては、危険な役回りは御免被りたいのが本音であった。けれども、小隊長がそう決めてしまったのなら仕方がない、戦場において、小隊は一蓮托生なのである。陸尉は諦めて、精々の意思表示としてTk-7の肩を竦ませる。

『小隊各機、フォーメーションBでいくぞ……Rallidae4、やる気を出せよ』

 その仕草を目敏く見ていた小隊長に見せつけるように、陸尉の機体が砲身が長いライフルを掲げてやる気をアピールする。

「Rallidae4了解しましたよっと、やれやれ、機士は辛いな」

 陸尉の最後の呟きには、その場にいた全員が同意した。

 ***

 機士たちが行動を開始したのと同時刻。
 テロリストを全員行動不能にしてハイエースに叩き込んだ比乃たちの前で、通信機に耳を預けていた部隊長が、深刻そうな表情を浮かべた。先程、Tk-7隊が聞いたのと同じ内容の報告を受けたのだ。

「まったく、これで作戦はほぼ終了。あとは残党を捜索して終わり……と行きたかったんだがな」

 思わず口から漏れた言葉と部隊長の表情に、そこにいた全員が察した。まだ、もう一悶着あるのだと。

「何かあったんですか?」

 誰よりも先に口を出した比乃の問いに、部隊長は少し考えてから「いや、お前らは気にするな」と答えた。
 ここで「今度はOFMがお前を狙って襲ってきた」と正直に言ったら、この小さい自衛官は、自分の身を犠牲にして被害を抑えるなどと言い出しかねない。

「今日のお前らは非番の、更に言えばただの観光客だ。民間人をこれ以上作戦に関わらせるわけにはいかん」

「ですけど……」

 部隊長の拒絶に、それでも食い下がろうとする比乃に、今度は安久が告げる。

「冷静になれ比乃。機体も装備も何もないお前たちに何ができる。それに、敵の狙いはお前だ。態々、敵の前に人参をぶら下げる必要はない」

「そうそう、ここは私たちに任せて、早くお友達の所に戻りなさいな」

 宇佐美にまで言われ、比乃は悔しさを表すように俯いて下唇を噛んだ。
 何かしら、問題が発生したのは間違いない。それならば、ただ助けられる側になっているわけにはいかない。比乃はそう考えた。

 それに、自分も自衛官であるし、安久たちのチームメイトである。そのはずなのに、今は何の助力にもならない。それが辛かった。
 しかし、比乃はすぐに顔を上げる。その表情には、すでに個人的な感情は出ていなかった。

「了解しました。何が起きているのかはわかりませんが、部隊長たちも無茶はしないでください」

「無茶しなくて済むならな。さ、そろそろ友達たちも心配するぞ」

 手をぷらぷら振って「戻れ戻れ」と促す部隊長に敬礼してみせてから、比乃は心視と志度を連れ添ってエレベータに乗った。その扉が閉まると、部隊長は大きく息を吐く。
 それから、安久と宇佐美に向き直る。

「でだ。お前らもなんとなく察しただろうがな、敵の増援だ」

「規模と内容は?」

 安久が即座に質問する。こいつらの肝の据わり方は心強いよな、と部隊長は部下を内心で評して、告げる。

「聞いて驚け、OFMが三機。まっすぐこちらに向かってきているとのことだ」

 部隊長は、もはや笑うしかないとばかりに口元を歪めた。

「それは、なんとも」

「自惚れじゃないですけど、私たちがTk-7乗ってた方がよかったかもですね」

「まったくだ。奴らが関わってるとは流石に想像できなかったが、俺の判断ミスだな」

 宇佐美の言うことも、もっともであった。あの難敵を相手に、通常装備のAMWで対抗するのは非常に困難だというのは、関係者全員の共通認識であった。それ故に――

「だからこそ、備えもちゃんとしていたということを、奴らに思い知らせてやるか」

 部隊長が、口元を更に曲げて、不敵な笑みを浮かべた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

英雄召喚〜帝国貴族の異世界統一戦記〜

駄作ハル
ファンタジー
異世界の大貴族レオ=ウィルフリードとして転生した平凡サラリーマン。 しかし、待っていたのは平和な日常などではなかった。急速な領土拡大を目論む帝国の貴族としての日々は、戦いの連続であった─── そんなレオに与えられたスキル『英雄召喚』。それは現世で英雄と呼ばれる人々を呼び出す能力。『鬼の副長』土方歳三、『臥龍』所轄孔明、『空の魔王』ハンス=ウルリッヒ・ルーデル、『革命の申し子』ナポレオン・ボナパルト、『万能人』レオナルド・ダ・ヴィンチ。 前世からの知識と英雄たちの逸話にまつわる能力を使い、大切な人を守るべく争いにまみれた異世界に平和をもたらす為の戦いが幕を開ける! 完結まで毎日投稿!

サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由

フルーツパフェ
大衆娯楽
 クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。  トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。  いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。  考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。  赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。  言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。  たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
故郷、甲賀で騒動を起こし、国を追われるようにして出奔した 若き日の滝川一益と滝川義太夫、 尾張に流れ着いた二人は織田信長に会い、織田家の一員として 天下布武の一役を担う。二人をとりまく織田家の人々のそれぞれの思惑が からみ、紆余曲折しながらも一益がたどり着く先はどこなのか。

宇宙人へのレポート

廣瀬純一
SF
宇宙人に体を入れ替えられた大学生の男女の話

悠久の機甲歩兵

竹氏
ファンタジー
文明が崩壊してから800年。文化や技術がリセットされた世界に、その理由を知っている人間は居なくなっていた。 彼はその世界で目覚めた。綻びだらけの太古の文明の記憶と機甲歩兵マキナを操る技術を持って。 文明が崩壊し変わり果てた世界で彼は生きる。今は放浪者として。 ※現在毎日更新中

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

処理中です...