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第四十二話「自衛官の反撃について」

増援への対抗策

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 救出される側であるはずの年少組が、テロリストを殲滅していた頃。市街地やホテル近辺で敵AMWを処理し終えたTk-7小隊が、念のため、周囲を警戒しながら次の指示を待っていた。

「あとは部隊長からの連絡を待つだけだな」

『だが、AMWの数だけは揃えてた連中だ。苦戦しているかもしれんな』

『いっそ、自分たちで直接援護に向かいますか? 榴弾を叩き込めば一発で終わりますよ』

『アホ、部隊長たちが巻き添え食うだろうが』

 隊員たちがそのように軽口を叩きながら雑談に興じていると、通信を受信したことを告げる表示がスクリーンに映った。しかし、それは部隊長からではなく、駐屯地からの通信であった。
 何故駐屯地から、そう陸尉が怪訝に思っていると「小隊各位へ」と、通信士が切り出した。

『先程、レーダーサイトから情報が入りました。海上を高速で移動する飛行物体を三機確認。全てこちらに向かってきているとのことです。到着予定は約十二分後と予測されました』

『おいおい、それってまさか……あれじゃないだろうな?』

 隊長機、Rallidae1が言った“あれ”の予想がついたのか、他の隊員たちの顔が強ばり、通信を聞いていた陸尉は「マジか」と呟く。そして、通信士が無情にもその予想が当たっていることを告げた。

『お察しの通り、照合データや挙動から、これらはOFMだと断定されました。目的は不明ですが、そちらに向かっている以上、今回のテロ事件に何らかの形で関わっている。というのが、陸佐らの総意見です』

 そんなの、駐屯地の佐官連中でなくとも思い浮かぶ。その場にいた全員が同じことを思った。

『……ともかく、連中がテロリストに加担していると想定すると、目的は日比野三曹の身柄という可能性が高いと、そういうことなんだな?』

『陸佐たちはそうだろうと見ています』

 小隊長に通信士が同意する。あいつは本当にどこまでヒロイン体質なんだ。またしても、その場にいた全員が同じことを思った。
 そんな現場の気持ちを知ってか知らでか、通信機から流れたため息をスルーして、通信士が伝言を述べる。

『それでは指示を示します。“対抗策を特急便で送るので、それが届くまで現状の装備で抑え、用意が出来次第敵勢力を殲滅せよ”とのこと。よろしいですか』

 つまりは、現状の装備で敵の増援を叩けということだった。これがただのAMWが相手ならば、何の問題もないが、OFMとなれば話は別である。通常装備で相手をするのは、かなり難しい。
 いっそのこと、対象と周辺住民を避難させてしまえば、と陸尉が一瞬考えた。だが、それは不可能だとすぐに思い直す。残り僅か十分で、住民や観光客の避難を完了させるのは不可能に近い。それもこんな夜更けである。その上、比乃を隠れさせたからと言って、相手がはいそうですかと帰るわけがないのだ。

 そのことを十分にわかっている小隊長は、具申もせずにその指示を了承した。

『よろしいも何も、やらなければならないだろう。Rallidae1了解。Komadori隊、聞いてたよな?』

 ホテル周辺で話を聞いていたであろうもう一つの小隊が『当然だ』と返事をした。

『あまりよくないニュースだが、やるしかないだろうな。我々はこのままホテル周辺で待ち伏せる。こちらは近接戦用の装備しかないのでな』

『了解、こちらが表立って受ける役回りでいこう』

『戦闘規程は、住民に被害を出さない限りはオールフリーとします。それでは装備の射出準備に入ります。到着は――』

 そこまでの会話を黙って聞いていた陸尉としては、危険な役回りは御免被りたいのが本音であった。けれども、小隊長がそう決めてしまったのなら仕方がない、戦場において、小隊は一蓮托生なのである。陸尉は諦めて、精々の意思表示としてTk-7の肩を竦ませる。

『小隊各機、フォーメーションBでいくぞ……Rallidae4、やる気を出せよ』

 その仕草を目敏く見ていた小隊長に見せつけるように、陸尉の機体が砲身が長いライフルを掲げてやる気をアピールする。

「Rallidae4了解しましたよっと、やれやれ、機士は辛いな」

 陸尉の最後の呟きには、その場にいた全員が同意した。

 ***

 機士たちが行動を開始したのと同時刻。
 テロリストを全員行動不能にしてハイエースに叩き込んだ比乃たちの前で、通信機に耳を預けていた部隊長が、深刻そうな表情を浮かべた。先程、Tk-7隊が聞いたのと同じ内容の報告を受けたのだ。

「まったく、これで作戦はほぼ終了。あとは残党を捜索して終わり……と行きたかったんだがな」

 思わず口から漏れた言葉と部隊長の表情に、そこにいた全員が察した。まだ、もう一悶着あるのだと。

「何かあったんですか?」

 誰よりも先に口を出した比乃の問いに、部隊長は少し考えてから「いや、お前らは気にするな」と答えた。
 ここで「今度はOFMがお前を狙って襲ってきた」と正直に言ったら、この小さい自衛官は、自分の身を犠牲にして被害を抑えるなどと言い出しかねない。

「今日のお前らは非番の、更に言えばただの観光客だ。民間人をこれ以上作戦に関わらせるわけにはいかん」

「ですけど……」

 部隊長の拒絶に、それでも食い下がろうとする比乃に、今度は安久が告げる。

「冷静になれ比乃。機体も装備も何もないお前たちに何ができる。それに、敵の狙いはお前だ。態々、敵の前に人参をぶら下げる必要はない」

「そうそう、ここは私たちに任せて、早くお友達の所に戻りなさいな」

 宇佐美にまで言われ、比乃は悔しさを表すように俯いて下唇を噛んだ。
 何かしら、問題が発生したのは間違いない。それならば、ただ助けられる側になっているわけにはいかない。比乃はそう考えた。

 それに、自分も自衛官であるし、安久たちのチームメイトである。そのはずなのに、今は何の助力にもならない。それが辛かった。
 しかし、比乃はすぐに顔を上げる。その表情には、すでに個人的な感情は出ていなかった。

「了解しました。何が起きているのかはわかりませんが、部隊長たちも無茶はしないでください」

「無茶しなくて済むならな。さ、そろそろ友達たちも心配するぞ」

 手をぷらぷら振って「戻れ戻れ」と促す部隊長に敬礼してみせてから、比乃は心視と志度を連れ添ってエレベータに乗った。その扉が閉まると、部隊長は大きく息を吐く。
 それから、安久と宇佐美に向き直る。

「でだ。お前らもなんとなく察しただろうがな、敵の増援だ」

「規模と内容は?」

 安久が即座に質問する。こいつらの肝の据わり方は心強いよな、と部隊長は部下を内心で評して、告げる。

「聞いて驚け、OFMが三機。まっすぐこちらに向かってきているとのことだ」

 部隊長は、もはや笑うしかないとばかりに口元を歪めた。

「それは、なんとも」

「自惚れじゃないですけど、私たちがTk-7乗ってた方がよかったかもですね」

「まったくだ。奴らが関わってるとは流石に想像できなかったが、俺の判断ミスだな」

 宇佐美の言うことも、もっともであった。あの難敵を相手に、通常装備のAMWで対抗するのは非常に困難だというのは、関係者全員の共通認識であった。それ故に――

「だからこそ、備えもちゃんとしていたということを、奴らに思い知らせてやるか」

 部隊長が、口元を更に曲げて、不敵な笑みを浮かべた。
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